「台湾駐屯」

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台湾駐屯を探る米軍の本気度 在韓米軍撤退で困るのは中国だ!

6月14日、北京での会談で握手する中国の習近平国家主席(右)とポンペオ米国務長官

中国の習近平国家主席と、習氏の「右腕」にして「外交の司令塔」たる王岐山国家副主席の米ドナルド・トランプ政権に対する衝撃と不快感と畏怖は極に達したに違いあるまい。

説明が必要だ。習主席は3月17日、全国人民代表大会(全人代)で国家主席に再選された。任期は2023年までの5年だが、全人代は国家主席の任期上限「2期10年」を撤廃する“憲法改正案”を可決しており、習主席は23年以降の3期目続投も可能となった。王氏も全人代で国家副主席に選出され、3月17日は「習・王終身王朝」が始まる「独裁記念日」だった。

他方、トランプ大統領は米国東部時間の3月16日、米国と台湾の高官往来を実現する《台湾旅行法》に署名した。
 
時差を考えれば、習・王両氏が「独裁記念日」を満喫している同じときに、トランプ氏は中国共産党が何よりも警戒し、武力侵攻してでも阻止したい「台湾独立」へ新たな道筋を切り拓く「威力」を秘める台湾旅行法に署名したのである。
 
「喧嘩を売られた」習主席は分かりやすい反応を示した。米国のマイク・ポンペオ国務長官と北朝鮮の核・ミサイル問題などについて会談(6月14日夜)した際、トランプ氏への報告を念頭にこう主張した。
 
「米国が台湾地区、経済・貿易摩擦といった『敏感な問題』を適切に処理し、中米関係に大障害ができないよう希望する」
『敏感な問題』は
(1)台湾=一つの中国問題
(2)経済・貿易摩擦という優先順位付けだった。米中関係は貿易戦争で大荒れで、習・ポンペオ会談は、米通商代表部(USTR)の対中制裁リスト公表前日にセットされた。経済上の重大局面にもかかわらず、貿易摩擦緩和よりも台湾問題を重視したのだ。

皮切りは海兵隊による在台の米国外交関連施設警備

さて、先述した台湾旅行法をお復習いしたい。
 
米国は1979年に中国と国交樹立=台湾と断交すると、中国の台湾侵攻阻止を前提に武器売却などを担保した《台湾関係法》を発効させた。ただ、対中配慮もあり、総統/副総統/行政院長(首相)/外相/国防相らトップ5人のワシントン入りを事実上禁じ、米政府側も台湾のカウンターパートに会えなかった。それが一転、台湾旅行法成立で米台首脳以下いつ&どこでも会えるようになった。

特記すべきは、台湾旅行法が米上下院ともに全会一致で通過した米政治情勢だ。初の総統直接選挙→野党・民進党への民主的な権力移譲→平和的な政権交代…と台湾の民主制度は完成に至る。国際秩序と米国益を破壊する中国の「中華帝国化」との鮮明な格差が、米議会・政府に深く認識された証左だった。

米朝首脳会談がシンガポールで行われていた6月12日、台湾では米国大使館に相当する《米国在台協会台北事務所》の新庁舎落成式が挙行され、出席した米国の国務次官補がスピーチした。
 
「(新庁舎は)米台関係の強さの象徴で、今後の偉大な協力を可能にする先進的施設だ」
 
台湾の蔡英文総統も出席し、祝辞を述べた。
 
「自由で開放的な民主国家として(台米が)団結すると、一切の障害を克服できる。価値観を共有する台米の物語が新たな一章に踏み出した」
 
出席が観測された中国・北朝鮮に毅然とした姿勢を貫くジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は米朝首脳会談に注力中で、実現しなかった。《ボルトン氏出席で中国を刺激すれば、米朝首脳会談に影響が出るとの配慮があった》といった報道もあるが、違う。
 
既に、米国務次官補代理や米商務次官補代理が訪台しており、訪台する高官のランクが今後ジワジワと上がっていくはず。訪台した米国務次官補代理は、蔡総統も出席した非営利団体主催の晩餐会で「台湾防衛」を再確認。米下院外交委員長も蔡総統と総督府で会談済みだ。
 
急速に進化する米台高官交流は米議会で3月に成立し、米国家戦略の劇的大転換を象徴する台湾旅行法の「威力」に他ならない。しかも、「威力」は米国在台協会台北事務所の「在台米国大使館」昇格も後押しし始めたやに見える。

米朝首脳会談がシンガポールで行われていた6月12日、台湾では米国大使館に相当する《米国在台協会台北事務所》の新庁舎落成式が挙行され、出席した米国の国務次官補がスピーチした。
 
「(新庁舎は)米台関係の強さの象徴で、今後の偉大な協力を可能にする先進的施設だ」
 
台湾の蔡英文総統も出席し、祝辞を述べた。

「自由で開放的な民主国家として(台米が)団結すると、一切の障害を克服できる。価値観を共有する台米の物語が新たな一章に踏み出した」
 
出席が観測された中国・北朝鮮に毅然とした姿勢を貫くジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は米朝首脳会談に注力中で、実現しなかった。《ボルトン氏出席で中国を刺激すれば、米朝首脳会談に影響が出るとの配慮があった》といった報道もあるが、違う。
 
