「韓国、文政権の「所得主導成長」が行き詰まり」

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見直し図るも、支持層の労組などが抵抗

日本に劣らない「過労社会」の韓国が「労働時間短縮法」(労働基準の改正案)の実施に踏み切った。

韓国版「働き方法案」とも言えるこの法案の主な内容は 
①週68時間の労働時間制限を週52時間に短縮、
②休日労働の50%の加算割り増し制適用、
③祝日を有給休日と指定、民間部門の労働者にも適用、などだ。

また、同法案から除外される特例業種が26種から5種に減り、違反する事業主に対しては2年以下の懲役、あるいは2000万ウォン(約200万円)以下の罰金刑が下される。今年の7月1日に従業員300人以上の事業所から実施され、2021年12月31日まで全事業所へ拡大する方針だ。

経済協力開発機構(OECD)によると、韓国の年間(2016年基準)労働時間は2,069時間で加盟国のうち、メキシコに続いて第2位だ。これは、1.713時間の日本より356時間も長い数字だ。

韓国では、この労働時間短縮法の施行によって、労働者たちの暮らしがより豊かになるという期待が高い。しかし一方で、厳しい経済状況で苦戦している韓国企業をさらに追い詰めかねないという懸念も出ている。

韓国経済研究院は、労働時間上限を週52時間に減らした場合、全企業の人件費が年12兆ウォン以上増えると推定した。

このうち、300人以下の中小企業が負担する分は8兆6000億ウォンに達すると分析した。労働時間の短縮で月給が減少した場合、労組から補填要求の恐れがあると企業は懸念している。中小企業研究院の研究結果によると、労働時間の短縮により製造業労働者の月給は平均13%も減ると予想されている。

世界で最も強硬な労組を持つ韓国企業にとっては心配の種になる問題だ。現代自動車労組は昨年の春闘で、計5回のストの末に会社側から20万ウォンの商品券を勝ち取った。平均年俸1億ウォン(約1千万ウォン)を越える現代車労組が20万ウォンの商品券のために、会社に与えた損害費用は4000億ウォンに達した。

法律の影響を緩和するために取り入れた弾力的勤労時間制(一定期間延長勤務をしたら、他の日に労働時間を軽減する制度)を3ヵ月未満に制限していることも問題視されている。

新製品開発のために短期間で集中的に仕事しなければならないゲーム会社やベンチャー企業などが短縮労働時間を遵守すると、業務上支障が生じるおそれがあるからだ。韓国の主要経済団体はこぞって、弾力的勤労時間制を先進国水準の1年に延長するよう政府に働きかけているが、労働界は「延長労働時間を減らそうとする小細工だ」と強く反対しており、実現可能性は低い。

文在寅(ムン・ジェイン)政権は雇用不安の解消と勤労所得の引き上げで経済成長を誘導するという、「所得主導成長」を旗頭に、さまざまな政策を取り入れてきた。最低賃金の引上げ(2020年までに1万ウォンに引き上げ)、非正規職の正規職への転換、そして労働時間短縮法が代表的なものだ。昨年の1年間、韓国政府はこれらの経済政策を実行するため、18兆ウォンの予算を使った。

今年も補正予算を含め、計22兆9千億ウォンの予算を投入する見通しだ。一方、文政権の経済政策によって企業側が負担しなければならない費用は、追加人件費と売上減少などを含めて年間465兆ウォンに達するという報告書も発表された。

しかし、これだけのコストを費やして得られた結果は大きくなかった。最低賃金を16.4%も引き上げたが、低所得層の所得は1年前と比べて8%も減少し、韓国社会の所得格差は歴代最高を記録した。

李明博、朴槿恵政権で年間30万件ほど増えた雇用が、昨年は7万件に激減した。若者の失業率は毎月最高水準を更新し、若者たちが感じる体感失業率は23.4%と、通貨危機以降最高水準に至っている。

製造業稼動率は9年ぶりの最低、経常収支の黒字は5年9ヵ月ぶりの最低、エンゲル指数は17年ぶりに最高、自動車の景気展望は8年ぶりの最悪、建設景気の見通しは4年ぶりの最悪、労働者の月平均実質賃金増加率は6年ぶりの最低、失業給与の申請者は歴代最大…

ここまできて、さすがの韓国マスコミも一斉に文在寅経済チームの「所得主導成長」の見直しを要求する声を上げた。大統領府も、所得主導成長論の設計者として知られる洪長杓(ホン・ジャンピョ)経済首席をはじめ、経済チームを交代し、政策変化を予告した。

すると、文政権の立役者とも言える市民団体や労働団体が抵抗を始めた。 文政権の中核を担う人物を多数出した市民団体の「参加連帯」は、「文政権がかつての朴政権の経済政策に戻ってはいけない」と警告した。

副作用が出てきている最低賃金の引き上げの速度を調整しようとする政府の動きに対して、韓国最大の労働組合の「民主労総」はゼネストを宣言し、総力闘争を予告した。

文在寅政府は果たして支持層の強い反発を押し切ることができるだろうか。岐路に立たれた文大統領の賢い選択を期待する。

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