「中露に逆風」

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「南京」が「天安門」となってブーメラン ユネスコ「世界の記憶」で中露に逆風

天安門事件で少なくとも一般市民1万人が殺されたと報じる昨年12月23日付の英紙インディペンデント

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」をめぐり、中国、ロシアが逆風にさらされている。特に中国は2015年に登録された「南京大虐殺文書」でユネスコを対日批判の場として利用したが、1989年に民主化運動を武力弾圧した天安門事件を世界の記憶に登録しようとする動きが出てきており、一転して守勢に回っている。

ユネスコの政治利用を回避する昨年10月の制度改革決議を支持したことと無関係ではなさそうだ。

「南京大虐殺文書」は資料が開示されることなく、その信憑(しんぴょう)性に疑いがあるまま「世界の記憶」に登録されたいわくつきの文書で、ユネスコの政治利用化が進むきっかけとなった。

日本政府は日中韓の民間団体などが2017年の審査に申請していた慰安婦問題の関連資料が登録されることを阻止すべく、さまざまなキャンペーンを展開したが、最大の課題は関係国が意見の表明もできないまま不透明な手続きで登録が決まってしまうユネスコの制度改善だった。

ロシアも中国と同様、世界の記憶に登録されることを可としない歴史がある。2015年にソ連時代のシベリア抑留資料が登録された際は、露政府が「政治利用」と反発した。日本政府はその際、資料を申請した京都府舞鶴市が姉妹都市のロシア・ナホトカ市の同意を得ている点を指摘し、「南京大虐殺文書」とは性質が異なることを強調した。

世界の記憶をめぐっては、かつてソ連に併合されていたバルト三国(リトアニア、ラトビア、エストニア)で起きたシベリアへの強制移住に関する資料を登録する動きもあるといい、ロシアにとってもユネスコの制度改善は利害が一致するところとなっている。

外務省関係者は「昨年10月の決議で局面は変わった」と話し、制度改善に向けた機運が高まっていることを強調する。決議に消極的だった韓国でさえ、「ここに来てそういった動きをみせれば、孤立しかねない」状況だという。

さらに、制度改善に関してリーダーシップを示さなかった親中派のブルガリア元外相、ボコバ前事務局長(65)が任期を終え、新事務局長にフランス元文化相のアズレ氏(45)が昨年10月に選任されたことも制度改善には追い風だ。

日本政府は事務局長選挙に際してアズレ氏を支持したが、支持にあたっては「制度改善が不可欠」との日本の立場を念入りに伝え、アズレ氏は脱政治化に向けた強い意欲をみせているという。

今年4月に開かれるユネスコ執行委員会で、制度改善に向けた「行動計画」の事務局案が示される予定だが、ここでアズレ氏がどのような提案をするかが、当面の焦点になりそうだ。 

世界の記憶 世界的に重要な文書、写真などの記録物を保存し、多くの人がアクセスできるようにすることを目的に、ユネスコが1992年に設立した制度。

2年に1回審査が行われ、これまでフランスの「人権宣言」原本など400件以上が登録されている。日本では炭坑絵師だった山本作兵衛(1892~1984年)の炭坑記録画などがある。ユネスコの「世界遺産」が加盟国の合意で決まるのに対し、世界の記憶は文書管理の専門家による諮問委員会が審査した上で、事務局長が追認する形を取るため、審査が不透明などと問題点が指摘されてきた。

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