「南北、米朝会談」

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北朝鮮ペースに乗るな!南北、米朝会談を前に元駐韓大使が指摘
武藤正敏:元・在韓国特命全権大使 

南北高官級会談 は、4月27日に首脳会談を開催することで合意した 

北朝鮮は米朝首脳会談においても
非核化に前向きな対応は示さない

4月6日付けの日本経済新聞は、「金正恩朝鮮労働党委員長が、中国の習近平国家主席との会談で6ヵ国協議の再開を提案した」と報じた。北朝鮮の非核化問題を「対話」で解決したいと願う人々は、これを北朝鮮が対話の意思を明確にした“証左”と見るだろう。

しかし私は、北朝鮮が「米国のペースでは非核化の話をしない」との意思表示だと捉え、万が一、米朝協議が決裂した時に備えて中国の後ろ盾を得るべく、中国主導の対話の枠組みの再開を依頼したものだと考えている。

結論から言えば、北朝鮮は米朝首脳会談において、「朝鮮半島の非核化」や「段階的非核化」など、米国がとても受け入れられない提案をしてくるものと見られる。それを事前に中国側に伝え、中国の了解を取ったのではないだろうか。

そして、協議が決裂した場合に、米国が北朝鮮を攻撃しないよう牽制してほしい、また、6ヵ国協議を主催して北朝鮮が主張するラインで交渉をまとめ、北朝鮮への経済協力の道筋をつけてほしいという思惑もあるのだろう。

急変したのは対北強硬派2人が政権入りしたから

もともと、北朝鮮は自身の非核化に言及したことがない。北朝鮮が言うのは、あくまでも「朝鮮半島の非核化」であり、それはグアムなどからの米軍の戦術核を北朝鮮に向けないことも含まれている。また、南北首脳会談の討議のテーマとして挙げられている「平和体制の構築」は、これまでの休戦協定を平和協定に変え、在韓米軍の撤退や縮小を行い、北朝鮮の体制保障を求めるものだ。

また、「段階的非核化」は、小刻みな譲歩で“核カード”を温存したまま、経済的な支援を先取りして行こうとするものである。こうした妥協は、1994年の米朝枠組み合意、05年の6ヵ国協議の合意で経済支援を受けながら、約束を反故にしてきた経験から、「またか」という感じである。

要するに北朝鮮は、実質的には何も譲歩せずに時間を稼ぎ、その間に経済支援を受けようとしているとしか考えられないのである。

態度を急変させたのは
対北強硬派2人が政権入りしたから

そもそも、中朝関係者によれば、中朝首脳会談に向けた調整が始まったのは昨年末のこと。それまでの北朝鮮は、中国側の再三の訪中提案に見向きもしなかったが、態度を急変させた。

背景にあったのは、米国で穏健かつ対話重視派であったティラーソン国務長官が更迭されて、その後任としてポンペイオCIA長官が指名、またマクマスター外交安保補佐官に代えてボルトン元国連大使が就任したことだ。

この2人は、いずれも北朝鮮に対して軍事行動も辞さない考えであるとされ、米朝首脳会談が決裂した場合、米国による北朝鮮攻撃の可能性が高まったと受け止めたのだ。

対話は時間稼ぎや、隠れ蓑であってはいけない

これまで北朝鮮は、米国の圧力をかわすため、北朝鮮に対し極端に甘い韓国の文在寅政権との対話に乗り出していた。文政権は、金正恩委員長の意向によく応え、米韓合同軍事演習は一時延期したほか、再開した後も、原子力空母の参加は見合わせた。そこまでは成功であった。

しかし、トランプ米大統領が、米朝首脳会談提案を受諾したことで、直接トランプ政権と対峙することになった。韓国は丸め込めたものの、米国が相手ではそれも容易ではない。ましてや、トランプ大統領の周辺にいる人物は超強硬派。そうした状況の変化を前に、韓国の“盾”だけでは不安になり、中国という“後ろ盾”も必要だと考えているわけだ。

対話は時間稼ぎや
隠れ蓑であってはいけない

それでも、対話が行われている間は、朝鮮半島における戦闘行為は避けられるので、ベターだと考える人は多い。たとえ米朝協議が決裂しても、6ヵ国協議があれば戦闘行為にはならないから、協議を続けるべきだという考えだ。

しかし、北朝鮮が核ミサイルを保有したままの協議は、今後の日本の安全保障にとって重大な脅威になる。単純に、「朝鮮半島で戦闘が起きなければそれでいいのだ」という考えは危険だと思う。

その場合どうすべきか。金正恩委員長が父の金正日氏の行動から学んだように、こちらもこれまでの北朝鮮の行動を学ぶべきだ。

対話は「時間稼ぎ」であってはならず、経済支援を受けるための「隠れ蓑」であってはならない。要するに、日本は対話には応じつつも、米朝首脳会談における北朝鮮の対応いかんによっては、北朝鮮を支援するのではなく、圧力を強化していくことが必要なのだ。

