「なんの期待も抱いてはいけない」

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韓国と北朝鮮の「南北会談」になんの期待も抱いてはいけない
3月を越えればどうせまた…

危機的状況になんら変わりなし

新年早々、北朝鮮情勢が動いている。1月1日、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、新年の辞で、韓国との対話チャネルが開かれているとし、2月の平昌オリンピックについて北朝鮮の選手団を派遣することを示唆した。

これに、韓国の文在寅大統領がすぐに飛びついた。これまで韓国の対話要求に対して北朝鮮は無視してきたが、金正恩氏の歩み寄りとも取れる発言を歓迎。早速、9日の南北高官級会談を北朝鮮に提案した。

一方、アメリカのニッキー・ヘイリー米国連大使は、北朝鮮が完全に非核化するまでは、いかなる話も真剣に受け止めないとして、今後北朝鮮と韓国との会談があってもアメリカ政府が重要視することはないと反応した。アメリカ国務省のナウアート報道官も、「北朝鮮の狙いは米韓分断にあるかもしれない」と警戒した。

金正恩氏は新年の辞で、「核のボタンが私の事務室の机の上にいつも置かれている」と述べており、対話路線とも取れる発言の一方で、アメリカには強硬姿勢を崩してはいない。

ただし、アメリカは、平昌オリンピック開催中の2月9日から25日までの間とその直後、そしてパラリンピックの期間中3月9日から18日までの間、米韓合同軍事演習を実施しないとし、韓国と北朝鮮の交渉を見守る姿勢を見せた。

それを受けて、5日、北朝鮮は韓国が提案していた南北高官級会談について応じるとの連絡を送ってきた。

以上が、今年に入ってからの米韓朝の動きである。

その背景には、国連の北朝鮮に対する経済制裁が累次に及び行われた結果、制裁決議内容はほぼ限界にまでなっていることが大きく影響しているだろう。この冬にエネルギー関係の対外取引を制限されるのは、北朝鮮にとっても痛いところだ。

昨年だけでも、
国連安保理決議第2356号(2017年6月2日 
国連安保理決議第2371号(2017年8月5日 
国連安保理決議第2375号(2017年9月11日 
国連安保理決議第2397号(2017年12月22日 
とかなり実効的な措置が採られており、国連内からもこのままでは北朝鮮経済は壊滅的になるという見方もでている。たとえて言うと、クビを絞めているが、ほんの少し力をぬいている状態とはいえ、長時間になれば窒息死する程度である。

制裁決議に反する闇の取引は依然行われているが、アメリカは、制裁決議に反する取引を規制するために、半軍事行動ともいえる「臨検」実施の可能性もちらつかせている。現在では国連憲章第7章41条(主として経済制裁)の実効性を高めるために、臨検が認められているとはいえ、戦時下では「軍事活動」ともされる行為である。

しかも、昨年12月末のクリスマス休暇で、在韓米軍の家族は一時アメリカに帰国している人も少なくない。そのまま、アメリカに滞在して韓国に戻らなければ、アメリは比較的容易に軍事オプションを行使できうる状態になっている。

そうした状況に対して、金正恩氏がついに反応せざるをえなかったのだろう。金正恩氏の言葉は威勢がいいが、ミサイル実験では、間違ってもアメリカを刺激しないような範囲に撃ってきている。この点から、かなりアメリカを配慮しているのは、北朝鮮問題の専門家では周知の事実である。

韓国の思惑、北の思惑
最悪のシナリオ

北朝鮮は、核ミサイル開発を進め、アメリカにそれを認めるように直接交渉を望んでいた。しかし、アメリカの強硬姿勢を崩さなかったためそれが挫折した。今さら中国にアメリカとの仲介を頼めないし、ましてアメリカと歩調を合わせる日本にもできない。そこで、もっとも与しやすい韓国を選んだのだろう。

韓国は、是非とも2月の平昌オリンピックを成功させたいという弱みがあるため足下を見られている。北朝鮮の誘いに対して、韓国が直ちに歓迎姿勢を示したのは、北朝鮮にまんまとはめられた公算が高い。金正恩氏の話の中には、繰り返し北朝鮮の核の力について言及している箇所もある。

北朝鮮は、決して非核化せずに、韓国にささやきながら、時間稼ぎをして、いまだ未完成とされる核ミサイルの再投入技術を最終的に完成させ、核ミサイルの実戦配置を成就させようという魂胆だ、とみたほうがいい。ここで非核化を飲むようなら、金正恩氏の失脚にもなりかねないからだ。

なお、再投入技術も、あと半年から1年以内で完成する予定という点は専門家間では意見の相違はほとんどない。ということは、この平昌オリンピックとパラリンピックの2月から3月までの時間を有効利用しないことはありえないはずだ。

これまで、6ヵ国協議でも北朝鮮の核ミサイル開発は止められなかった。

それを韓国が実効的に止めれば、世界の平和のためには素晴らしい出来事だ。真のノーベル平和賞にも値するだろう。ただし、これまで国際社会を欺いてきた北朝鮮である。楽観論は禁物で、ここ2カ月は韓国のお手並み拝見である。

一方で筆者はこの時期に、韓国外務省が日韓合意について、日本政府との交渉過程についての検証結果を発表し、さらに文在寅大統領が、慰安婦問題をめぐる日韓合意に強く反対する元慰安婦の女性らと面会し「合意は政府が一方的に進めたもので、誤りだった」と謝罪したことがとても気になっている。

