「侮れない米朝会談の成果」

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侮れない米朝会談の成果、段階的非核化はもう始まっている

米朝首脳会談で笑顔を浮かべるトランプ大統領と金正恩委員長 

6月12日に開催された史上初の米朝首脳会談をめぐっては、「中身がなかった」といった批判がもっぱらだ。しかし、会談前後の両国の動きを見ていると、実はすでに段階的な非核化が進んでいると見ることができるのだ。

国内外の評価が散々だった
史上初の米朝首脳会談

6月12日に開かれた史上初の米朝首脳会談をめぐる国内外の評価は、散々だった。
 
トランプ米大統領と、金正恩・朝鮮労働党委員長が会談を派手に演出し、「『完全な非核化』をうたったものの、それに至る具体的な道筋が署名文書にはない」という多くの指摘は、その通りではある。
 
ただ、関係者によると、米朝間ではすでに互いに「行動で示す」段階に入っており、今回の首脳会談前後の動きはそれを裏付けるものになったと感じる。トランプ大統領が首脳会談後の会見で、「米韓合同軍事演習の一時中止」を唐突に発表したことはその証左だ。時間をかけて非核化を進める「段階的非核化」はすでにスタートしているといえるのだ。

好奇心旺盛な金委員長の一面を引き出したトランプ大統領

トランプ大統領と金委員長の首脳会談で印象的だったのは、署名を終えた両者が外に出て、大統領専用車ビーストに近づき、大統領がスタッフにドアを開けさせて、専用車の中身を見せたシーンだった。
  
ビーストの内部は、本来は大統領の警護上かなりの機密事項だ。トランプ大統領は、これまで鋭く対立してきた北朝鮮のトップに、その車内を見せたのだ。金委員長は興味深そうに中をのぞき込み、トランプ大統領に笑顔を見せた。その表情は、いつもの独裁者然とした姿とは違い、いわば子どものように見えた。
 
同日の米CNNでは、米プロバスケットボール(NBA)の元スタープレイヤー、デニス・ロッドマンのインタビュー映像が流れていた。ロッドマンは、金委員長と親交があることで知られる。
 
ロッドマンは、インタビューで、時には涙を流しながら、金委員長像についてこう語った。「彼は米国に行ってみたいと思っているんだ。彼は人生を楽しみたいと思っているんだ」
 
ビーストをうれしそうにのぞき込む金委員長と、ロッドマンの言葉が重なった。
 
米国への好奇心が旺盛で、あこがれを持つ若者──。
 
12日朝の最初の握手の際には、緊張気味でぎこちなかったトランプ大統領が、会談の最後に金委員長のそんな一面を引き出したのは、会談の内実を示すものとして興味深かった。
 
実際、トランプ大統領は、最初の二人だけの会談の冒頭では言葉少なで、ワーキングランチの際にも丁寧に握手していた。それが、署名式の段になると、場を仕切って記者の問いかけに何度も答え、いつもの“トランプ節”を取り戻していた。首脳同士の信頼関係を築いたことへの自信と満足感が見て取れたと思う。
 
両首脳が署名し、トランプ大統領がその場で掲げてみせた共同声明は、要約すれば、
(1)米国と北朝鮮は、新たな二国間関係を築く、
(2)米国は北朝鮮に体制を保証する、
(3)4月27日の(南北首脳会談での)板門店宣言を再確認し、北朝鮮は完全な非核化に取り組むという内容が書かれているに過ぎない。2002年の日朝平壌宣言を経て、2005年の6者協議の際に出された共同声明と比べても、今回の共同文書は具体性を欠き、見劣りするという見方もある。

10年以内の「段階的な非核化」を検討していたトランプ政権

ただ、実質的な中身は、むしろトランプ大統領の1時間以上にわたる12日の記者会見や、ポンペオ米国務長官の13日の記者団とのやりとりで明らかになったと筆者は感じる。
 
トランプ大統領が会見での主な発言は、
(1)「War Game(※米韓合同軍事演習の意味)を中断する、それは、われわれは交渉があるべき方向に進んでいないと感じない限り(中断し続ける)」、
(2)「非核化には一定の時間がかかる」「主要な期間は第1の期間だ」「15年かかるという報道があるがそうは思わない」、
(3)非核化の検証は、米国と国際的機関の「双方のコンビネーション」で行う、
(4)「今日は大変なプロセスの始まりだ」、
(5)「具体的な中身を合意文書に書き込めなかったのは、時間がなかったからだ」、といった内容だった。
 
