「シリア攻撃で北は何を学んだか」

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シリア攻撃で北は何を学んだか キヤノングローバル戦略研究所研究宮家邦彦氏

4月13日夜、トランプ氏は対シリア攻撃を命令した。9日には「今後24~48時間以内に決断」と述べている。結果的に2日遅れの決定となったが、この遅延の意味は何だろう。

今回は限られた情報の中から、トランプ政権が対象を化学兵器施設に限定する小規模攻撃を選んだ理由と、それが北朝鮮問題に及ぼす影響を考える。

ロシアとの全面戦争は回避
筆者の見立ては次の通りだ。
○攻撃以外の選択肢はない

口から泡を吹く幼女の悲惨な映像が再び全世界に流れた以上、昨年4月に対シリア攻撃を命令したトランプ氏に今回「攻撃しない」選択肢はなかった。これが9日に早期攻撃を示唆した理由だ。

○最も簡単な手段は限定攻撃

早く結果を示したいなら、昨年同様、トマホークによるシリア化学兵器関連施設攻撃が最も手っ取り早い。にもかかわらず決断が2日遅れたのは、恐らく大統領自身が、昨年のような限定攻撃ではなく、より大規模な攻撃を考えていたからだろう。その場合、シリアに駐留するロシアやイランの空軍施設までもが攻撃対象となる。

○ロシア軍攻撃など問題外

シリア国内にはロシアの軍事拠点が24カ所ある。仮に一部であれ、これらを攻撃すれば、理論的には米露核戦争にエスカレートする可能性がある。だが、両国ともシリアのために全面戦争を戦う気などないから、今回も米国にはロシア軍事拠点を攻撃対象とする選択肢などなかったはずだ。もしあったとすれば驚きである。

○イラン攻撃なければ進展なし

一方、同じくシリアに駐留するイラン革命防衛隊の拠点は40カ所近くもある。これまでアサド政権はイランの支援なしに存続できなかったし、今後も同様だろう。逆に言えば、イランを攻撃対象としない限り、欧米が望む形でのシリア内戦終結は望めないのだ。

○イラン軍とロシア軍は同居中

ところがイランの軍事拠点だけを攻撃することは難しい。空軍施設を中心に、イラン・ロシア両軍が同居する拠点は20カ所近くもあるからだ。革命防衛隊への攻撃は対ロシア軍攻撃と同義なのだ。

対立勢力の跋扈は変わらない

○大規模攻撃は法的に説明困難

マクロン仏大統領はトランプ氏に対し、「長期間シリアに関与する」一方、目標を「化学兵器に限定する」よう説得したという。対シリア武力攻撃容認決議がない現状では致し方ない選択だ。法的正当性の難しさは米国に同調した英仏にとっても同じなのだ。

○トランプ政権内の議論

米政府内で戦争に最も反対するのは、自分の部下が最初に死ぬかもしれない将軍たちだ。今回も大規模攻撃に強く反対したのはマティス国防長官だったという。最近米国で戦争を始めるのは、軍人ではなく、文民なのである。

○限定攻撃で内戦は解決しない

すったもんだの末、結局選ばれたのは昨年と同様の限定目標に対するミサイル攻撃だった。異なるのは参加国数と発射ミサイル数だけ。これでシリア内戦が解決するはずはない。

「イスラム国」が掃討されても、この地でロシアとイランが支援するシリア政府、米国と一部アラブ諸国が支援する各種反政府勢力、最も戦闘能力の高いシリア系クルド勢力を攻撃する北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコなど魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する状況は当分変わらないだろう。

核兵器開発の基本戦略を堅持か

シリアはこのくらいにして、北朝鮮に触れたい。今回の攻撃開始当時、筆者は東京で朝鮮半島有事を想定した政策シミュレーションを主催していた。

キヤノングローバル戦略研究所が年3回実施する演習の一環だ。今回は日米中韓の国会議員、官僚、軍人、研究者、ジャーナリスト約70人が集まり、24時間、6カ国のチームに分かれた仮想空間で、南北首脳会談、米中首脳会談を行った後、交渉による解決が挫折し、軍事的緊張が高まる状況を経験した。結果については別途書くこととし、ここでは筆者が朝鮮半島の軍事情勢について改めて学んだことを書こう。

要は「対シリア化学兵器施設限定軍事攻撃ではシリアからの報復攻撃はなかったが、北朝鮮については核施設に対する限定攻撃の実施自体が極めて難しい」ということだ。

北朝鮮にはソウルを狙う数千基の長距離自走砲・多連装ロケット砲による報復能力がある。考えてみれば当たり前なのだが、これこそシリアと北朝鮮の相違点なのだ。

米国の対シリア攻撃で、北朝鮮は「軍事攻撃も辞さない米国を抑止するには核兵器開発継続が不可欠だ」との基本戦略の正しさを再認識したに違いない。

そのような状況下では、仮に米朝首脳会談が開かれても、北朝鮮核問題の解決につながる可能性は一層減少するばかりだ。

日本にとっては、中途半端な合意で会談が成功しては困るし、決裂して戦争が勃発すればなおさら困る。

トランプ政権が北朝鮮につき正しい判断を下すよう祈るしかない。国難に直面する今こそ、日本外交にとっては正念場である。

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