「減反廃止」

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減反廃止に大賛成!「JA健全度」首位の異色組合長が訴える農協の原点
小田嶋契・JA秋田ふるさと代表理事組合長

農協本来の役割は
困った農家が相談できる場の提供
――昨年、元常勤監事による9400万円の横領が発覚しました。

農協の信頼を損ねてしまい、大変申し訳なく思っています。昨年末に第三者委員会がまとめた不祥事に関する報告書の内容を踏まえ、役員の責任の取り方も含めて今年3月までに結論を出したいと考えています。

こうした状況でインタビューを受けるのは心苦しかったのですが、アンケートで自発的に農協の姿勢を支持してくれた組合員への感謝の気持ちもあり、取材に応じました。

――JA秋田ふるさとは週刊ダイヤモンド「JA経営健全度調査」でトップ、小田嶋さんは担い手農家が決める「JA役職員ランキング」で1位でした。農家に支持される秘訣を教えてください。

私はコメ農家です。かつて農協はふらっと寄って茶を飲んで帰れる場所でした。しかし、合併で組織が大きくなり、気軽に訪ねにくい雰囲気になりました。そこを変えたいと思って農協の役員になりました。

農家支援が農協の使命

農協本来の役割は、困った農家が相談できる場を提供することです。この機能を発揮するために6年前に「担い手支援室」をつくりました。

支援室では、税務や農地賃借などの相談を受けます。農協の事業拡大よりも、農家にとってベストな選択は何かを考えて提案します。(競合の)日本政策金融公庫の融資が有利なら、そちらを紹介するんですよ。

農協以外のサービスを利用することを悪のように言う人がいますが、それは間違いです。

農家が経営破たんしても我々は責任を取れない。それなのに、(組合員はJAの事業を利用するべきという)協同組合論でがんじがらめにするのは変でしょう。

選んでもらえるようにサービスを改善すればいいのです。

利益を生まない担い手支援室に、信用や営農など各事業のエースを集めることに職員は反対しました。でも農家支援が農協の使命です。信用、共済、農産物の販売などの事業はそれを補完するものにすぎません。

農協が農家のために
何ができるかという原点に返る

――しかし、JAグループでは農林中央金庫、JA共済連など全国連がそれぞれの事業目標をJAに押し付ける構造があります。総合農協と言いながら縦割りが甚だしいのでは。

私たち農家は全国連のために農業をやっているわけじゃないですから。本来、農協の理念が事業やその目標をコントロールすべきですが、現状は事業が理念を支配している。それを変えるには農協が農家のために何ができるかという原点に返ることです。

その改革は生易しいことではなく、自らが農家の代表であるという自覚がない事務屋にはできません。事務屋にできるのはせいぜい改善です。

全国連の縦割りの状況が変わるのを期待していても無理なので、まず農協が変わることです。その上で農協が全国連を上手に利用すればいい。

1粒でも多く収穫したい農家の気持ち、道徳

緒形直人主演の映画に「郡上一揆」というのがありました。農家が搾取されようとしているとき、打ち首覚悟で不正を訴える映画の主人公のように農家代表としてJA全農や国に意見することが組合長の最大の役割だと思います。

1粒でも多く収穫したい
農家の気持ち、道徳

――JAグループは減反廃止に反対していましたが、小田嶋さんどう考えますか。

生産数量目標(減反における農家別の生産量の上限)の配分にはずっと疑問を持ってきました。減反廃止はいいことだと思います。

そもそも農家の先輩方は45年前、減反に反対していました。今回の減反廃止は、かつての農政運動の悲願が今、成就したということですよ。

1粒でも多く収穫したいというのが農家の気持ちであり、道徳だと思います。生産調整をするから何割植えるなとか、不便な田んぼには作付けしないとかいうのは生産調整が生んだモラルハザードです。

30年前、私は父にものすごく怒られたことがありました。刈り取った稲を運ぶ際にこぼしていたからです。コメが余っているんだからこぼしても大したことないと思っていましたが、父にはそんな態度が許せなかったんでしょうね。

本来、農家の技術は1粒でも多く作るためのものです。農業の根底にある道徳が生産調整で損なわれきました。

――18年産米からはコメの生産、販売をどう変えていきますか。

米卸などの取引先からの引き合いが強く、現在の生産量では「あきたこまち」が足りません。

減反廃止を契機に、生産量を増やすことにしました。作れる余裕のある組合員は作ってくださいと呼び掛けて、1年間で100ヘクタールの作付けを増やします。

JAグループ内の機能分担が混乱している

業務用向けのコメとして収量が多い多種米の品種にも取り組んでいます。

――JA秋田ふるさとは全農を利用する比率が高いようですが、これは民間企業と比較した結果ですか。

コメの販売でも、農家が使う肥料、農薬の調達でも、8割ほどを全農を通じて取引しています。全農には無理な注文をしますが、頑張ってくれていますよ。

生産資材の調達では以前から全農とそれ以外の民間企業とで相見積もりを取っています。

農協が全農を通さずに農産物を販売
重要なのは結果

――それはJA秋田ふるさとが全農と粘り強く交渉しているからだと思います。他の地域のJAはそうした交渉をしておらず、その結果、JAや全農への不満につながっています。

全農の努力が農協に伝わっていなかったというのはあります。特に、(都道府県組織の)経済連が全国連の全農に統合されてから努力が見えにくくなった。

話は変わりますが、農協が全農を通さずに直接農産物を販売することが自助努力の象徴として見られ、パフォーマンスになっているのは問題です。中には農業所得の向上につながっていないケースもありますから。

全農ルートかそれ以外のルートなのかが問われるべきではなくて、重要なのは結果です。

全農だけでなく農協もコメを売るようになって、JAグループ内の機能分担が混乱している面がある。交通整理が必要かもしれません。

農業は家族との時間が持てるいい仕事
やりたいことを実現するには

農協組合長のポジションが一番良い

――クボタやヤンマーなど企業も農家の支援機能を強化しています。危機感はありますか。

農協も他の農業関連の事業体と競い合っていかないと成長しません。
JA秋田ふるさともソフトバンクグループと組んで、農業のIoT(モノのインターネット)や衛星によるコメの生育状況の把握などを試験しています。今後も技術開発に挑戦していきます。

――多くのJA職員は共済加入やお中元、お歳暮などの販売ノルマ達成を迫られ、余裕がないようです。

今の事業推進は本当に必要なのかという疑問を持ってきました。本業の農業とは関係ない商品の販売が多いからです。JA秋田ふるさとでは少しずつノルマを減らしています。

これからの時代、ITなどを駆使していかにサービスを維持するかが問われていて、そのためには若手職員の発想が不可欠です。職員がのびのびと知恵を出せる環境をつくることが重要です。

――上部団体のトップになってJAグループを改革するつもりはありませんか。

それは思わないです。やりたいことを実現するには農協組合長のポジションが一番良い。上を目指せばまとめ役にならざるを得ないし、いつの間にか農家の視点を忘れてしまうことも多いようです。

組合長は内規で3期しかやれません。最短で2年後、長くやっても5年後には私は農家に戻りたい。農業は家族との時間が持てるいい仕事ですよ。

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