「安保政策は「米中任せ」?」

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大国を防波堤にするしたたかな「アフリカの角」

アフリカの東部、「アフリカの角」と呼ばれる地域にあるジブチは、いま世界の並み居る大国がこぞって熱い視線を注いでいる国だ。産経新聞1月11日付朝刊の「紅い浸入」(上)でも紹介したが、主要国が争うように軍事基地を建設している。

欧州とアジアの結節点

昨年12月に訪れたジブチの市街は、夜ともなれば小さな中心部の繁華街以外は電灯の明かりがぽつりぽつりとついている程度で、住民たちの暮らしもつましいものだ。

夕食のため訪れたレストランは、中に入っても暗くて足を運ぶのもおっかなびっくりだった。郊外に行けば未舗装の土地に粗末な家が並び、雨風がしのげるのかと心配になるほどだった。

面積にして四国の1・3倍程度しかないこの国に、なぜ大国が次々とやってくるのか。それは地政学が国際軍事、国際政治にいかに大きな影響力を及ぼしているかの教科書のようだ。

ジブチはアデン湾と紅海を分かつバブエルマンデブ海峡に面する。紅海を北上すれば欧州への架け橋であるスエズ運河に行き着く。アデン湾を東に進めばペルシャ湾を望みつつアラビア海、インド洋をへてアジア諸国に到る。

一言でいえば、「欧州とアジアの結節点」なのだ。

ジブチで近海の海賊対策に当たる海上自衛隊によると、この海域は年間2万隻の貨物船が航行する。日本関連の商船は約2千隻といわれる。

イランと湾岸諸国が面するペルシャ湾は原油を運ぶタンカーの航路として日本でもよく知られているが、アデン湾近海も日本と世界にとって、あるいは国際海運の業界にとって、「航行の安全」が欠かせない海域といえる。

進出する大国の狙い

ジブチ市街を車で走ると、道路の両脇にフランスの軍事基地がある通りもあり、旧宗主国フランスの存在感の大きさがよく分かる。また、市街にほど近いジブチ国際空港の周辺には、米軍基地や日本の自衛隊の駐留拠点がある。

さらに、ここから車で約30分、西に行けば、昨年8月に稼働開始が宣言された中国人民解放軍の基地がある。現地では確認できなかったが、昨年1月にはサウジアラビアも基地を建設することで合意したとの報道があった。

フランスとは緊密な軍事協力関係にあるのだろう。米国はここを拠点に、隣国ソマリアや対岸のイエメンでイスラム過激派を掃討する極秘裏のオペレーションを展開しているといわれる。自衛隊が駐留する目的は先述の通り、海賊から各国の商船を守ることだ。

では、中国の軍事基地開設の狙いは何か。アフリカから買い付けた大量のエネルギーを本国に持ち帰るだけなら軍事施設は必要なく、西側とともに行っている海賊対策で十分なはずだ。

中国の本当の狙いは今後明らかになる事態を見守るしかない。ここからは、ジブチという国がいかに特殊な安全保障政策を取っているか、という点を中心に書き進めたい。

したたかな戦略

フランスや日本の自衛隊については不明だが、米国と中国の基地の土地貸借料は、米紙ニューヨーク・タイムズや英紙フィナンシャル・タイムズ(いずれも電子版)が報じている。

米国の賃借料は2014年前後、倍近くに値上がりして年間6300万ドル(約70億円)となった。中国は年間2000ドルと、米国の3分の1以下にとどまる。いずれも10~20年の契約とされ、延長できるとの説もある。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、米国の賃借料値上げ前にはロシアが基地建設の意向を示し、オバマ前米政権のライス大統領補佐官がそれを思いとどまらせるため、ジブチを訪問したという。

また、中国の基地建設の情報は、米側には事前に通告がなかったともいわれる。ジブチやその周辺地域をめぐる“暗闘”を思わせる逸話だ。

いずれにせよ、基地のために支出する土地賃借料がジブチの財政を支える一因となっていることに変わりはない。アフリカの軍事情勢に詳しい消息筋は、「ジブチは自国の安全保障を他国任せにしている」と評した。

以下は記者なりに読み解いたジブチ政府の狙いだ。

ジブチはソマリアやエリトリア、エチオピアと国境を接する。ソマリアはイスラム過激派組織アッシャバーブによるテロがしばしば起き、沈静化の傾向にあるとはいえ、ソマリア沖では商船を襲う海賊が出没する。

エチオピアとエリトリアは1988年、国境沿いで戦闘が起き、2000年の停戦までに推定10万人が死亡したともいわれる。周辺国の影響を受けやすい小国としては主要国の軍事拠点を抱えることで、自国の脅威を遠ざけられると考えている面があるように思う。

ソマリアからの越境テロに対する抑止力として、あるいは内政に影響を及ぼそうとする周辺国に対する防波堤にもなるというわけだ。単純にいえば、虎の威を借る狐、ということになろうか。

さらに、欧米だけでなく中国が加わったことで、外交政策が異なる大国の間でバランスを取ってトラブルを避けたり、賃借料の値上げ交渉の材料にしたりする可能性もちらつく。

自国の地政学上の重要性を見越した上での、したたかさを備えた他国に例を見ない安全保障政策だとすれば、小国ならではの知恵ではないかと感じた。

ただし、国庫に入っているであろう巨額の土地賃借料が、国民の暮らしのために使われているかといえば、疑問を持たざるを得ない。“安定収入”が入っているのに一向に暮らしが改善されないという国民の政府に対する怒りが、デモなどで跳ね返ってくる事態になっても、米仏などの基地の司令部は「国内問題だ」として知らぬ顔を決め込む可能性もあるのではない
か。中国は別として。

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