「本気かトランプ」

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本気かトランプ、自動車の燃費基準をあっさり撤回。環境より米国経済優先が鮮明に

トランプ政権が自動車の燃費基準「撤廃」を提案するなど、経済合理性から環境規制コストを避ける流れが来ている。人類の未来や真のコストを考えると、本当に合理的だろうか。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)

環境を守るコストなど知れたもの。いまケチると、将来の大損害に
企業のコストは、最終的に消費者が負担する

温室効果ガスの排出量規制や自動車の燃費基準など「環境規制のコスト」は、商品価格の上昇を通じて、結局は消費者の負担になるという。

そうした考えに加え、企業向けの選挙公約から、米トランプ大統領は「パリ協定」から離脱。米国内でも自動車の燃費基準を撤回すると発表した。

現行の米国の燃費基準はオバマ前政権下の2012年に定められたもの。適用期間は17~25年で、乗用車については2025年までに燃費を17年比で約3割改善するよう求めている。達成できなければ罰金が課されるという内容だ。

また、カリフォルニア州などが独自に定めていた燃費規制も、連邦法が優先するとして、廃止に向けた交渉を始める。

一方、2020年1月から世界一斉にスタートする船舶の燃料規制も、世界の物流ネットワークを揺さぶる課題として浮上。日本国内でも人手不足と相まって物流危機が深刻化するとされている。

こちらも、問題はコストの急増だ。
物流コストの増加に苦しむ一般市民

日本の経済政策の目標は物価を上げることだが、実際にモノやサービスの値段が上がると困るのは消費者である。
例えば、米国ではガソリン価格の値上がりは消費増税に匹敵するとして、経済成長の阻害要因として認識されている。

物価上昇と消費増税とが、日本に最も必要なものと考えている政府や識者たちは、どこでそうした考え方を仕入れたのだろうか?
それはともかく、自動車や船舶といった交通運輸のコスト増が、物価上昇を通じて、消費者負担につながるのは事実だ。

物流危機について、日経新聞は次のように書いている。

あるゆる船舶が対象となる。この規制をクリアーするための方法は次の3つだ。
(1)硫黄分を現在の3.5%から0.5%に引き下げた、低サルファと呼ばれる「適合油」に切り替える。
(2)従来の高サルファ重油を使い続けるが、スクラバーと呼ばれる排ガス浄化装置を取りつけ、船上で排ガスを脱硫する。
(3)燃料を重油から天然ガスに切り替える――。これは二酸化炭素の排出抑制効果も期待できるが、液化天然ガスを保管する冷蔵設備を船上に設け、エンジンも新型に切り替える必要があるので、大型の新造船に限った選択肢となる。<中略>

内航会社にはとても手が出ない。残るのは「適合油」を使う(1)しかない。<中略>

問題は「適合油」の価格と供給量だ。<中略>

内航海運は日本経済や日々の生活を支える「見えざるインフラ」である。国内物流の輸送機関別シェア(トン・キロベース)では自動車(トラック)の50.9%に次いで、43.7%を占める2位だ。なかでもセメントや石油、鉄鋼の国内物流のほとんどは内航海運に依存しており、基礎資材の物流は海なしでは成り立たない

出典:海運の憂鬱 硫黄のハードル、石油再編の呪縛 – 日経新聞(2018年8月2日配信)

この基準を満たす「適合油」を使うことで上乗せされるコストは、そのまま消費者が負担することになる。かと言って、このコストを避けることは必ずしも正解だろうか?

気候変動自体がコスト増を招く。失われる人命こそが大きな損失だ

そうした環境規制のコストに対して、「気候変動のコスト」の方がより深刻だとする見方をウォールストリート・ジャーナルが掲載しているので紹介する。

ここ数週間、焼けつくような熱波が太平洋北西部から北欧まで世界各地を襲っている。特に悲惨なのは日本で、高齢者を中心に100人以上が死亡した。

よく言われるように、一つの事象と気候変動を明確に関連づけることはできない。それでも今後1世紀の間に起きるかもしれない不安な状況を日本の事例からうかがい知ることができる。<中略>

2099年には気温上昇によって世界で1年間に死亡する人の数は今よりも150万人多くなる。対比として挙げたいのは、2013年に交通事故で死亡した人の数で、それは125万人だった。

さらに、社会の順応によってエアコン設置の増加や屋外活動の抑制など経済的な損失が発生する。シカゴ大学のマイケル・グリーンストーン氏らの研究によると、こうした取り組みにかかるコストが実質的に、気候温暖化による暑さによるコストの2倍以上になると見積もっている。