北朝鮮の誘いに韓国が乗ったことについて、米韓の分断を危惧するのは上に述べたとおりである。そのうえこの時期に、日韓合意を反故にするといわんばかりの韓国の行動は、日韓の分断を懸念させるものだ。

この事態について、日本の外務省は日韓関係がマネージ不能になると警告している。西側諸国としては、常識的にはちょっと首をかしげたくなることだが、韓国外交はどのような行動原理に基づいて動いているのか。

文在寅大統領は、昨年12月に中国国賓訪問したが、実はこれとあわせて考えると、韓国の外交スタイルが見えてくる。

歴史を紐解けば見えてくる
歴史を紐解けば分かる

カギは半島国家としての韓国の歴史にある。

地続きの大陸側と海を隔てた海洋側に挟まれながら、国家運営をする宿命をもつ韓国。朝鮮半島の歴史をみても、朝鮮王朝では「事大交隣」、つまり大陸側には「事大」、海洋側とは「交隣」という関係だ。

事大とは「大国に事(つか)える」ことであり、陸続きの中国へ服従する朝貢関係だ。交隣は「隣国と交わる」ことであり、海を隔てた日本とは距離を置いた対等交際だ。

しかし、朝鮮戦争でこの構図に変化が起こった。アメリカが介入し、朝鮮半島は南北に二分され、南半分の韓国は大陸側の中国から離脱して、海を隔てた日本を含めた西側についた。韓国は、アメリカと同盟関係を結んだ。

一方、韓国と対峙する北朝鮮は中国の同盟国となった。韓国は「事大交隣」を大きく変更せざるを得なくなり、アメリカの同盟国である日本も並べての、日米韓という新しい関係になった。

そもそも、朝鮮半島の歴史において、現在の韓国のように朝鮮半島の一部が大陸側の影響を直接的に受けないのは、高句麗、百済、新羅の三国時代以来ともいえる。

この中で、韓国のTHAAD問題がある。いまは「事大交隣」ではなく、韓国が西側の一員になったという新たな関係である以上、北朝鮮の脅威に応えるためには、THAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)の韓国配備は自然であるが、これが超大国への道を歩もうという中国を刺激した。

この中国の怒りを前にして、韓国は最近忘れかけていた「事大交隣」のDNAがふたたび働き出したと考えるのがいい。正確にいえば、近年の中国の躍進に、韓国が恐れおののいて「事大交隣」の記憶がよみがえり、2015年9月、抗日戦争勝利70周年軍事パレードに朴槿恵大統領が西側諸国の国家元首でただ一人参加した。

これを受けて、中国に接近しすぎる勧告をけん制するために、アメリカがTHAADミサイルを配置させたといったほうがいいだろう。

結局3月越えればまた…

3月超えればまた一触即発に

冒頭の文大統領の訪中は、いくら中国に冷たくされたとはいえ、まさに「事大」である。また、今回の北朝鮮の誘惑に乗るのも「事大」である。

しかし、日米に対しては「交隣」を保っている。今回の北朝鮮の誘いに乗って米韓関係がうまくいかなくても、慰安婦問題で日韓関係をこじらせても、もともと「交隣」の関係であるからかまわないという姿勢だ、としか思えない。

昨年9月にニューヨークで開かれた日米韓首脳会談で、北朝鮮への圧力で合意しながら、韓国は北朝鮮への人道支援を打ち出したのも、日米には「交隣」という姿勢であることのあらわれだ。

さらに、トランプ大統領の訪韓時に元慰安婦を晩餐会に招いたことも、日本へは慰安婦問題の日韓合意を反故にしようとすることも、あるいはその一方で平昌五輪が窮地になると安倍首相に訪韓要請をするなどの傍若無人ぶりも、「交隣」という概念で理解できる。

しかしながらこれだけは言っておきたい。北朝鮮問題で、韓国が歴史的伝統とも言える「事大交隣」の姿勢を採ると、世界平和が脅かされる事態になってしまう、ということだ。

北朝鮮の核ミサイルは、いまや世界の脅威となっている。米国国民ですら、北朝鮮の核ミサイルを現実的な脅威と考える人が8割にもなっている。これは、実際にアメリカ本土まで核ミサイル攻撃があり得るという意味だけではない。

アメリカは、中東政策も転換しているが、もし北朝鮮が核ミサイル技術を手中にしたら、中東のイランへの核拡散が現実化して、中東の軍事バランスを一気に崩れかねない。となると、中東での核ミサイル保有がドミノ的に進展することは不可避である。

この核拡散は、アメリカのみならず世界によって最大級の脅威にならざるを得ない。そうした世界的な安全保障を考えると、アメリカはなんとしても朝鮮半島の非核化は譲れないところなのだ。これは、同じ核保有国である中国やロシアにとっても同じである。こうした大局観が韓国には欠けているようにみえる。

韓国は慰安婦問題でも、日韓の外交成果を反故にしようとしている。国家間の約束を無視することで、韓国外交の信用失墜になるだろう。

その「不誠実国家」の韓国と「ならず者国家」の北朝鮮が話し合っても、平昌オリンピック・パラリンピックを見かけだけでも成功させたい韓国と、核ミサイル完成のために時間稼ぎがしたい北朝鮮の思惑が当面の3月まで合致するだけで、朝鮮半島の非核化にはほど遠い内容になりそうだ。

これでは、国際社会から受けいれられるものになりそうもない。というわけで、2、3月は何とかなっても、その後は依然として朝鮮半島が一発即発の危機状況であることは、変わらなさそうだ。

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