「派閥」

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さまよう『名門派閥』 額賀派“お家騒動”

通常国会が召集された3日後の1月25日、自民党のある「派閥」に激震が走りました。舞台となったのは、かつて党内で最大派閥だった竹下派の流れをくみ、「名門派閥」とも言われる額賀派。正式名称は平成研究会。所属する参議院議員が会長を務める額賀元財務大臣の退任を求めて、派閥から離脱する構えを見せ、分裂含みの様相となったのです。

ことし秋に自民党総裁選挙が控えることから、その成り行きに、党内の注目が集まりました。額賀派の内部では何が起きていたのか。騒動の結末は。そして、総裁選挙への影響は。「名門派閥」の分裂騒動の2週間を追います。

分裂騒動は突然に

「あす、参議院側が、“額賀会長”の退任を求めて動くかもしれない」
同僚記者から情報が入ってきたのは1月24日(水)の夕方でした。

“額賀会長”とは、財務大臣や自民党の政務調査会長などを歴任してきた額賀福志郎氏。会長として、党の派閥・額賀派を率いています。

派内では「額賀氏は親分肌ではないが人柄はいい」(衆院側の派閥幹部)という評価の一方、「おととしの参議院選挙と去年の衆議院選挙で所属議員を何人も落選させた」(参院側の派閥幹部)などと厳しい声も出ていました。

ただ、参議院側が、実際、どのような行動に出るのかはわからないまま私は取材に入りました。参議院側の動きが表面化したのは、翌25日(木)午前。安倍総理大臣への代表質問が行われていた参議院本会議場でした。

所属の参議院議員のメンバーに「第6控室に昼食を用意しております」という紙が配られたのです。

額賀派では、毎週木曜日、国会近くの派閥の事務所に衆参両院の所属議員が集まり、国会や党内に関する情報交換をしながら、昼食をとるのが定例となっています。

その定例の会合をボイコットし、参議院議員だけで、別の会合を開こうというのです。

この時点で、すでに、参議院側の幹部から周到な根回しが済んでいて、会合には、額賀派に所属する参議院議員21人全員が集まりました。会長である額賀氏の退任を求めて、吉田博美参議院幹事長を中心に一致結束して対応することを確認。

そして、額賀氏が、1月中に会長を退任する考えを表明しない場合には、派閥から離脱する考えを明らかにしたのです。

吉田博美参議院幹事長

同じ頃、派閥の事務所では、参議院側の欠席によって空席が目立つ中、衆議院議員だけで定例の会合が開かれました。議員たちは、突然の参議院側の動きに戸惑いの表情を見せ、派閥幹部の1人は「参議院側は腹をくくっている。額賀氏が退任しない場合、脅しではなく、本当に派閥が分裂する」と危機感をあらわにしていました。

そもそも派閥って?
そもそも自民党の「派閥」とは、何なのでしょうか。

自民党には、現在、額賀派のほかにも、細田派、麻生派、岸田派、二階派、石破派、石原派と7つの派閥に加えて、谷垣前幹事長を中心としたグループがあります。政策集団として、政策の勉強や、国会情勢などについて情報交換を行っているほか、国政選挙では、派閥の幹部や閣僚が、所属議員の応援に入ったり、自民党総裁選挙で結束して候補を支援したりしています。

かつては、各派閥が、それぞれのリーダーを総理・総裁に押し上げるためにしのぎを削っていました。

当時は衆議院の選挙制度は、1つの選挙区から複数の当選者が出る中選挙区制で、同じ選挙区で自民党の候補者どうしが激しく争っていました。派閥ごとに候補者を支援し、所属議員を集めていました。

そして、閣僚や党役員の人事では、派閥が推薦名簿を提出して、起用を強く迫ったり、所属議員に対し、資金面でも支援したりしていました。派閥が、人事、カネ、選挙を握っていたと言えます。

ただ、選挙制度が、小選挙区制に変わって以降、選挙の公認権や、人事権を自民党総裁を中心とする党の執行部が一手に握り、派閥の力が弱まったと指摘されています。

自民党幹部の1人も、「気の合う仲間の集まりで、かつてのように派閥が固まりになって政権闘争をするという色彩は次第に薄れている」と話しています。

かつての”名門”が

派閥の弱体化の流れが進む中、額賀派の参議院議員は、どうして、離脱をちらつかせて会長の交代を迫るという強硬手段に出たのでしょうか。背景には、党内で派閥の存在感を発揮できていない現状への不満があります。

額賀派は、田中角栄元総理大臣が率いた田中派から、竹下登元総理大臣が分かれる形で旗揚げした竹下派の流れをくんでいます。党内で最大派閥として、竹下、橋本、小渕の3人の総理大臣を輩出するとともに、数の強みをいかして、他派閥から総裁を担ぎ出す際にも影響力を発揮し存在感を示してきました。

しかし、「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉総理大臣の登場で、状況は一変します。ある派閥幹部は「小泉総理大臣は自民党ではなく、派閥政治の中心にいたわれわれの派閥をぶっ壊した」と指摘。派閥の勢いは、その後、右肩下がりになったと話します。

