2018年11月1日よりタイトルをWCA(世界の時事)に変更しました。
「世界同時株安でリーマンショックは再来するか」
NY株式市場は大荒れとなった。
2月2日にダウは前日比▲2.54%下げて、週明けの5日は▲4.60%も続落した(図表)。東証平均株価や各国の株価も連鎖株安となっている。日本株は6日も極めて大きく下落している。
この世界同時株安が2008年に始まったリーマンショックを再来させることになるのか。
米国株、過去最大の下げ幅
日本など各国株も連鎖安に
鍵は金融破たんにつながるかだ
まず、バブルが崩壊したときの教訓を思い出すと次の3つが挙げられる。
(1)最初は誰もが過小評価する、(2)株価下落は実勢よりも下にオーバーシュートする、(3)株価下落はすぐには戻らない。今回も、しばらくは株価が戻らないリスクを十分に頭に入れておくべきだ。
今後の株価を左右するのは、利上げを進めてきたFRB(米連邦準備制度理事会)である。
就任直後のパウエル議長がまずは3月のFOMC(連邦市場公開委員会)でどういった舵取りをするかにかかっている。
また、株価が急落したときには売られ過ぎも起こるので、最初の楽観論が消えた後、何かのきっかけで市場心理が安心へと転換して、株価が底打ちする可能性もある。
その影響力を考えると、FRBのアナウンス以外では、ウォーレン・バフェット氏のような著名な投資家が「私は売らない」と発言するのは株価下落を鎮静化させるのには効くだろう。
鍵は金融破綻につながるか 逆資産効果で消費落ち込みも
リーマンショックの頃を思い出してみよう。10年前の記憶である。
本当に怖いのは、株価下落の損失で金融機関や投資家の破綻リスクが強く意識されることだ。
信用リスクの高まりで、市場に疑心暗鬼が生まれて、市場機能が麻痺する。当時は貿易金融も止まって、日本の貿易取引も急減した。
こうした金融破綻はまだ表面化していない。株価の下落率もまだ現時点では、大きくない。
米国ではレバレッジ規制が強化され、リーマンショックの時のような損失拡大の連鎖が起きない仕組みになっている。今回、大型破綻が起きなければ、リーマンショック時のような打撃は避けられるだろう。しかし、予断は禁物だ。
パウエル議長頼み、利上げペースどうする
別のルートも検討してみよう。
バブル崩壊とその不安は、先が見えないリスクに備えようとして流動性の高い資金への「流動性選好」を高める。「質への回避」と同じ原理である。
米国から海外に投資された資金が、急激に回収される。これが連鎖株安を生む。恐ろしいのは、新興国への投資資金もまた引き揚げられて、資金不足(外貨準備の不足)を起こすリスクである。
金融破綻の国家版である。少し前のギリシャや南欧問題を覚えているだろうか。
三番目は、先進国の逆資産効果だ。
日本の個人消費への悪影響もあるが、米国の逆資産効果による消費減の方が、貿易取引を経由して日本には悪影響力が大きいかもしれない。
今回、金融破綻や新興国への被害がごく少なくても、逆資産効果は残ると考えられる。日本では、春先移行の賃上げ効果の発揮に希望をつなげたい。
安定化はパウエルFRB議長頼み
利上げのペースどうするか
株価急落で思い出すのは、グリーンスパンFRB議長のことである。
1987年8月に就任して、当初は前任のポール・ボルカー氏の威光があまりに大きく、凡人だと評されていた。
グリーンスパン議長は、就任後1ヵ月で3年ぶりの利上げに踏み切る。当時の株価は、今と同じくバブル化していて、1987年10月17日にブラックマンデーが起こる。世界同時株安である。
就任3ヵ月目で大暴落に見舞われたグリーンスパン議長は、試練を迎える。10月17日月曜日の夕方の下落幅は前日比▲508ドル、下落率は▲22.6%で、1929年の大暴落を超えた。
タカ派主導権とれば、混乱に拍車
このとき、金融システムは株価下落で生じた損失によって、水面下では大混乱していた。グリーンスパン議長は、即座に声明を出して、資金不足に対して流動性を供給することを宣言した。
回想録では、「危機がすべて終るまでには1週間以上かかったが、大半は一般の目にはみえないところで解決されている」と振り返っている。
この采配が「マエストロ」と呼ばれる第一歩になった。
ジェローム・パウエル議長は、「ミスター・オーディナリー(普通)」と呼ばれ、金融政策の決定でもコンセンサスを重視するとみられる。
だが、このやり方は、スピード感などに欠ける面があり危機には弱い。
3月に予定されるFOMCで、インフレ抑制重視で引き締めに積極的なタカ派にコンセンサスを渡したと、市場に受け取られると、混乱にさらに拍車がかかる可能性がある。
議長にとってはここが正念場である。
低金利、低物価で緩やかな景気拡大を続けてきた「適温経済」から、今、新しい「波乱の時代」の幕開けである。