「ヤクザマネーが株でボロ儲けの実態、」

画像の説明

ヤクザマネーが株でボロ儲けの実態、その狡猾な手口とは

小泉政権時代、「仕手筋」が一斉に摘発されるなど、徹底した“市場浄化”が行われ、怪しいマネーは一掃された…はずだった。しかし、今なお市場には、規制や監視の目をかいくぐったヤクザマネーがしっかりと根を張り、巨額の富を得ている。

巨額の富を得る秘密の投資クラブ

昨年末、都内のある超高層マンションの一室には、10人程度の男たちが集まっていた。その部屋には所狭しとパソコンのモニターが並べられ、さながら金融機関のディーリングルームのよう。表示されたさまざまなチャートを見ながら、男たちは熱い議論を戦わせていた。

「どうやら来週、あの会社が第三者割当増資を実施するらしい。10本くらい調達すると言っている」

「あそこは、業績の下方修正をやると言っている。資金繰りも厳しいからねぇ。経営陣は、会社を手仕舞いする方向で検討しているらしい」

「また、あの会社、ありもしない案件を発表する。ほんと、何回、同じようなことをするんだろうねぇ。まあ、株価は上がるからいいけどさ」

彼らが、一堂に会して行なっていたのは、さまざまな企業に関する情報交換だ。内容は、業績を始め、事業計画に人事情報、資金繰りや資金調達に至るまで実に幅広い。対象も、東証一部から新興市場至るまで上場企業全般だ。

これだけであれば、投資家たちの情報交換の場に過ぎないが、実は少々趣が異なる。というのも、彼らの情報は全て、企業側が発表する前の“インサイダー情報”だからだ。

メンバーは元経済ヤクザをリーダーに多種多様

詳細は書けないが、この集まりは、秘密の“投資クラブ”。インサイダー情報を元に巨額の資金を使って株を売買し、数億円規模の儲けをたやすく手にしているグループなのだ。

例えば、昨年のある日のこと。新興市場に上場しているIT系企業が、「近々、最先端の技術を持つ企業との提携を発表する」との情報が、メンバーの1人の元に持ち込まれた。この企業は、提携によって、新たな市場への参入を図るのが狙いだという。

この情報は、すぐさまSNSのグループチャットを使ってメンバー間で共有され、 “緊急招集”がかけられた。

作戦会議の場では、概略の説明がなされた後、「近々、当局が制度改正を行うらしい」との新たな情報ももたらされた。そこで、当局の動きが表沙汰になるまでの間、メンバー間で手分けして密かに株を買い集め、一気に勝負をかけることが決定した。

その結果、株価は一気に値を上げる。途中、一般投資家のいわゆる“提灯買い”も誘って、買い気配のまま値が付かない日が続き、わずか数日間で6割あまりも上昇。その間にメンバーたちは、さっさと持ち株を売り払って大きな儲けを手にしたという。

元経済ヤクザをリーダーに

メンバーの顔触れは多種多様

また、別の日には、やはり新興市場に上場している企業が、市場が閉まった後の午後3時過ぎに、実際には開発していない商品の開発に「成功した」という“虚偽”の発表を行って株価を引き上げ、資金調達しようとしているとの情報が入る。

そこで、彼らはメンバー同士で手分けして一気に株を買い集め、わずか30分で株価を釣り上げる。そのタイミングで、場が閉まった後に何らかの発表が行われるとの情報が市場に伝わり、"提灯買い"もついて株価は急騰。市場が閉まる10分程度の間に一気に売りを浴びせ、彼らはこれまた大きな儲けを手に入れた。

この投資クラブでは、こうしたインサイダー情報を元にした株取引を、常に3〜4案件、同時並行的に行っているという。

学生時代から育てた会計士や弁護士が"ネタ元"

証券取引等監視委員会を始めとする当局の目をかいくぐり、“インサイダー情報”を元にして大もうけしている投資クラブのメンバーは、一体どういう人物たちなのか。

リーダーを務めているのは、今は足を洗っているものの、かつては大手暴力団の幹部を務めていた男。いわゆる「経済ヤクザ」だ。そうした裏社会に通じる数人の他に、かつて証券会社に勤めていた人物や、デイトレーダーを始めとする個人投資家が数人、そして普通の会社員に至るまで顔触れはさまざまだ。

