「日本仕様と何が違うか」

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中国で大人気のTOTO「ウォシュレット+」は日本仕様と何が違うか

中国など、日本以外の市場で販売されている「ウォシュレット+」は、陶器の内部に配線類を収めた点を付加価値として打ち出した。スマートフォンで撮影されるほど注目される 

衛生陶器の国際見本市で
ひときわ注目を集めていた新製品

自動車や家電の業界で、世界中の各都市を回る国際見本市があるように、トイレなどの水回り製品の分野でも同様のイベントがある。
 
この6月5日~8日まで、中国の上海で開かれた「KBC 2018」(KITCHEN&BATH CHINA)は、中国内外を問わず、世界中から約6000の出展社が集まり、推定で20万人を超える来場者でごった返した。
 
今年で23回目を数えるイベント会場の正面を入ってすぐの場所に大型のブースを構えたTOTOで、ひときわ来場者の注目を集めていた新製品がある。「ウォシュレット+」(プラス)は、2015年の末に中国の北京工場だけで生産が始まった派生商品だったが、今では中国内にある全ての工場(計4工場)でフル増産が続いているという。

機能は従来と同じだが……

日本でお馴染みの温水洗浄便座(ウォシュレット)に新しい機能が加わったのかと思いきや、そうではない。中国などの海外で人気が高いワンピース便器(衛生陶器とタンクを一体で成型した製品)の裏側に穴を開け、そこにウォシュレットで必要な給水や配電などに使う複数の配線を収める。

全体的に、すっきりしたシルエットになったことで、“美観”が増した。これまでよりも、トイレがきれいに見えることを付加価値として、プラスと強調しているのである。

もともと中国などの海外向けに開発した製品のため、現時点では日本では販売されていない。だが、中国が発火点となり、今や「日本以外の国々」では急速に販売量を伸ばしている。いずれ日本で発売される可能性もあるが、しばらくは中国市場への浸透に専念する。
 
その背景にあるのは、TOTO中国を取り巻く、ビジネス環境の変化である。端的に言えば、中国で「新中産階級」と呼ばれる新しい消費者層が台頭してきていることだ。

日本のTOTOに酷似するブランド・ロゴを持つ中国のTOZO。2006年設立の新興メーカーだが、複数の自社工場を持ち、バス、トイレ、洗面化粧台、水栓金具まで、何でも製造している 
 
TOTO中国は、これまで最上位の富裕層(約1億人)に照準を定めてきたが、勢いに乗る中国メーカーのJOMOOやARROWなどの追い上げも無視できない。そこで、富裕層に固執するのではなく、新中産階級(約2.3億人)にまで対象を広げて、戦略を立て直さなくてはならなくなったのである。
 
この新中産階級には、いわゆる「80後」(バーリンホウ。1980年以降生まれ)や「90後」(ジョウリンホウ。90年以降生まれ)などの若い世代も入る。TOTO中国の深澤徹・総経理(社長)は、現地での事情を打ち明ける。

「中国で経済的な余裕のある人は、大前提である食を除けば、(1)教育、(2)旅行、(3)住まいにお金をかける。若い世代は、製品の機能もさることながら、友人に自慢できるような“格好良いデザイン”であることを重視している」

寡占する日本では考えられない営業努力

とりわけ中国でブランド・イメージが高いTOTOだが、先に挙げた中国メーカーは勢いを増しており、さらにTOZOやTIOITIOなどの新興メーカーは、あからさまにTOTOのブランド・ロゴをまねるなどして参入した。

製品の見た目は、そう変わらないが、価格は3分の1~4分の1に下げて新中産階級の需要の獲得に乗り出しているのだ。
 
KBC 2018の会場内で、ある新興メーカーの幹部に話を聞いてみると、あけすけに語ってくれた。

「とても海外のメーカーの技術力には敵わない。だから、私たちは機能を削る。価格も大幅に下げて、まずは市場へ入ることを目指す。最初は、それしか方法がない」

地上3階と地下1階の全スペースにわたって、世界中から集まった有名ブランド(住宅設備 メーカー)がショールームを構える「建材城」。高価でも格好良い製品を求めて若者が集まる Photo by H.I.
 
これまで日本では、「TOTOは富裕層向けのブランド戦略が奏功したので、中国で成功できた」と言われてきた。TOTO自身もそのように喧伝してきたし、上海のショールームは建材城(世界中の住宅設備メーカーが大挙して入居するビル)の交差点を挟んだ向かい側という超一等地に鎮座している。
 
とはいえ、TOTO中国では、日本よりも発達するスマートフォン向けのサービス開発にも力を入れている。一例を挙げれば、インターネットTVを通じて「(TOTOの最新トイレが納入された)憧れの一流ホテルに宿泊しよう」という抽選キャンペーンを始めるなど、事実上の寡占状態にある日本では考えられない営業努力をしている。

「無法地帯」での戦いは試行錯誤と苦難の日々

もとより、TOTOの喜多村円社長が語るように「ウォシュレットは、使ってもらえないと、良さが分かってもらえない」からだ。日本では、一般世帯における温水洗浄便座の普及率は80%を超えているが、お尻を拭いた紙を流さずに屑籠に捨てる習慣が残る中国での普及率は3~4%であるといわれる。
 
圧倒的な技術力を武器にして、中国でも順調に成長を続けているように思えるTOTOだが、話は単純ではない。自動車や家電と同様に、今日では世界中の有力メーカーが中国大陸に集まる。過去には価格競争を避けてきたTOTOでも、有象無象が入り乱れる無法地帯で戦うことを余儀なくされているのだ。

建材城の周辺でも、海外の有名ブランドは単独でショールームを開いている。写真は、日本のLIXIL Group傘下の米American Standardのもので、日本の技術を移植した中国向けの製品 
 
そんな中で、TOTO中国が前面に押し出す「ウォシュレット+」は、便器とタンクが一体であるだけに、単体でウォシュレットを販売するより総額が高くなる点がポイントだ。

また、中国では住まいの流動性が高いため、買い替えサイクルは7~10年と短い。さらに、中国で未発達のアフターサービスでも差別化できるという思惑がある。
 
振り返ってみれば、TOTOが中国に進出したのは1986年。日本では創業100年を迎えたが、中国では32年の新参者にすぎない。国全体で経済の社会実験が続いている中で、TOTO中国がしっかり根を下ろすまでには、まだ多くの試行錯誤と苦難の日々が続きそうである。

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