試されている日本の「本気度」

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異様な拉致多発月から40年 試されている日本の「本気度」

北朝鮮による拉致被害者の田口八重子さん(62)=拉致当時(22)=は、拉致直前の昭和53(1978)年6月、東京・池袋の婦人洋品店で当時の収入にしては高めのワンピースを購入していた。当時の捜査関係者が明かした知られざる事実だ。
 
田口さんから日本語の指導を受けた大韓航空機爆破事件の実行犯、金賢姫(キム・ヒョンヒ)元工作員は北朝鮮の教場で教育係「李恩恵(リ・ウネ)」が着ていたワンピースを記憶していた。2つのワンピースはその後、捜査で同一のものである可能性が高いと結論づけられた。
 
拉致認定では北に連れ出されたと断定する根拠は重要だ。田口さんのケースでは“ワンピースの一致”も根拠となったとみられる。
 
金元工作員は韓国当局の調べに「李恩恵」の人相や背格好などの特徴を供述したが、着衣の絵柄もイラストで提出していた。
 
一方、日本の警察当局も「李恩恵」の身元特定に当たったが難航。平成3(91)年にようやく「李恩恵」を田口さんであると特定した。

ワンピースに関する証言を警察にしたのは田口さんと同じ飲食店に勤め、親交のあった同僚女性だった。
 
女性と田口さんはよく池袋でウインドーショッピングをしていた。あるとき勤務先近くの洋品店で、肩口が大きく膨らんだデザインのワンピースを見つけた。
 
「良い服だね。ほしいね」
「だけど、値段が高いね」
 
22歳の田口さんは同様に若い同僚と、こんな話をしていたという。程なくしてそれは店頭からなくなった。
 
「田口さんが買ったものと思った」
 
女性は警察にそう話し、ワンピースのイラストを描いてみせた。イラストを受け取った捜査員は驚く。それは金元工作員が描いた“李恩恵先生のワンピース”とそっくりだったからだ。
 
その後、警察はワンピースを直接購入した人物について、田口さんが勤める飲食店の常連の男だったことを突き止める。男は北の工作員、「宮本明」こと「李京雨(リ・ギョンウ)」。

李は、大韓機事件のもう一人の実行犯で自殺した「金勝一(キム・スンイル)」が搭乗に用いた「蜂谷真一」名義の旅券を入手するなど複数の事件への関与が疑われ、警視庁がマークしていた。

北朝鮮による日本人拉致は政府認定だけで12件、17人に上る。中でも、田口さんが拉致された53年夏-6月から8月-の3カ月は特に異様な時期だった。
 
52年の秋には横田めぐみさん(53)=同(13)=ら3件、3人が拉致されているが、53年夏は田口さんを含め6件、10人が連れ去られた。
 
集中的な拉致を可能にしていたのはバックアップ組織が完備されていたからだ。田口さんと同月に拉致された田中実さん(68)=同(28)=の犯行には「洛東江(ナクトンガン)」という在日非公然組織が関与したと関係者が告白している。

また、洛東江から李に資金送金を指示した工作員、金世鎬(キム・セホ)は、52年9月に久米裕さん(93)=同(52)=を拉致したとして国際指名手配されている。日本は北朝鮮にとって何でもやり放題だった。

日本での北朝鮮工作網の存在は昔の話ではない。現在は企業活動に形を変え、国内に数多く存在する。

国連安全保障理事会の北朝鮮制裁パネルは6月、日朝の企業や団体などが出資する合弁会社が不正の温床となっている疑いがあるとして、政府に調査を求めた。
 
国際社会に働きかけて米国とともに「制裁」を牽引(けんいん)してきた日本の本気度が試されている。北朝鮮の非核化に向けた動きを促すためにも、北朝鮮へのヒト・モノ・カネの流れを断つことは、日本の責任だろう。

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