「過酷な現場にスト同時多発」

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巨大市場支える中国のトラック輸送 過酷な現場にスト同時多発 

中国市場を支える物流業界で、担い手であるトラック運転手が強いられる慢性的な過酷労働が問題として浮上している。末端の低賃金を前提としながらも、国内総生産(GDP)に占める中国の物流コストは16%と割高であり、業界の近代化と物流合理化を同軸で進める必要に迫られる。
 
6月10日の前後数日にわたり、中国各地でトラック運転手のストライキがほぼ同時に発生した。8日ごろに山東省などで始まり、四川、湖北、江蘇、安徽、貴州、江西の各省と重慶、上海の両市で連帯して「待遇改善」を訴え、貨物の引き受けを拒否した。
 
社会主義を掲げる中国だが、労働者、農民のデモやストは珍しくない。土地収用のトラブルを加えれば、「群体性事件」と呼ばれる集団争議は「年間十数万件」とも言われてきた。
 
ただ、いずれも発生範囲が地元に限られたことで連鎖的な横への広がりは抑えられていた。「分断」こそが治安対策の要だったが、今回は運転手が会員制交流サイト(SNS)で連絡を取り合い、当局が警戒していた広域争議となった。全国規模のスト実現は、中国では極めて珍しい。

ストは数日で収束に追い込まれたもようだが、複数の地域で「トラック運転手連盟」という名称が登場した。組織実態は明確でない。だが体制外の「自由労組」を警戒する中国当局は、心中穏やかでなかったはずだ。
 
今回は中国国内の軽油価格上昇などが引き金だった。「低過ぎる運送費! 
公平な市場を」といったスローガンは、毎月数万元(1元=約17円)にもなるトラックのローンや賃貸料を支払い、長距離輸送を請け負う個人営業の業態を反映する。
 
中国では近年、国内貨物輸送量の7割以上をトラック輸送が占める。一口に「運転手3000万人、車両1500万台」という業界の規模(車両数と貨物積載量)は、グラフで示す通り、道路網の延長と国内市場の拡大が重なったこの数年間で形成された。
 
中国トラック業界の姿は、最近の国内調査で徐々に実態が見え始めた。概要から横顔を拾ってみよう。
 
運転手=農村出身者が79.1%。ほぼ男性で占められ、年齢は29~44歳が77.4%
業務歴=平均9.5年

運転距離=単一ルートでは新疆ウイグル自治区カシュガル-北京間の4911キロが最長級。法定速度を守れば不眠不休でも最低49時間かかる。宅配便の運行距離は1日1500キロとも
 
保険加入率=36%と低い。事故の発生は運転手にとっても致命傷となる
収入=月額平均約6000元(約10万円)。宅配便では約7028元(約12万円)
過労運転=連続4時間以上の運転を禁じた法令に反し、「徹夜運転」の答も多い
 
6月のストで語られた運転手の日常は過酷だ。
 
「済寧(山東省)から徐州(江蘇省)までの200キロだと、40トン積みの車で運送費は1800元。通行料280元、燃料代700元、車の借り賃100元で乗員2人1組の支払いが1人300元ぐらい。過積載が当たり前だけど見つかるごとに罰金200元」(米ラジオ自由アジア中国語放送のインタビュー)。

この話にも登場する通行料などの徴収と、警察の罰金には運転手の不満が大きい。高速道路の料金徴収所以外でも、地方では通行料が勝手に徴収される。過積載、速度超過で走るトラックは当然、摘発の対象となるが、「その場で罰金を払っても受領証がもらえない」という。

こうした料金や罰金のでたらめな徴収は「三乱」(費用、罰金、分担金の勝手な取り立て)と呼ばれ、末端行政の予算不足や官吏らの汚職構造が背景とされる。トラック運転手の立場からみれば、立場の強い荷主に加え、公権力までが加担した搾取構造となる。6月のスト発生の背景もこの点にありそうだ。
 
筆者はこれまで、中国の農村から都市へ出稼ぎに行く「農民工」を取材してきた。「世界の工場」と呼ばれた中国は低賃金と差別待遇に甘んじる農民工に支えられてきた。農村出身が8割のトラック運転手も巨大市場を流動する農民工の一形態といえよう。

運転手の待遇改善と物流コストの引き下げへの試みとして、最新のIoT(モノのインターネット)技術をトラック網に取り入れる物流最適化の研究も始まっている。
 
必要な取り組みに違いないが、仮に先端技術を使った近代化が実現しても、2世代にまたがり中国経済の底辺に組み込まれた農民工問題の解決にはほど遠い状況であろう。

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