「質問主意書」

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UFOやムーミンも、新人議員「質問主意書」のトンデモ内容

国会議員が国政について政府の考えや見解を書面で尋ねることができる質問主意書について、野党側の新人議員らから、非常に質やレベルの低い質問が相次いでいる。

中にはムーミンやUFOなどに関する“トンデモ質問主意書”まで登場している。目立ちたいのかもしれないが、質問主意書は新人議員のオモチャではない。

質問主意書に関する運用が改められた理由とは

7月4日、衆議院の議院運営委員会で、衆議院における質問主意書に関する運用が改められた。
 
質問主意書とは、国会法第74条に基づき、本会議の代表質問や委員会での質疑とは別に、政府の考え方、見解について書面で質すことができるというもの。
 
質問主意書は、まず各院の議長に提出、第75条に基づき議長は内閣に転送し、内閣は質問主意書を受け取った日から7日以内に答弁書を閣議決定の上、転送元の各院に送付するという仕組み。
 
国会会期中であれば原則としていつでも、所属委員会や所属会派に関係なく国会議員であれば誰でも提出することができる。委員会での質問時間の確保が難しい、いずれの会派にも属さない無所属の議員が、委員会の質疑に代えてこの仕組みを活用しているほか、質問の機会の少ない当選期数の少ない議員も、同様の趣旨で活用している。
 
また、ベテラン議員が委員会での質問の前段として質問主意書を提出し、その答弁書を基礎としつつ委員会での質問を行うといったこともある。
 
このように質問主意書は、主に野党議員により幅広く活用されているわけであるが、今回その運用がどのように改められたのかといえば、質問主意書を衆議院から内閣へ転送する機会を、火曜から木曜までに議長に提出された分については翌週月曜日、金曜日および月曜日に提出された分は水曜日と、2回に限定されることとなった。
 
これは答弁の作成を担当する霞が関の負担軽減の一環とされている。
増加し続ける質問主意書負担が増える“霞が関”
 
質問主意書が内閣に転送されると、実務的にはまず内閣総務官室で答弁作成府省の割り振りが行われ、関係府省に送付される。
 
送付を受けた各府省の官房総務課(他の名称を用いるところもある)においては府省内の答弁作成部局の割り振りが行われる。質問主意書の答弁書を作成するのは一つの役所とは限らず複数の府省にまたがることもあり、そうした場合には関係府省間で内容の調整(各省協議)が行われる。
 
調整が終わって内容が確定されると、官房総務課での審査等を経て内閣総務間室に送付される。しかし「これでおしまい」ではなく、答弁書は政府の答弁として送付されるため、閣議を経なければならない。
 
この手続き(閣議請議)にさらに時間を要するし、閣議は原則として火曜日と金曜日が定例日であり、それに間に合うように作業を進めなければならないので、質問主意書が答弁書作成部局に届く時間によっては夜を徹して作業をしなければならない(往々にしてそうなることが多い)。

これが五月雨式に行われてきたわけであるから、“霞が関”側にとっては非常に大きな負担となっていたわけである。
 
そして当然のことながら、送付されてくる質問主意書の数が多くなればその負担も大きくなる。
 
平成26年から直近までの年間の質問主意書の数を見てみると、同年の366から27年は464と100以上増加、28年には611とさらに増加し、29年は秋の臨時国会が冒頭で解散されたため年間では552と減っているが、通常国会会期中に提出された質問主意書の数で比較すると、平成28年は329なのに対して29年は438であり、100以上増加している。
 
要するに、質問主意書の数は一貫して増加してきたということであり、本年は、7月9日現在で、既に433の質問主意書が提出されており、通常国会の会期があと2週間ほどあることを考えると、この数はまだまだ増えて、通常国会中に提出された数としては過去5年間で最多となることも予想される(その後、7月17日現在で466となり、最多となった)。
 
つまり、質問主意書対応のための霞が関の負担も増加傾向にあるということであり、従って、質問主意書の運用の見直しは、霞が関に負担軽減につながりうるものであるということは確かであろう。

質の低い質問主意書は何のメリットもない
 
もっとも、質問主意書は国会議員の国会活動の一環であってやみくもに制限されるべきものではないし、霞が関側からしても、質問主意書の答弁の作成は今後の国会審議における答弁の作成や想定問答作成のためのデータ収集につながるという側面、メリットもある。
 
とはいえ、当然のことながら、それは一定以上、“質が担保された主意書”である。
 
趣旨不明、意味不明なものが増えれば、提出した議員たちにとっては「提出した」という自己満足は得られたとしても、霞が関側にとっては単に負担が増えるだけで何のメリットもない。
 
しかも、霞が関の官僚たちの無駄な仕事が増えれば、それは巡り巡って結果的には税金の無駄、国民のデメリットにもつながる。
 
今回の運用の見直しの背景には、趣旨不明、意味不明な、質の極めて低い主意書の乱発を抑制しようという意図もあるのではないかと思われてならない。今国会会期中に提出された質問主意書を見ていくと、そのことが腑に落ちるだろう。
 
そこで、質が低く、主意書の内容としてなじむなじまない以前に、提出する理由が不明で、摩訶不思議と言っていいような好例を2つほど挙げてみたい。

ムーミンやUFOまで登場“議員としての良識”を疑う
 
まずは「大学入試センター試験の『ムーミン』に関する設問に関する質問主意書」。
 
本年の大学入試センター試験において、「地理B」でアニメ「ムーミン」と「小さなバイキングビッケ」の画像を示し、舞台となった国を問う設問が出題されたことから、その妥当性を問う趣旨の質問主意書である。
 
