「レアアース」

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「レアアース」今、中国で何が起こっているのか?

2018年6月、広州で国際レアアース会議が開催された。毎年、中国のレアース会議の講演を引き受けているが、今年も日本市場を代表して基調講演を行う機会に恵まれた。

レアアースと云えば2010年に尖閣諸島で起こった中国船の拿捕から中国政府がレアアースの輸出を禁止した事件を思い出す。

その結果レアアースの価格は100倍以上に値上がりしたがその後、2012年になって日米欧によるWTO(世界貿易機関)への提訴で中国が敗訴した結果、レアアース在庫が潤沢に市場に出回りレアアース価格は一気に暴落してしまった。

そして旨みを失ったレアアース市場への興味は半減したのである。その後も今日に至るまで需給バランスの崩れからレアアースの価格は安値圏を行ったり来たりで全く元気のない市場となった。
今年はじまった異変
 
ところが、今年の中国レアアース市場には異変が起こっている。これは政府による環境規制強化策のために工場の生産停止、レアアース資源の盗掘や不正開発、投機在庫の処分や国家のストックパイルの放出のうわさなどの不確定要素のために何が起こるのか予想がつかなくなってきたのだ。
 
中国政府のレアアース政策を行っている機関(CCCMC)の責任者(Liu Zhonghui氏)の基調講演では中国レアアース鉱山の政策(環境問題と不正鉱山の閉鎖)について徹底管理すると報告された。
 
また、中国レアアース協会の会長(Chen Zhanheng氏)と、欧米系のレアアース市場の専門家(Thomas Hughes氏やPhilip Hellman氏)とともにパネルディスカッションでは、電気自動車(EV)用途に使われる希土類(NdFeB磁石やニッケル水素電池)が、EVのモーターに利用されることから再びレアアースの将来に期待が集まっているとされた。

レアアース市場は次のスーパーサイクルの波に乗れるのか?
 
筆者の講演では過去(2003年から2013年まで)10年間の資源サイクルについて言及した。これらの資源のスーパーサイクルとレアアースのマニピュレーション(人為的価格高騰)の検証を行い、資源開発の失敗が明確になった2015年までのスーパーサイクルの終焉までを振り返った。
 
その後の2016年の底打ちから2017年への回復傾向を客観的なコモディティーチャートを示して将来への見通しについて述べた。
  
10年間続いた資源のスーパーサイクル(表1)が終わり、2016年あたりから新たな波動が始まったようだ。過去4年から5年間の相場の休止状態から市場エネルギーは十分に充電されたと筆者はみている。
 
2017年以降のレアメタルの市況の変化を表2に示した。バナジウム、モリブデン、コバルト、タングステン、タンタル、インジウムなどの代表的なレアメタルのチャートを参考にして頂きたい。
 
2018年に入って大半のレアメタル市場が平均2倍から3倍の上昇を示した中でレアアース市場だけは取り残されたようだ。つまりレアアース市況だけが伸び悩んでいるのだ。

レアアース価格だけが上昇しない理由とは?
 
ほとんどのレアメタルやベースメタルは上昇傾向を示しているのにレアアースだけが上昇しない理由を次のように分析した。(表3)と(表2)を比較すると明らかにレアアースの市況価格だけが低迷していることがはっきりする。
 
レアメタルの使用分野は電子材料や機能性材料分野でありレアアースの用途分野と同じであるにも関わらずレアアースだけが伸び悩んでいるのはなぜなのか?
 
ちなみに2007年の日本市場の需要量と2017年のレアアースの用途別分野の比較を(表4)に示したが、磁石分野と電池分野がこれほど活発なのにレアアース市況だけが不調なのはどうやら需要面より供給面(即ち中国市場の要因)が市況に影響を与えているようだ。
 
レアアース市況が低迷している理由は以下の要因が考えられる。

レアアースパニックを経験した後、市場は不必要な余剰在庫や政府のストックパイルが重しとなり放出に対する警戒感が支配するようになった。

環境規制の強化と秩序ある市場形成を目的として集団公司の数を6つの企業に集約したが、その裏ではやみ鉱山の不法採掘や盗掘が行われている為
に行政のコントロールが効いていない。

行政の締め付けは表面的であり沿岸地域は別にして内陸部や周辺国(ミャンマーやラオス、ベトナム)からの密輸入がなくならないとの見方もある。

新たなアプリケーションの開発がないために、古い用途の範囲でしか研究が進んでいない。例えば未だにネオジム磁石と電池と触媒が主要な用途であり、その他の用途には新しい需要の盛り上がりは見られない。

EV(電気自動車)はレアアースを爆食いするのか?

一方、今回の会議で期待の集まった分野はEV用に利用されるレアアース材料の話題であった。ご承知のようにフランスとイギリスが2040年までにガソリン車の販売を禁止してEVのみにすると発表したことを受けて中国も近い将来ガソリン車を禁止すると発表した。

中国政府はEV生産に対して様々の優遇措置を設けて国内生産を促進するとしている。そのために外資系メーカーの生産規制の緩和計画も発表しテスラ社も独資で中国におけるEV生産を決定した。
 
中国政府はEV車の普及のために補助金制度を決定し、過去5年間で約1900億元(約3.2兆円)をばらまいた。17年9月には双積分政策(EV生産義務)を決定し、国内部品メーカーの育成目的で外資系のリチウムイオン電池の参入を規制した。その結果、中国のEV車の販売台数は13年の1.7万台から17年には77.7万台に伸びた。
 
今や世界のEV車メーカーのトップはBYD(17年実績は10.9万台)で、第2位が北京汽車(同10.3万台)第8位が栄威(同4.5万台)、第10位が知豆(同4.2万台)と中国ブランドが4社もランクインしており世界生産の5割以上を占めている。
 
世界中がEVシフトを指向している訳でだからEVに使われる電池(EVの半分以上の重量比と価格比)とモーター用のレアアース磁石の今後の需要が飛躍的に伸びることは明らかである。
 
無論、レアアースを極力使用しないようにする3R運動(Reduce Reuse Recycle)の技術的開発は進んでいる。例えば、トヨタはEV車に使うネオジムやジスプロシウムの使用量を大幅に削減したモーター用磁石を開発した。

その代替材料として安価で資源量の豊富なランタンとセリウムを使う計画も発表している。今後も代替技術への努力は進むことが予見されるが、時代の流れはガソリン車からEV車へのシフトであり、それを止めることはできないと見るべきだ。

2018年には価格上昇はしないが2019年には大いに期待が持てる
 
結論を先に言うと、EVのブームは一過性でない。さらにIoT時代の幕開けはすでに始まっているから、レアアースの新規需要が爆発的に起こるのは時間の問題であると考えられる。また、すでに価格上昇が始まっている他のレアメタルコモディティーがけん引役となって2019年にはレアアースの市場の回復も表面化してくると予見される。

レアアースの余剰在庫と中国政府による環境規制問題、レアアース資源の不正採掘や密輸問題が政府方針の強化により解決の方向にあることを考慮すると多少の時間差はあるがレアアース市況の回復は大いに期待できる。

そしてEV市場の拡大とIoT時代の本格的到来が期待される中でレアアース市場の未来は明るいと予想している。

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