トランプ大統領は、非核化には時間がかかり、第1、第2といった何段階かの期間があることを示唆しており、これは「段階的な非核化」を意味しているといえる。
 
首脳会談前、トランプ政権に近い関係者から筆者は、「政権内で検討されているのは、10年以内の段階的な非核化だ」と聞いていた。スケジュールははっきりしないものの、大統領会見から見えたのは、当初の想定に沿った合意内容だ。
 
また、ポンペオ国務長官は首脳会談の翌日の13日、ソウルで記者団に「大幅な(major)軍縮は、トランプ大統領の任期である今後2年半の間におこなわれる」との考えを示した。

「大幅な」という表現がどの範囲の非核化を意味するのかは分からないが、米国側は北朝鮮の段階的な非核化を、まずはトランプ大統領の今の任期の2021年1月までをターゲットに進める意向と考えていいだろう。米国では今年11月に中間選挙を控えるだけに、動きが加速する可能性もある。
  
ただ、米国にとって厳しかったのは、米朝首脳会談の前日、11日の会見で、ポンペオ国務長官が、「大事なのは『V(検証)』だ」と強調していたにもかかわらず、合意文書にはそれを書き込めなかったことだろう。そして、トランプ大統領が強い意欲を示していた、「朝鮮戦争の終結」を盛り込めなかったことも、米国が後退を余儀なくされた点といえる。

米側が切った大きなカードは「米韓合同軍事演習」の中止

ポンペオ長官は13日、「合意文書には入っている。『完全』という言葉は、検証と不可逆という意味を包含している」と強弁したが、これはいかにも苦しい。ただ、トランプ大統領が会見で、検証は米国と国際機関の「コンビネーション」で行うと示唆しているだけに、議論はなされていると見た方がいいだろう。

米側が切った大きなカードは
米韓合同軍事演習の中止
 
トランプ大統領の「米韓合同軍事演習の中止」発言を聞いたとき、筆者は、政権に近い関係者に最近聞いた、米朝の事前交渉の実態についての話を思い出した。
 
関係者が言っていたのは、「米国は、北朝鮮に対し『まず行動で示せ』と伝えている。北朝鮮が行動したときに、米国が次に何をするかは約束していない。米国は、自分の行動は自分たちで決める」という話だった。
 
北朝鮮はすでに、「3人の拘束米国人の解放」や「核・ミサイル実験の停止」「核実験場の廃棄」を首脳会談前に行っていた。筆者は、米国がその見返りにどんな行動を取るのか注目していただけに、「米韓合同軍事演習の中止」という大きなカードを記者会見の場で切ったことに、「なるほどこれが米国からの行動なのか」と腑に落ちた思いだった。
 
トランプ大統領は、何の保証もなく「米韓合同軍事演習の中止」に踏み込んだのではない。北朝鮮が積み重ねてきたこれまでの行動への「見返り」として、大きなカードを切ったのだ。
 
その意味では、次に大きな行動を求められるのは、北朝鮮側だ。段階的な非核化に向けたプロセスは、実質的にスタートしている可能性がある。
 
もちろん、北朝鮮が過去繰り返してきたように、行動を取らない可能性は多いにある。ただ、過去と今回が違うのは、首脳同士が会って約束したという点だ。トランプ大統領は毀誉褒貶が激しく、怒り出すと手がつけられない気性の持ち主だ。金委員長は、その「恐ろしさ」にも今回十分触れたのではないか。

「経済支援は日韓で」は、米政権内の既定路線

今後の動きがどう推移するかは、今後の両者の具体的な行動を見極めていくよりほかはない。ただ、米朝首脳が膝詰めで交渉し、基本的な合意に達し、トランプ大統領の会見内容からは、それなりの具体性があることもうかがえることを考えれば、今回の首脳会談の成果を「中身がない」と斬って捨てるのは早計だと思う。
 
ちなみに今回の会見でトランプ大統領が、非核化のコストについて「韓国と日本が大きく支援すると思う。彼らもその用意ができている」と語ったことが、国内で物議をかもしている。
 
ただ、トランプ大統領は6月1日に、12日の首脳会談を予定通り行うことを表明した際にも、非核化合意後の北朝鮮の経済支援について、「韓国や日本が支援する」との考えを明確に語っていた。その際には、「私は、韓国には『準備しておかないといけないよ』とすでに言っている。日本に対しても、だ」と明言していた。
 
経済支援について「韓国や日本が行う」というのは、トランプ政権にとってはすでに既定路線だ。

日本政府は、米国側とどういう話し合いをしているのかを、国民にもっと明確に説明する責任があると思う。

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