「政策金利40%に」

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アルゼンチン通貨危機の様相、政策金利40%に
米利上げで止まらない資金流出、次はトルコ、ブラジル、メキシコか

アルゼンチン中銀=CC
 
6月13日に米国連邦準備理事会(FRB)が予想通り3か月ぶりの利上げに踏み切り、先行きの引き締めペースの加速も明らかになった。このため、市場ではドル高とドル金利の上昇見通しが強まり、新興国通貨の下落が懸念されたが、とくにアルゼンチンではIMFの支援が決定されたにもかかわらずペソの暴落が続いている。

6月15日には、前日にストゥルゼネゲル総裁が為替相場の暴落の責任を取って辞任を表明したあと、2日連続で史上最安値を更新、28.35ペソと一年前に比べて5割近い下落となった。

また一年前に、アルゼンチンが国際金融市場に復帰した際に、熱い視線を浴びて買いが殺到したドル建て100年債(27億ドル)も昨秋にはオーバー・パーを付けていたが、先週には87セントまで下落(金利は上昇)、15日にはさらに下落して79.1セントまで下落して債券保有者は一年足らずで2割の損失を被ることになった。当然のこととしてアルゼンチンの国際金融市場からの資金調達は再び困難となっている。

アルゼンチンでは、4月下旬ころからFRBの利上げ見通しの強まりを反映した米国長期金利の上昇の中で、多額の対外収支・財政収支の赤字、高インフレに悩むアルゼンチンに対する海外投資家の見方が急速に慎重化、ペソの急落が始まった。

これに対して中銀では為替市場での大量介入(ペソ買い・ドル売り)を通じてペソ防衛に努めたが、圧倒的なペソ売り圧力には抗せず、4月27日、5月3、4日と連日の利上げで通計12.75%の緊急利上げを実施した。この結果、政策金利は40.0%に跳ね上がった。

さらに6月7日にはIMFと500億ドル(期間3年)に及ぶスタンドバイ(緊急融資枠)に合意した。スタンドバイ合意と同時に緊縮的な経済プログラムをIMFと受入国で締結することになった。

今回も
①中銀の財政ファイナンスの中止、既往中銀借り入れの一部返済などを通じて、バランスシートを是正して中銀の独立性を強化すること、
②金融・為替政策面ではインフレ・ターゲット(現行15%)と変動相場制を維持すること、
③財政政策面ではプライマリーバランスの収支均衡を従来の2022年から2020年に前倒しにするために公共投資、公務員給与の大幅削減等、がプログラムとして盛り込まれている。

上記のような緊急利上げとIMF支援でいったんは収まるかに見えたペソの再急落は、アルゼンチン経済の先行きが容易ではないことを表している。もともと、フェルナンデス前政権の経済運営の失政を受けて登場したマクリ政権(2015年10月に誕生)に対する内外の期待が大き過ぎた反動が出ている面があろう。

またマクリ政権が財政赤字の削減も対外借り入れで歳入を補填する間に徐々におこなう、といった漸進主義を取っていたことも国民の痛みを軽減して50%程度という安定したマクリ政権の支持率につながった。しかし、2001年の経済危機時にも受けたIMF支援の緊縮策を国民はいまだに恨んでいる。

IMFプログラム導入で国民生活が窮乏化していけば、30%台に落ちたマクリ政権支持率は急降下が予想され、政権交代も視野に入りつつある。

しかし、今後を見通すと、財政の緊縮、高金利の下で、昨年末には3%程度と予測されていた2018年の実質GDPはインフラ整備のための公共事業の圧縮や投資・消費マインドの委縮から1.5%程度に半減する見通しだ。

消費者物価も前年比25.5%(18年4月)と高止まりを続けており、IMFにせかされた一桁台の上昇(2021年+9%)の背中は見えてこない。

何といっても経常収支の赤字が300億ドルを超える規模(17年中)にあり、対外債務残高が公的債務を主体に2,329億ドル(GDP比37%)と高水準であり、市場では約定弁済を危ぶむ声が再び高まっている。

米国の利上げは、順調な景気拡大を続けてきたうえに景気循環の観点からは全く不要なトランプ減税も加わったため、2018年中に4回と加速する見通しだ。

このため新興国に流入していた資金が米国に向かい、新興国のファイナンスが難しくなるとみられる。また米国利上げに伴うドル高とドル金利上昇は新興国の債務返済負担を引き上げることになる。

順調な成長を続けるアセアン諸国や中国、インドなどにはそうした危惧はいらないであろう。しかし、不安定な政権運営、払拭されない高インフレ、財政収支・経常収支の双子の赤字などに悩む新興国、現在であればトルコ、メキシコ、ブラジルなどは市場から狙い打ちされやすい。

その中でもアルゼンチンが最も危機的であろう。

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