「中国の「一帯一路」を分断する軍事的武器」

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中国の「一帯一路」を分断する軍事的武器 キャパビルでぎらつく米国を

防衛省・自衛隊が急速に実績をあげている分野がある。他国軍に対する「能力構築支援(キャパシティ・ビルディング=キャパビル)」だ。

あまり聞き慣れない言葉だが、平成24年度の開始から東南アジアを中心に支援対象を拡大し、14カ国・1機関に上っている。費用対効果は高く、政府内では中国の経済圏構想「一帯一路」を分断する軍事的武器と位置づけられ、米国やオーストラリアと連携した支援を見据える。

一石三鳥の意義

キャパビルは他国との安全保障協力の柱として重要性が高まっている。専門知識を持つ自衛官らを派遣したり、支援対象国の実務者を招いたりして他国軍の能力を高めることが目的だ。

支援活動の意義として(1)対象国の能力向上により国際安全保障環境の安定化に貢献(2)支援を重視する米国やオーストラリアとの連携で協力関係を強化(3)支援を通じて国際社会での日本の信頼性が向上-があげられる。

支援内容としては、自衛隊が災害派遣や国連平和維持活動(PKO)で蓄積したノウハウを有効活用できる災害救援や人道支援、施設整備の分野が多い。

昨年、南スーダンのPKOに派遣されていた陸上自衛隊施設部隊が撤収して以降、自衛隊はPKOに部隊を派遣していない状態が続いているが、そうした中でキャパビルはいっそう存在意義を増す。

自衛隊幹部はこう指摘する。

「中国と北朝鮮の軍事的脅威にさらされている自衛隊が日々の任務が増えていることを踏まえれば、無理をしてまで部隊をPKOに出すべきではない。それよりもキャパビルを通じ、これまでに派遣したPKOで得たノウハウを他国に伝授するほうが費用対効果は高く、国際社会のためにもなる」

視線は南アジアへ

防衛省がこれまでのキャパビルで東南アジアを重視してきたのは、資源を依存している中東から日本に至るシーレーン(海上交通路)に東南アジアが位置しており、東南アジアの安定が損なわれれば国益に直結するからだった。

東南アジアに続き、防衛省・自衛隊はキャパビルによる次の支援対象として南アジアに視線を向ける。具体的にはスリランカへの支援を想定し、防衛省はスリランカ側と海洋安全保障や災害救援など支援内容の具体的な協議に入った。

スリランカは太平洋とインド洋を結ぶシーレーンの要衝で、キャパビルが南アジアのスリランカにも拡大することに防衛省幹部は「画期的だ」と指摘する。

キャパビルは安倍晋三首相が唱える「自由で開かれたインド太平洋戦略」のテコにもなり得る。

同戦略は中国の「一帯一路」に対抗する意味合いもある。インド洋では中国が軍事・経済両面で存在感を高め、スリランカでも昨年12月、重要港湾の99年間の運営権を得るなど影響力を強めているだけに、キャパビルという安全保障協力を通じ日本がスリランカとの関係を強化すれば中国を牽(けん)制(せい)できる。

日米豪の枠組み

同戦略では米国のほか、太平洋とインド洋に面するオーストラリアとの連携も不可欠だ。支援対象地域の拡大と並び、キャパビルをめぐる日米豪の枠組みでの連携強化はもうひとつの注目点となる。

「ハリィ・ハムトゥック訓練」。東ティモールの公用語のテトゥン語で「ともに築く」という意味で、同国でのキャパビルの訓練名だ。

この訓練はオーストラリア陸軍の主催で米海兵隊と海軍も参加し、陸上自衛隊も平成27年から参加しており、日米豪の枠組みによるキャパビルの成功例だ。陸自はこの訓練で施設整備の測量や機械整備、救急法の指導を担当している。

自衛隊は東ティモール以外にもベトナムやフィリピンで日米豪の枠組みで支援を行った実績がある。

ただ、一般的に東南アジア各国はキャパビルで米国が前面に出てきたり、米国を中心とした多国間の枠組みで支援したりしようとすれば、受け入れに腰が引ける傾向があるという。

対中戦略に組み込まれることに二の足を踏むためで、それでもなおキャパビルを受け入れたいと決断させる価値を提示できるかが日本政府には問われる。

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