「最も大事なのは秘密を守れるか否か。だから、いくら金を持っている人物でも闇雲には誘わない。かなり長い付き合いをした結果、信頼できる人物であるかどうかしっかりと見極めた上で仲間に入れている」(リーダー格の元暴力団幹部)

だから、年齢や職業、職種などもばらばらで、メンバー間に何のつながりも見出せない。だが、これは「もしも誰かがドジを踏んでパクられても、一網打尽にならないようにするため」(同)でもあるという。つまり、リスクヘッジするために、あえて関連性のないメンバーなっているわけだ。

学生時代から育てた
会計士や弁護士が"ネタ元"

では、彼らは、どこからインサイダー情報を手に入れているのか。

われわれ取材班は、元経済ヤクザが中心となっていることもあって、彼らが現役の暴力団員や総会屋などと手を組み、企業や企業の幹部たちを脅すなどして情報を盗み出しているのだろうと考えていた。

ところが、リーダーの口から出てきた答えは、意外なものだった。

「確かに以前はそういったことをやっていたこともあるし、いまだに古いヤクザたちの中には脅して情報を取っている輩も少なくない。しかし、今は証取や警察などの目が厳しいし効率も悪いから、もっと確実な"ネタ元"から情報を取っている」

こう語るリーダーが“ネタ元”として挙げたのが、なんと会計士、弁護士、税理士だった。

苦境の企業が資金調達の際に頼る"ヤクザマネー"

「会計士や弁護士を脅しているのかって?違う、そんなことはしていない。俺たちは彼らを育てているのさ」(同)

弁護士や会計士になるための試験は難しく、ストレートで合格するのは容易ではない。そこで、合格するまでの学費や生活費を提供するなど、一切の面倒をみてやっているというのだ。

それだけではない。司法制度改革や公認会計士制度改革などにより、弁護士や会計士の人数は急増、仕事にありつけない人たちも少なくない。そうした人たちの“就職先”の面倒もみてやる代わりに、情報を提供させているのだとリーダーは明かす。

こうしたネタ元たちは、財務情報や人事情報、事業に関する情報といった企業の"機密情報"に、発表する前の段階で触れることができる。つまり、とっておきの情報を誰よりも早く手にすることができる彼らを、学生という“種”の段階から育て上げ、資格に合格させて “花”にし、そして最終的に情報という“果実”をゲットしているというわけだ。

「確かに、育てるまでに時間とカネはかかるが、得られる鮮度のいい果実を考えれば安いもの。リターンは数倍どころか数十倍になって返ってくるんだから。そうしたネタ元のネットワークを構築しているのだ」とリーダーは笑う。

苦境の企業が資金調達の際に頼る“ヤクザマネー”

とはいえ、ここまではインサイダー情報を元にしているという点を除けば、市場における取引という“正当”な手段によって利益を得ているもの。そうではなく、企業に直接“ヤクザマネー”が入っているケースも少なくない。

東京証券取引所第二部に上場していた、岐阜県に本社を構える郷鉄工所。破砕機などの機械装置を製造販売していた企業で、中部地方では名門と呼ばれていたが、昨年9月に経営破綻して上場廃止となり、11月に破産してしまった企業だ。

詳細は省くが、破綻に至る経緯の中で、投資コンサルタントを名乗る男が社内に入り込み、幹部とグルになって金策にまい進する。

第三者割当増資のペーパーは頻繁に出回っている

この男は、かつて日本ファーネス工業(現NFKホールディングス)や山科精工所(現ヤマシナ)、昭和ゴム(現昭和ホールディングス)、セイクレスト(破産)、ゼクス(上場廃止)といった、聞く人が聞けば眉をひそめるような怪しい銘柄の増資にも深く関与していた人物だ。