額賀派には、現在、衆・参合わせて55人の所属議員がいるものの、安倍総理大臣の出身派閥である細田派と、麻生副総理兼財務大臣が率いる麻生派に次ぐ、党内第3派閥にとどまり、ここ近年は有力な総裁候補も出せずにいます。

かつての「名門派閥」の存在感の低下に、参議院側では8年余りにわたって会長を務めながら派閥の勢いを回復できない額賀氏への不満が噴出。
「こうでもしなければ額賀氏は決断しない」(参院側幹部)と、今回の強硬手段にでたのです。

ちらつくドンの影

今回の参議院側の動きのもう1つの背景には、かつて「参議院のドン」と言われ、今も派閥に強い影響力を持つ青木幹雄氏の存在があると見られていました。

党内では、この1点をもって、ことし秋の自民党総裁選挙に絡めた臆測が飛び交います。というのも、2年前の参議院選挙で、合区となった鳥取・島根選挙区で青木氏の息子の一彦氏が当選しましたが、この時、支援したのが鳥取を地元とする石破元幹事長でした。

このため、「青木氏は、総裁選挙で、石破氏の支援に回るつもりではないか」といった観測が、まことしやかに語られるようになったのです。

額賀派の幹部は、「今回の騒動と総裁選挙は関係のない話だ」と総裁選挙の対応をめぐって起きた動きではないと一様に強調するものの、分裂騒動の成り行きに、熱い視線が注がれることになりました。

分裂は回避を!

額賀氏ら派閥の幹部は、事態の収拾に向けて、当選1回の若手から順番に、すべての衆議院議員を対象に派閥運営についての意見聴取を始めます。

聴取では、「来年は参議院選挙を控えており、一致結束すべきだ」、「参議院側の離脱は、衆議院側にも、参議院側にもいいことはない」など、派閥の分裂は避けるべきだという意見が相次ぎました。

このため当初は、「参議院側は会長を交代させるほど偉いのか」といった声もあった派閥の幹部にも、「派閥の分裂を回避するには結論は1つしかない。額賀氏も賢明な判断をするはずだ」と、額賀氏の自発的な退任に期待感が生まれていました。

参議院側が離脱すると額賀派は34人となり、党内で第5派閥に転落。「派閥が分裂して人数が半減しては影響力も発揮できない」(派閥幹部)という危機感がありました。

しかし、額賀氏は「参議院側が問答無用で辞めろと言ってくるのはおかしい。大義がない」と周辺に話すなど、参議院側の圧力で退任することに、難色を示していました。

額賀氏は、派閥を分裂させてはならないという所属議員の思いは受け止めつつ、どのように、この問題を収拾するのか深く悩んでいるように見えました。

迫るタイムリミット

参議院側は圧力を強めます。「吉田1強」(派閥幹部)とも言われる吉田参議院幹事長を中心とした強固な結束のもと、参議院側は21人全員の派閥の退会届を取りまとめます。

額賀氏らが意見聴取を進めていることを踏まえ、1月中としていた回答期限を、2月9日(金)正午まで延長し、それまでに、額賀氏が退任を表明しなければ、退会届を提出すると早期の決断を迫ったのです。

額賀氏は、前日の8日(木)の夕方には、日韓議員連盟の会長として、ピョンチャンオリンピックの開会式に出席するため、韓国に向けて日本を離れることになっていました。

このため、衆議院側の幹部は、8日の昼に予定されている派閥の定例の会合を、事実上のタイムリミットに据え、額賀氏に、自身の判断を示すよう、促し始めます。

竹下氏動く

ここで、これまで静観してきた人物が動き始めます。竹下亘総務会長です。

竹下氏は、派閥の創設者・竹下登元総理大臣の弟で、参議院側が、額賀氏が退任したあとの後任の会長に推していた人物です。

竹下氏は温厚な性格で知られ、衆議院側だけでなく、参議院側にもパイプがあります。衆議院側からも、「竹下ブランド」で、派閥の立て直しを図るべきだという声も聞かれ、竹下氏に、額賀氏と今後の派閥の体制についてじっくり話すよう求める声があがっていました。

タイムリミットの2日前の今月6日の夕方。関係者の証言によると、この日、額賀氏と竹下氏は国会近くのホテルで会談。額賀氏から、退任を示唆する発言があったものの、具体的な退任の時期や、退任を表明するタイミングについては、結論は出なかったということです。

額賀氏は、タイムリミットまでに判断を示すのか、派閥幹部に不安が募ります。

そして、迎えた事実上のタイムリミットの8日の朝。派閥の事務総長を務める山口泰明組織運動本部長は、額賀氏の議員宿舎の部屋を訪れます。そこで、山口氏は「分裂は避けたいというのが、みんなの思いだ。吉田さんから、あす退会届を受け取りたくない」と額賀氏に決断を迫りました。