金正恩委員長は、日米韓の弱点をいかに突いていくか周到に準備して対応している。これまで散々振り回されてきたが、日本としても対抗策を入念に検討し、北朝鮮に圧力をかけていくべきだ。

安倍首相はトランプ大統領を導くべき

トランプ大統領を
導くべき安倍首相

そういう意味では、日米首脳会談が非常に重要である。ただ、残念ながらトランプ大統領は衝動的で、他人の言うことを聞かず、自分の取った行動を自画自賛するだけだ。ワシントンの有識者の間でも、トランプ大統領の周りには北朝鮮の行動を理解する者がおらず、北朝鮮との交渉に十分備えられないのではないかとの懸念を抱く人が多い。

そんなトランプ大統領の北朝鮮問題に関する相談役となってきたのが安倍首相だ。

安倍首相には、過去の行動から見た北朝鮮の本質を再度確認してもらい、安易に妥協することはトランプ大統領の功績につながらないことを強調しつつ、是非、次の2点を助言してもらいたいと思う。

まず、文大統領の北朝鮮に対する「前のめり政策」は、北朝鮮の非核化までは求めず、核凍結と引き換えに北朝鮮に対し経済支援を行い、「段階的に北朝鮮の非核化を進めていく」と言って、北朝鮮といっそうの宥和(融和ではない)を進めていこうというもので、確信的なものだ。

これでは北朝鮮の主張と大差ない。したがって、4月27日の南北首脳会談において、文大統領は北朝鮮の主張を受け入れ、経済協力に動き出すことが懸念される。

そこで、トランプ大統領から文大統領に、はっきりと「北朝鮮の非核化なしには経済協力はまかりならん」と伝えてもらうことが重要だ。

河野太郎外務大臣が述べた「非核化の定義を日米韓で話し合うべきだ」という点は非常に重要であり、文大統領の考える、「まず核凍結」という考えは受け入れ難いということ、まして朝鮮半島の非核化などという北朝鮮の主張を受け入れることについて、日米は大反対であるということを、明確に申し入れてもらう必要がある。

米朝協議不調の際に、6ヵ国協議はないと中国に言うべき

文大統領の「前のめり政策」の成果は、北朝鮮を対話に引き出したことであるが、それ以上に重要なのは、北朝鮮が米国の行動を真に恐れており、それは何としても避けたいとの思いが強いことを証明したことだ。

したがって、米国が強く出ても北朝鮮から、何か事を仕掛けることはない。

だからこそ、トランプ大統領には、北朝鮮に妥協することがないよう、文大統領を説得してもらいたい。それができるのは、トランプ大統領だけである。

そもそも、これまで北朝鮮ペースで物事が進んできたのは、日米韓の協力のベースがあいまいなまま、韓国が前のめりになって北朝鮮と交渉をしてきたからだ。したがって、今一度、原点に立ち返って、北朝鮮との交渉をやり直すべきだ。そのためにはまず、日米と韓国で考えの異なる「非核化」について調整すべきである。

米朝協議不調の際には
6ヵ国協議はないと中国に言うべき

そして第二に、中国に対しては、米朝協議が不調となった場合には、6ヵ国協議という選択肢はないということを明確にすべきだ。

米朝協議において、北朝鮮が朝鮮半島の非核化や、段階的非核化などを言い出した場合には、それ以上の対話はない、そして首脳会談の際により現実的な解決策を提示しなければ問題解決の道はない旨、北朝鮮に申し入れるよう伝えるべきである。

中国は現在、米国との貿易問題を抱え、米国との立ち位置に腐心している。そこで、米国に恩を売るには、北朝鮮問題の解決に尽力することが不可欠であるというメッセージを伝えることも重要だ。そして、もし北朝鮮に加担するようなことがあれば、貿易問題は一層深刻になることを悟らせることが重要である。

日朝首脳会談については、忍耐強く北朝鮮の出方を見るべき

最後に、日朝首脳会談について述べておこう。

日本国内には、日本だけが乗り遅れるのではないかとの懸念がある。確かに、拉致問題の解決には、日朝首脳会談が不可欠だ。日本にとって日朝首脳会談を行う動機は拉致問題解決であるが、北朝鮮にとっての動機は、日本から戦後処理の一環として多額の経済協力資金を得ることだ。

しかし、北の核問題が解決しない中で、日本が多額の資金援助を行うことは、金正恩体制の温存、北朝鮮の核ミサイル完成につながりかねない。そうした状況下での日朝首脳会談となれば、日本の立ち位置は非常に難しい。

日本が日朝首脳会談を急いでいるとの感触を与えることは、北朝鮮ペースでの会談を招きかねない。ここはつらいが、忍耐強く対応していくことが肝要だと考える。

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