「屈辱外交」

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文在寅大統領の訪中に韓国国民が驚いた理由

文在寅大統領が国賓として中国を訪問した。韓国内で今回の訪中は国民から相当に注目され、大統領がどこを訪れ、誰に会い、どのような演説をしたのか、一挙一動が国民の関心事となり、話題となった。

ただ残念なことに、大統領の訪中ニュースの中で国民が注目していたのは、大統領の外交手腕や韓中関係の行方についてではない。大統領が中国で行った言動が、韓国国民としてあまりにも衝撃的なものだったためだ。

大統領の「一人飯」と中国警備員による「記者暴行」

既に日本のマスコミにも大きく取り上げられているのは、大統領の「一人飯」、そして大統領に随行していた記者が中国人警備員たちから暴行を受けた事件だ。

大統領の中国訪問日程は12月13日から16日までの三泊四日。中国で食事をする機会は10回あった。話題になったのは、このうち中国の高官、あるいは要人と食事をしたのは14日の習近平主席との公式晩餐の席と、16日の重慶市党書記長との昼食会の2回のみだったのだ。

青瓦台関係者らは「文大統領の実用的な性格が外交日程にも現れているという証」、「我々が食事の日程を組まずに勉強するために開けていたもの」と説明したが、その説明に納得する国民はほとんどいなかった。

特に二日目の朝食、駐中国韓国大使と中国の大衆食堂でパンと豆乳を食べる姿が報道された時は、「可哀想だ」「情けない」というコメントが溢れ、中国による「門前払い」、「冷遇」、「非礼」との批判がおきた。
 
同情と情けなさの入り混じった韓国国民の感情が「怒り」に変わったのは中国の警備員による大統領随行記者への暴行事件だった。韓流イベントで大統領について急いで移動していた複数の韓国人記者を中国の警備員たちが制止したことから、警備員と記者たちの間で小競り合いが生じ、記者たちが暴行を受けた事件だ。

現地にいた記者たちを始め、韓国マスコミは一斉に中国側の行動を非難し始めたが、中国政府に謝罪を求めるのには最初から無理があった。なぜなら暴行した警備員たちは中国の公安などではなく、民間会社の警備員で、イベントを主催した韓国側で手配した警備員だったからである。

それでも韓国世論は中国政府の謝罪と再発防止の約束は当然だと考えた。

だが、中国政府の反応は「韓国が主催した自主行事で起きたこと。誰かが負傷したのであれば、当然関心を示す」(中国外交部のスポークスマン)という、韓国国民の期待とはあまりにもかけ離れた、遺憾表明に過ぎないものだった。

暴行を受けた記者を批判する文大統領の支持者たち

「なぜ記者たちは大統領を困らせるのか!」

この事件について韓国国民の反応は二つに割れた。一つは怒りと失望だ。中国人警備員による記者暴行という非常識な行動、そして、中国政府の冷たい反応はあまりにも非礼だという「怒り」。また、中国政府に対し強く抗議できない韓国政府への「失望」の声が上がったのだ。

ここまでは恐らく日本人の感覚から見ても想像できる範囲の反応だと思う。驚かされるのはもう一つの反応だ。文在寅大統領の熱狂的支持者たちは、暴行を受けた記者たちを非難し始めたのだ。

面白いのは文在寅大統領の支持者たちが記者たちを非難する理由だ。それが「なぜ指示に従わなかったのか」ならまだ理解できるが、大統領の支持者たちが怒ったのは「首脳会談を前に記者たちが大統領に重荷となるような騒動を起こし、大統領の訪中に水を差した。文大統領に迷惑をかけた」というものだ。

その批判の声がどれほど大きかったかは、暴行を受けた記者と同じ新聞社に勤務する同僚記者が自分のSNSに投稿したコメントを見てもうかがうことができる。

(新聞社に)一日中鳴り続ける抗議の電話、「なぜ中国警備員に殴られるような行動をして文大統領を困らせるのか」「なぜ記者たちが我々の文大統領の偉大な中国訪問の評判を落とすようなことをするのか」…ひっきりなしにかかり続ける電話。本当に言葉を失ってしまう。本当に韓国国民なのか確かめてみたいくらいだ。(2017.12.16 暴行を受けた記者の同僚記者のSNSから)

就任初期から文大統領の熱狂的な支持者たちが行ってきた過激な言動は、これまでにも韓国国内で問題視されることがあった(参考記事:「モンスター化する文在寅支持者たち、味方まで跪かせる『狂気』」)。