大人の対応

事態が動いたのは、山口氏が、額賀氏に決断を促した1時間後でした。額賀氏は、参議院側の対応を一任されている吉田参議院幹事長とトップ会談に臨みます。

参議院側が強硬手段に出て以降、退任を求められた額賀氏と、退任を求めた吉田氏が向き合うのはこれが初めてです。

額賀氏と吉田氏は、この会談で派閥の分裂は避け、3月14日に予定している派閥のパーティーに衆参両院の所属議員が協力して臨むべきだという認識で一致するとともに、額賀氏の退任を含め、今後の派閥の在り方について両氏が協議を進めることを確認します。

額賀氏の退任について、双方とも、この会談で言及はなかったとしていますが、派内では「額賀氏が吉田氏に対して退任の意思を伝えた」という受け止めが広がります。

派閥の幹部からは「いい軟着陸ができた。額賀氏、吉田氏の双方が大人の対応をとったということだ」と安どの声が聞かれ、参議院側も派閥からの離脱の構えを解除し、派閥の分裂という最悪の事態は回避されました。

派閥OB ムネオ氏は

事態の収束に向けて、派閥のOBとして、調整に動いていた人物がいます。新党大地の鈴木宗男代表です。

出身派閥の状況を案じ、この間、額賀氏や吉田氏、青木幹雄氏など、さまざまな派閥関係者と会って意見交換し、調整に走りました。鈴木氏に、今回の一連の騒動について聞きました。

Q 今回、参議院側を突き動かした思いは何だったのか?

A 「私が知る限り、難しい構図ではない。2年前の参議院選挙の時にすでに話があり、この時に額賀氏は、竹下氏に『後を頼むぞ』という打診をしている。それがずるずると1年半以上経ってしまったので、あの約束はどうなったんだろうかというのがことの発端だ。参議院側も最初から派閥を割ろうというような話はない。平成研究会(額賀派)の旗は守っていきたいし、より強固なものにしたい。そのためには前からの約束をちゃんとやっていこうという動きだった」

Q 今回の額賀氏と吉田氏のトップ会談での決着をどう見る?

A 「大人の対応だったと思っている。あうんの呼吸だ。吉田氏は『あした辞めろ。あさって辞めろ』という話はしていない。そこは吉田氏は『お任せします』と。額賀氏は額賀氏で参議院側から言われたことを重く受け止めたわけだ。額賀氏は最初から、『最終的な判断は会長たる私に任せてもらいたいし、ちゃんと考えている』と言っていたわけだからこの点で両者ともに基本的な認識や受け止めはなんら変わるものではないと思っている」

Q かつては最大派閥だった額賀派の勢いがなくなった経緯はどう考える?

A 「平成12年に総理大臣を務めた小渕恵三氏が亡くなり、その6年後に橋本龍太郎氏が亡くなった。平成14年には、私の事件があり、その翌年には野中広務元官房長官が政界を引退することになった。短期間に、指導者や派閥の会長経験者がいなくなったことも大きかったと思う。そして、1人減り、2人減りと、派閥を離れていった。このことは、私は本当に申し訳なく思うし、おそらく額賀さんも面倒見がよかったのかどうかということを、今、若干考えているのではないかと思う」

Q 今後、額賀派が勢いを取り戻すには何が必要か?

A 「派閥は本来、総裁を作るためのグループだ。そのために価値観や志を共有し、勉強していく。かつての平成研究会(額賀派)は『一致結束箱弁当』だったが、今、誰がその求心力を持っているか。ちょっと足りなかったと思う。ただ、これからは期待できる。茂木敏充経済再生担当大臣や加藤勝信厚生労働大臣、小渕優子元経済産業大臣といった人材がいるわけで、いずれ安倍総理大臣の後のリーダーになる資格を持っていると思う。こういった人たちが、かつての原点をしっかり見て人間関係を広めていけば、もう1度、栄光のグループになれる。次の会長とされる竹下氏の思いも、総理・総裁候補を作っていくことが自分の役割だという認識でいると思う」

なるか『名門』復活

分裂騒動に区切りをつけた額賀派は、今後、どこに向かうのでしょうか。その結束が試されるのが秋の総裁選挙です。

派内では、去年の衆議院選挙で、安倍総理大臣のもと、自民党が大勝したことを踏まえ、安倍総理大臣の3選を支持する声も出ていますが、派閥として、どのように対応するかは、まだ決めていません。

ある派閥の幹部は「通常国会は何が起こるかわからない。対応を決めるのは国会後だ」と、安倍内閣の支持率の動向や、世論の空気感を見て判断したいという認識を示しています。

次の派閥会長と目される竹下総務会長は、派閥について「兄の竹下登が派閥を立ち上げた時のような『戦う集団』にしたい」と話しています。

今回の騒動を経て、「名門派閥」はよみがえるのか。まずは、秋の総裁選挙に向けて一致結束した行動がとれるのかが、試金石になりそうです。ただ、派閥の性格が変容し、弱体化も指摘されている中で、かつてのような「派閥」の復活は現実的ではなく、新しい派閥像を示すことができるかどうかも、問われていると思います。

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