気候変動は、海面上昇や作物生産高の変動、干ばつ、人の移動、潜在的な社会不安などさまざまな影響を及ぼす可能性があるが、この研究では暑さだけを検討した。

気候変動のコスト、人命に換算するとどうなる

とくに暑さに苦しむのは高齢者。日本社会が世界の研究対象に…
そして、世界は未来の「高齢化社会モデル」として日本を見ているようだ。

過度な暑さはとくに64歳を超える人にとっては、脳や腎臓の損傷や心循環系ストレスにつながる可能性がある。
日本の経験が重要なのはこのためだ。日本は高齢化社会で、世界の他の地域も今後一世紀の間に着実に高齢化するからだ。

さらに、より大きな被害を受ける地域についても言及されている。
驚くまでもないが、より裕福な地域の状況は悪くない。

テキサス州ヒューストンでは、1日の平均気温がセ氏20度の「普通」の日と比べて、35度を超える日が1日増えるごとに10万人当たりの年間の死者数は0.5増える。

一方、暑さはヒューストンと同じくらいだが、豊かさでは10分の1のカイロでは、暑い日が1日増えれば、死者数はヒューストンの10倍近いスピードで増える。<中略>

さらに驚くべきことに、気候が温暖な地域はあまりいい結果にはなっていない。暑さに慣れていないからだ。エアコンがある家がほとんどなく、人が屋外で過ごす時間も長いため、暑い日が1日増えたときの死者数の増加ペースはヒューストンの7倍になる。

研究によると、炭素排出量を減らさない限り、暑さによる死亡者は増え続けるという。具体的に2099年にはどれくらい暑くなるのか。またそのコストはいかほどなのだろうか。

2099年、世界の気温はどうなる? お金で買えない代償も…

今世紀中に気温は4℃上昇。暑さによる死亡者が増え続ける

科学の世界では、炭素排出量を減らす取り組みがなければ、世界の気温は2099年までにセ氏で4度上昇するとの見方で一致している。

研究では気温が4度上昇した場合の影響を予測するために上記の関連性を活用した。

経済成長と順応による恩恵がなかったとすると、死者数は10万人当たり125人増加し、世界全体では1400万人増える。所得増を織り込んだ場合では、10万人当たりの死者数の増加幅は44人にまで減少し、屋内にとどまるなどの適応行動を含めると、増加数は10万当たりで13人、全体では約150万人に減る。

気候変動のコスト、人命に換算するとどうなる

損害は人が死ぬことにとどまらない

暑さは死亡者が増えるだけにとどまらない。次に、気候変動による具体的なコスト(損失)について書かれた箇所を紹介したい。

損害は人が死ぬことにとどまらない。

社会が暑さに適応することで救われる命もあるが、資金と労力が必要で、歯の手入れや休暇など他の活動に回らなくなる。こうしたコストは気候変動の影響に織り込むべきだ。

新たな安全規則を評価する規制当局は人間の命を金額で表現することが多いが、この研究の執筆陣はそれとは逆に、順応のコストを死者数で表した。研究によると、死者数への影響は差し引きで10万人当たり35人、全体でおよそ390万人の増加となる。

主執筆者の一人のグリーンストーン氏によると、研究結果をよく使われるモデルで計算すれば、二酸化炭素が1トン増えることで生じる暑さ関連のコストは39ドルだという。

これは1.5ドル前後という現在の推計を大幅に上回る。グリーンストーン氏はバラク・オバマ前政権下で炭素の社会的コストの推計をまとめた経験がある。

研究は、共和党のカルロス・クルベーロ下院議員(フロリダ州選出)が最近提案した、1トン当たり24ドルを上回る「炭素税」も妥当だと示唆している

異常な暑さが奪う「人命」というコスト

紹介した記事の冒頭に「特に悲惨なのは日本で、高齢者を中心に100人以上が死亡した」とあるが、これは熱中症での人命コストだ。

気候変動のコストに、台風や大雨、高潮などを含めると、人命コストだけでも数倍以上に跳ね上がる。そこに経済的な損失や、復興への長い道のりや、心身に残された傷などを加えて行くと、その「損失」ははかり知れないものになっていく。

「人命を救う」ための環境規制コストなら安いもの

そうした生き方そのものを揺さぶるコストに比べれば、環境規制のコストなど、簡単に乗り越えられるコストではないのか?

一方、ニューヨークタイムズは、気候変動のコストは何年も前に分かっていたことで、その気になれば、気候変動は抑えられたとの特集記事を載せている。

これは重い。

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