この出題が地理に関する思考力や応用力を問うことをその趣旨とするものであると考えれば、「ムーミン」等が教科書に記載されていなかったとしても特段問題視すべきものではないし、そもそも出題内容の妥当性を質問主意書や国会の質疑で指摘し、答弁を求めるというのは、出題者の裁量を過剰に拘束することにつながりかねず、妥当とはいえないだろう。
 
それ以前に、ただ単に「ムーミン」に関連して質問主意書を出して、目立ちたかっただけ、質問主意書の中で「ムーミン」という名称を使いたかっただけ、そんなところだろうか。
 
次は驚くなかれ、なんと「未確認飛行物体にかかわる政府の認識に関する質問主意書」である。
 
オカルト好きな某テレビ番組もびっくりだ。
 
いわゆるUFOについての存在の確認や日米での情報共有の有無や、飛来してきた場合の対応の考え方について問う趣旨の質問主意書なのである。
 
UFOの襲来の可能性が高まっているわけでもなく、UFOなどというものは映画やドラマ、小説や漫画の中にしか出てこない現状にあって、質問する緊急性はおろか必要も見出せない。
 
何をしたいのか全く意味不明な質問主意書である。
 
しかもこの手のふざけた話を我が国の国防・安全保障と無理矢理結びつけるとは、“議員自体の良識”を疑わざるを得ないだろう。
 
答弁を作成する霞が関側もよほどあきれたのか、「政府としては、御指摘の『地球外から飛来してきたと思われる未確認飛行物体』の存在を確認したことはない」等、答弁は見事なほどに簡素である。
「当たり前だよ」と言いたくなる。

関係省庁に“聞けば済む”ような内容は質問主意書にはなじまない
 
しかし、質の低い質問主意書は、こうした突拍子もない、何をしたいのか意味不明なものばかりではない。
 
そもそも質問主意書の内容は、答弁書は「閣議を経て決定される」という“重い手続き”からしても、「政府としての見解を書面によるやり取りで明らかにする」という“性格になじむ”ものでなければならない。単に所管府省の担当部局に聞けば答えがもらえる程度の内容、いわゆる「レクを受ければ済む内容」や「資料をもらえれば済む内容」はなじまないし、そのような内容の質問主意書は提出すべきではないだろう。
 
加えて、報道や根拠の不確かな“単なる伝聞”のみに基づいた内容も、質問主意書になじむものではない。
 
それ以前に、本来なら内容の真偽も含め周到に調べた上で主意書を作成すべきであるのだが、増加した主意書の中にはそうした基本を無視した類のものが散見される。以下にいくつか例を挙げてみよう。
 
その代表的なものでは「VRの課題と健全な発展のための環境整備に関する質問主意書」がある。
 
平成30年度予算中、VR、バーチャルリアリティ導入の効果や悪影響の調査研究にかかわる予算の有無およびその内容、VRに関するガイドライン作成への取り組みについて問う内容だが、まさに関係府省にレクをお願いして事実確認をすればいいだけの話だ。
 
そもそも、内容、文中の用語の意味するところが曖昧であるのみならず、その情報源もバラバラであるため霞が関側としては答えようがない。
 
特に質問主意書では用語の定義や使い方が極めて重要であり、それを間違えたり、定義が曖昧だったりすると、「意味するところが明らかではない」といった理由で答弁が得られないか、勝手に別の意味に解釈されて答弁されてしまう。
 
次に「日本政府における仮想通貨の規制とイノベーション政策に関する質問主意書」。
 
仮想通貨およびICO(Initial Coin Offering。仮想通貨の発行により資金調達を行うこと)の規制と健全な発展について、政府の施策について問う内容である。
 
これは関連政策一般について聞くものであるから、所管の金融庁の関係部局からレクを受ければ済む話である。もし、より深く知りたい、勉強したいという意思があるのであれば、その場で関係部局と議論した方が提出した議員にとってはいいと思うのだが。もしかしたら、(聞きかじりの中途半端な)“知識のひけらかし”という意図が強いのかもしれない。
 
3つ目は「横浜市栄区上郷町瀬上沢地区の宅地開発計画に関する質問主意書」。
 
当該地区における宅地開発についての政府の見解を問う内容。「地方公共団体の権限に係らしめられた事項」について“政府に聞く”という根本的な認識違いをしている質問主意書である。
 
制度の解説が必要であれば、所管府省の担当部局からレクを受ければいいだけであるし、個別の事案についての要請事項があればその際にすればいい話だ。ここまでくると“国会議員としての資質”が問われざるを得ないだろう。

質問主意書は新人議員のオモチャではない
 
これら以外にも、「ビールの官製値上げに関する質問主意書」、「教科書の重量化問題に関する質問主意書」、「再生可能エネルギーによる経済活性化と地方創生に関する質問主意書」等、根拠が不確かであったり、伝聞や憶測に基づいていたりする質の低い質問主意書は枚挙にいとまがない。
 
こうした質の低い、レクで代替可能な程度の質問主意書を乱発と言ってもいい程度に頻繁に提出している議員の多くは、新人議員や当選期数の少ない議員である。
 
疑り深い見方をすれば、質問主意書が彼ら新人議員等の、“オモチャ”のように使われ、自己満足を得るために霞が関を振り回しているともいえよう。
 
今回の質問主意書の運用が改められたことで少しは抑制効果があることを期待したいところであろうが、筆者の見るところ、そう簡単にはいかないような気がする。
 
なお本稿はあくまでも“質問主意書の実態”に焦点を当てたものであるので、あえて提出議員の名前は記載していない。ご興味を持たれた読者諸氏は、衆議院のホームページでご確認いただければと思う。

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