「どこまで堕ちる参議院 1院制も選択肢だ」

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どこまで堕ちる参議院 1院制も選択肢だ

「良識の府」や「再考の府」という美称は、もはや悪い冗談になった。国会会期大幅延長の理由の1つが、参議院の選挙制度をいじる公選法改正案の今国会での成立とは、あきれる。参院自民党の我欲丸出しの改正(悪)案だ。参院の堕落が止まらない。

改正案は①埼玉選挙区の定数2議席増②比例代表を4議席増やし、一部に拘束名簿制を導入する。

①は1票の価値が一番軽い(1議席当たりの有権者が一番多い)埼玉の議席増で、選挙区間の1票の最大格差を3倍未満にする。

②は徳島・高知、島根・鳥取の合区でこぼれる候補に指定席を提供する受け皿だ。会期大幅延長には9月の総裁選で参院の支持を得たい安倍首相の配慮があった、との解説がつく。

最高裁は、参院選挙区を「違憲状態」と断じ、「制度の仕組み自体の見直し」を求めてきた。国会も公選法の附則で2019年の参院選に向けて「抜本的な見直しを行い、必ず結論を得る」と約束している。

どこが「抜本的」なのか。格差を3倍未満に、と言うが、衆院小選挙区は2倍未満を目途にしている。最高裁は、参院だからといって甘くする理由はない、との立場だ。比例代表の4増と、非拘束制名簿の一部を拘束制にするのは、参院自民党のご都合主義だ。「身を切る改革」と定数を減らしてきたのに、逆行する理由は何か、国民が納得のいく説明をできるのか。

有権者に合区の評判が悪かったので、参院自民党は選挙区を都道府県代表としてオーソライズする“合区逃れ”の条文を改憲案に盛り込もうと画策した。それがうまくいかないと見て、公選法改正に転換した。

そもそも参院は誕生時から、いわく付きだ。新憲法のGHQ(連合国軍総司令部)草案は1院制だった。日本政府が巻き返し、貴族院復活を危ぶむGHQとの妥協の末に「両議院は全国民を代表する選挙された議員」で組織するとなった。当時も識者から「同じものを2つ作ってどうする」という批判があった。

憲法は、衆院が①首相指名②予算の議決③条約の承認――で優越すると定めるが、予算が通っても関連法案が否決されれば執行に支障をきたし、関連国内法が通らないと条約は守れない。参院が否決した法案の衆院での再議決は3分の2以上を要し、ハードルが高い。

そこで、衆参で多数派が同じだと参院は「衆院のカーボンコピー」と揶揄され、多数派が異なる「ねじれ」では、政権に立ちはだかる「政局の府」となりがちだ。

2院制をとる先進国で、両院の権能が近い日本は特異で、両院の選ばれ方、権能に差をつけるのが普通だ。G7の議院内閣制の国では、1代貴族と世襲貴族が上院を構成する英国も、上院が任命制のカナダも、上院(連邦参議院)が州政府代表からなるドイツも、選挙で選ばれた下院が、権能で圧倒する。

主要国で唯一、日本以上に両院の権能に差がないのは、上院にも解散があるイタリア。日本とイタリアは、G7でも群を抜いて政権の代替わりが頻繁で、構造改革が頓挫しがち、財政規律が無視されがちな共通項がある。2院制の有り様と無関係とは思えない。

そのイタリアで、上院を大リストラする憲法改正に賭けたのがレンツィ元首相だが、16年12月の国民投票で敗れ下野したのは残念だった。

参院の「良識の府」「再考の府」の別称に違和感がなかったのは、政党に属さない議員集団「緑風会」が多数派だった戦後の短い時期だけ。今の参院は利己的な圧力団体のようだ。衆院中心の権力の暴走をチェックするのが、参院の役割のはずだが、近年「参院があって良かった」と思わされた場面の記憶はない。

憲法改正で参院が何を代表し、衆院と違うどんな職責を果たすべきか、はっきりさせるべきだ。参院自身に自己改革の意欲も能力もないのなら、1院制も選択肢だ。世界の議会を持つ国の6割は1院制。先進国でもデンマークやスウェーデンは2院制から移行した。

日本の国会にも、衆参統合による1院制を目指す超党派の議員連盟があり、日本維新の会は1院制を基本政策に掲げている。延長国会で議論すべきだ。

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