既に、米国務次官補代理や米商務次官補代理が訪台しており、訪台する高官のランクが今後ジワジワと上がっていくはず。訪台した米国務次官補代理は、蔡総統も出席した非営利団体主催の晩餐会で「台湾防衛」を再確認。米下院外交委員長も蔡総統と総督府で会談済みだ。
 
急速に進化する米台高官交流は米議会で3月に成立し、米国家戦略の劇的大転換を象徴する台湾旅行法の「威力」に他ならない。しかも、「威力」は米国在台協会台北事務所の「在台米国大使館」昇格も後押しし始めたやに見える。
 
ところが、この「取引」には落とし穴がある。《段階的》は「時間稼ぎ」を、《朝鮮半島の非核化》とは、核兵器を韓国に持ち込める在韓米軍の「漸減→撤退」を意味する。正恩氏との会談で《段階的な朝鮮半島の非核化》につき合意したとされる習主席に拒む理由はなし。「北朝鮮大好き」で、在韓米軍撤退を念頭に置く戦時作戦統制権返還要求を優先政策にする韓国の文在寅大統領も飛び付き、在韓米軍撤退=米韓同盟の劣化→消滅へとカジが切られる。
 
従って、中国を後ろ盾とする南北の連邦化→統一に拍車がかかる。やがて、統一朝鮮領に中国人民解放軍が駐留し、対馬は中国・統一朝鮮と対峙する最前線と化す。
 
かくなる危機に陥れば次善の策として、在韓米軍を台湾に振り分けるべきだ。台湾は
(1)中国が軍事膨張を止めぬ南シナ海
(2)人民解放軍の台湾侵攻で来援が期待される米空母打撃群の通り道=西太平洋
(3)中国の対日侵略で緒戦の舞台になる東シナ海-の「3海域=戦略的3要衝の交差点」に位置する。日本列島~沖縄~台湾を結ぶ「海上の長城」上に、自衛隊や米軍に加え台湾軍が防衛線を敷けば、中国の東方侵出を封じ込める巨大な抑止力となる。
 
付言すると台湾は沖縄と並び、米国が構築する国際秩序の策源地。日本にとっても、エネルギー・経済の生命線たるシーレーン防衛の「守護神」だ。

一方、在韓米軍はアジア・太平洋地域展開も考慮するが、朝鮮人民軍と、朝鮮戦争では北に合力した「人民解放軍」への備えが主任務だ。米軍の3カ所展開は理想だが、2カ所の選択を迫られれば沖縄・台湾への兵力投射に軍配が上がる。
 
ボルトン氏も2017年、米紙への寄稿で《米軍の台湾駐屯》を提唱した。いわく-
 
《台湾への米軍駐屯や軍事装備の輸出拡大で、米国は東アジアの軍事態勢を強化できる》
 
《海洋の自由を守り、一方的領土併合を防ぐ戦略は米国の核心的利益。台湾は中国や、中国が軍事聖域化を進める南シナ海に近い。米軍の迅速な戦闘配置を柔軟にする。台湾との軍事協力深化は重要なステップだ》
 
そう論ずると、1972年に米中が調印した共同声明《上海コミュニケ》を持ち出す有識者がいる。確かに、米国はコミュニケで「一つの中国」「米兵力の段階的縮小→撤収」を認め、79年に米軍駐留を終了した経緯はある。
 
だが、ボルトン氏は昨年、国際法上の《事情変更の原則》を説いた。コミュニケでは「両国はアジア・太平洋地域で覇権を求めない」でも合意した。それ故、中国が南シナ海で次々と海上人工軍事基地を造成するなど軍事膨張を止めぬ現在、《コミュニケの大部分(前提)が時代遅れになり、効力を失った》という合法的解釈は成り立つ。

対中関与戦略の成れの果て

ところで、5月の米下院情報問題常設特別調査委員会公聴会で元米海軍太平洋艦隊情報部長は「中国の海軍増強は世界覇権の穂先で、2030年までに水上艦450隻と潜水艦99隻の規模になる」と警告。米海軍大学教授らによる《中国の海軍艦艇建造》も《同年までに、ハードウエア面で米海軍と数だけでなく質も比肩する》と断ずる。
 
対するトランプ政権は過去1世紀で最小規模に縮小された現有米海軍艦艇274隻の大増強を目指す。が、2046年が目標で、人民解放軍海軍の建造速度・数とは雲泥の差がある。
 
軍事力で米国を猛追する中国は、台湾を占領→核・ミサイルや空母機動艦隊の拠点とし→民主国家を睥睨(へいげい)→中国の軍事・経済戦略を強要→対米友好・同盟関係にクサビを打とうとしている。《20年までに台湾侵攻能力を備える》との分析(台湾国防白書)さえ出てきた。
 
「赤い怪物」の出現は、日米を含め西側が「無害な新興国家」だと対中評価を誤り、貿易・金融などを通して中国の発展を手助けすれば国際秩序を守る民主国家となると信じ、過去40年近くにわたり採用してきた《関与戦略》の成れの果てだ。
 
米国だけでなくわが国も台湾を軍事・経済支援=関与し、空前絶後の大失敗だった対中《関与戦略》の「学習成果」を、中国にこってりと教えて差し上げようではないか。

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