新たな増資手法を次々に生み出していたことから「増資のプロ」と呼ばれる一方で、法の網をかいくぐるあくどい手法だったことから、市場関係者の間では「資本のハイエナ」とも呼ばれていた。ちなみにセイクレストをめぐる増資では逮捕されている。

「金融機関からも見放された上場会社に近寄っていっては、増資による資金調達を提案、新株を乱発発行させては多額の手数料や経費名目でカネを巻き上げていた。それが目的だから、資金調達が終了しても本業は再建できるわけがなく、食い尽くされておしまいという企業ばかりだった」(市場関係者)
 
そんな男が目を付けたのが郷鉄工所だった。しかし、それまでにさまざまな企業を散々食い散らかしてきたから増資に応じる“まともな相手”などいない。そこで、この男が頼んだのが暴力団関係者たちだった。

ある暴力団関係者は語る。

「ある日、暴力団関係者たちの間に、第三者割当増資に応じてくれる人を“募集”するペーパーが回ってきた。相手も悪いし、条件もあまりよくなかったから私は応じず、別の“業界関係者”に回した。いろんな奴らがたらい回しにした結果、最終的にはフロント企業を隠れ蓑にした連中が一部を引き受けたが、たいした儲けにならなかったと言っていた」

結局、郷鉄工所は希望していた額まで調達できなかったばかりか、本業の再建もままならず経営破綻に陥り、破産の憂き目に合ってしまう。

だが、ヤクザマネーに手を出してしまうのは郷鉄工所だけではない。ある経済ヤクザの元には、同様のペーパーが、多い月で2〜3枚は回ってくることもあるという。

1粒で三度おいしい第三者割当増資

「本当に苦しい企業は藁をもつかむ思いで資金調達に走っているから、“金主”が誰であろうが構っていられない。そこにヤクザが入り込む隙があるわけだ」(経済系暴力団の幹部)

1粒で三度おいしい第三者割当増資

中でも、彼らが好むのは『第三者割当増資』。相対で取引でき、最初からリターンについての詳細な条件も設定されているため、確実に儲けることができるからだ。増資のニュースが伝われば株価も上がるから、「増資分以外にも買っておけば、“一粒で二度おいしい”思いができる」(同)。

さらには、「第三者割当増資に応じる形で一度は資金を出すものの、一定期間が過ぎた段階でそのカネも回収するケースもある。企業は、とにかく一息つきたいだけなので、増資が完了したというリリースさえ出せれば応じるし、われわれにとってみれば、まさに“元本保証”で“三度”もおいしい思いができるのだからやめられない」(同)

当然、彼らもカネを出す際に、“本名”や“組織名”を使うわけではない。海外のペーパーカンパニーや、信託銀行が受託管理している信託口などを使って、誰がカネを出しているのか、追跡しても分からない形で行われる。

「日本の株式市場では、外国人投資家が半数以上を占めるなどと言われるが、ちゃんちゃらおかしい話。ペーパーカンパニーや信託口の名前が外国人ぽいだけで、その中身は俺たちみたいな表に出られない日本人だったりするのだから。もちろん、そう思われている方が助かるんだけどね」とある経済ヤクザが明かすほどだ。

だから、時に、増資した当事者さえも知らないうちに、ヤクザマネーが増資で得た資金の中に混ざっているケースもある。増資の引受先が、別の金主、つまりヤクザにカネを出してもらっていることも少なくないからだ。

現に、「昨年、第三者割当で大量に増資したジャスダックに上場している企業の一つに、そうしたヤクザマネーが入っている。本人たちはどこまで把握しているかは知らないが…」(別の暴力団幹部)という情報もある。

小泉政権時代、いわゆる「仕手筋」が一斉に摘発されるなど、徹底した“市場浄化”が行われ、怪しいマネーは一掃された。しかし、それは一時的なものであって、決してついえたわけではなかった。

今なお市場には、規制や監視の目を巧妙にかいくぐりながら入り込んだヤクザマネーがしっかりと根を張り、巨額の富を得ている。

コメント


認証コード8449

コメントは管理者の承認後に表示されます。