「9万年ぶりの大噴火の確率は?」

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列島最大規模の「実績」を持つ阿蘇山、9万年ぶりの大噴火の確率は?

4月14日21時26分に熊本地方でマグニチュード(M)6.5、そして16日1時25分M7.3の地震が発生した。震源の深さはいずれも約10kmと浅く、そのために最大震度は7に達した。

これら一連の地震は日奈久・布田川断層帯の活動によって引き起こされたと考えられている。一方で、この断層帯上には阿蘇山が位置し、今回の地震が噴火、特に巨大噴火を誘発するのではないかとの不安もある。

噴火した熊本県・阿蘇山の中岳(奥)と、観光客らのいた付近の駐車場。噴煙は火口から2000メートルまで上昇した=2015年9月14日午前9時45分ごろ(阿蘇火山博物館提供)

日奈久断層帯は「札付き」の活断層

気象庁が本格的に地震データの収集を初めたのは約100年前。これまで九州で震度7が観測されたことはなかった。そのために今回の地震がいかにも「異常」であるかのような印象を与えるかもしれないが、決してそうではない。

日奈久・布田川断層帯はバリバリの活断層帯であり、過去に何度も大地震を起こしてきた。これらの断層活動は、フィリピン海プレートが日本列島に対してやや斜め向きに沈み込むために、横ずれ成分が大きい。

さらにはこの辺り、別府—島原地溝帯と呼ばれる地帯では、九州島が南北に引き裂かれるような変動も起きている。地震や火山などの地球の営みは、人間のタイムスケールより遥かに長いのである。

地震調査委員会は日奈久断層帯についてその活動時にM6.8程度の地震が発生する可能性があること、そしてこの断層帯を含む周辺域ではM6.8以上の地震の30年発生確率は7〜18%と評価している。

この確率は一見、首都直下地震や南海トラフ地震(ともに70%超)に比べると低い。しかし私たちは、21年前の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)前日の30年発生確率が0.02〜8%であったという事実を忘れてはならない。

つまりこの九州中部域、さらに言えば日本列島全域ではいつ地震が起きてもおかしくないと認識すべきである。私たちは、太平洋プレートとフィリピン海プレートが押し寄せる「変動帯」に暮らしているのだ。

日奈久・布田川断層帯は決して1枚の断層ではなく、多くの活断層の集まりである。つまり、今回の地震(破壊)が近傍の断層活動を誘発する可能性は高い。今後も強烈な揺れを伴う余震が数週間続くであろうことに備えるべきである。

阿蘇もまた「札付き」

阿蘇山は世界有数の活動的活火山である。16日にも小噴火が起きたが、これは火山の日々の息づかいのような噴火かもしれないが、地震直後であるために地震によって誘発された可能性もある。
阿蘇山のような活火山の直下、数kmには「マグマ溜まり」が存在する。その大きさはよく解らないが、おそらく直径2〜3km程度であろう。地震の揺れがこのマグマ溜まりを刺激すると噴火に至る場合がある。サイダーやビールの瓶を勢い良く振ると炭酸ガスが発生して中身が溢れ出すのと同じ原理だ。これまでにも、地震直後数日以内に火山噴火が起きた例は多い。阿蘇地方でも震度6が観測されている今、引き続く噴火を想定しておくべきであろう。

さらにこの火山は、約9万年前に列島最大規模の噴火を起こした「実績」がある。巨大噴火の跡には東西18km南北25kmの巨大な「カルデラ」が残っている。

私たちは一昨年、このような巨大カルデラ噴火が(阿蘇山と特定しているわけではないが)九州中部で発生した場合、1億人以上の日常生活が奪われると発表した。また、日本列島で巨大カルデラ噴火が今後100年に起きる確率は約1%であることも述べた。

この確率が間違っても99%大丈夫であることを意味するのではなく、非常に切迫度の高い値であることは先に述べた通りである。

巨大カルデラ噴火では、通常のマグマ溜まりより深い所に遥かに大規模なマグマ溜まり(体積数十立方km以上)が存在する。9万年前の阿蘇巨大カルデラ噴火の場合はなんと1000立方kmものマグマが一気に噴き出したのである。

今回の一連の地震の震源が約10kmであることを考慮すると、このよな巨大マグマ溜まりが存在すれば、マグマ溜まりの周囲の岩盤に亀裂が入る可能性がある。その場合には、サイダーの蓋を勢よく開けたときと同様にマグマが溢れ出す、つまり巨大カルデラ噴火が始まることも考えられる。

ただ、現時点ではこのような巨大なマグマ溜まりが阿蘇火山の下にあるのかどうかは判っていない。現在の観測体制では検知不能なのである。

地震大国・火山大国に暮らす覚悟

我が国は地球上でも有数の地震大国・火山大国である。私たちはこの「変動帯」から多くの試練を与えられている。

一方で私たちは、変動帯ならではの恩恵を享受してきた。温泉は最も解りやすい例だろうし、明治日本の近代化を支えた銅などを高濃度で含む「黒鉱鉱床」も海底火山からの恵みである。もっと言えば、世界に誇る和食ですら変動帯からの恵みである。

こんなにも恩恵を受けているのであるのだから、その試練から目を背けているだけでは狡いというものだ。試練による被害を最小限に抑える方策を考えないといけない。

ただしこのような取り組みを、国や行政に任せっきりにしてはいけない。まず私たち変動帯の民一人一人が「覚悟」を持つことが大切である。覚悟は決して「諦念」ではない。私たち、そして私たちの子々孫々が、これまでと同じように変動帯からの恩恵を享受できるための術を考え抜かねばならない。

火山噴火について言えば、現時点ではマグマ溜まりの形状や位置すら正確には判っていない。巨大カルデラ噴火に対しては、巨大マグマ溜まりの存在すら確認できていない。火山大国かつ科学技術立国として誠に情けない限りである。

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