海外に国賓訪問中の大統領を取材する自国の記者が暴行を受けたという事件において、大統領に迷惑をかけたという理由で非難する姿は、記者たちはもちろんのこと多くの国民を驚かせた。文大統領の支持者たちにとって最も重要なことは国家の威信や、国民の安全ではなく、少しでもそこに傷がついてはいけない「大統領文在寅の偉大さ」だということを示す出来事だということだ。

だが、実は今回の訪中において韓国国民にもっと大きな衝撃を与えたのはこの事件ではなく、文大統領が北京大学を訪問し、学生と関係者300人を前で行った演説の内容だ。

「大国中国の夢を共にする小国韓国」

韓国内からは低姿勢、事大主義との批判

12月15日、文大統領は北京大学を訪問し、両国関係について話し、中国を持ち上げ、中国と韓国の因縁、友好的な交流状況などを紹介した。この中で文大統領は、南京大虐殺について言及し、また、1932年に上海で日本軍首脳部に爆弾を投げ暗殺した朝鮮人独立運動家を紹介しながら、中国と韓国が共に戦った「抗日」の歴史を強調している。

日本にはトランプアメリカ大統領の訪韓時、韓国側が接待に登場させた「独島エビ」や「(元従軍)慰安婦おばあさん」のハグのデジャヴを見ているように映ったことだろう。

だが、韓国人が驚いたポイントは、日本に関連した部分ではなく、以下の部分だ。

中国は中国だけではなく周辺国と共にあるときに、その存在が光る国家です。私は 「中国の夢」が 中国だけではなく全アジア、そして全人類と共に見る夢になることを期待します。

(中略)韓国も小さな国ではありますが、責任のある中堅国家として、その夢を共にします。(中略)毛沢東主席が率いた大長征にも朝鮮人青年が行動を共にしました。韓国の抗日軍事学校である「新興武官学校」出身で広州蜂起(広東コミューン)にも参加した金山(キム・サン)です。

彼は延安で抗日軍政大学の教授を務めた中国共産党の同志です(北京大での文大統領の演説内容)。

まず、「中国の夢」とは、2012年習近平主席が使用した言葉で、「中華民族の偉大なる復興」を意味する。それに対し称賛を送ることは何の問題もない。訪問国に対する「社交辞令」は欠かせないものだからである。韓国で問題となっているのは、「韓国は小さな国だが、中国と夢を共にする」という部分だ。

中国が、人口からみても、経済規模からみても、面積からみても大国であるということは誰の目にも明らかな事実だ。だが中国と夢を共にするというのは、価値観や目標を共にする、少なくとも共感するという意味だ。果たして韓国人の中に中国の言論、思想、ネットの統制や監視に共感する人がいるだろうか。

そして、相手国を「大国」と言い、自国を「小さな国だが大きな国の夢と共にする(ついて行く)」と表現する指導者は、これまでの韓国にはいなかった。

いくら「社交辞令」だとは言っても、あまりにも自国を卑下した、事大主義的発言だということだ。仮に、このような表現をアメリカや日本で使用したら、間違いなく国内から「屈辱外交だ」という厳しい非難を受けることになるだろう。

国民を唖然とさせた発言『毛沢東の大長征に朝鮮青年も行動を共にした』

「受難」を「親交」と解釈する歪んだ歴史観

演説の中で最も話題になったのは、毛沢東の率いた大長征に朝鮮青年が行動を共にしたという部分だ。中国共産党には少なくない数の朝鮮人が参加し、多くの朝鮮人が日中戦争や国共内戦に人民解放軍として参加したことは事実だ。文大統領は、その事実を持ち出して、中国と韓国の「親密な関係」を表現しようとしたのだろう。

だが、韓国にとって重要なのは中国共産党に参加した朝鮮人たちの多くは、1950年に起きた朝鮮戦争に中国軍として参加し、韓国軍や米軍を中心とした国連軍に大きな打撃を与えた「敵軍」となったという事実だ。

毛沢東と行動を共にした朝鮮人たちがいたということをアピールし親近感を示したかったかも知れないが、それは大韓民国を守るために中国軍と戦って命を落とした韓国軍犠牲者のことを完全に無視した話なのだ。

しかも、文大統領は、「中国共産党の同志」だと朝鮮人「金山(キム・サン1905-1938)」に言及したがこれも呆れた発言だ。

金山が抗日運動家、また社会主義者として中国共産党に所属していたのは事実だ。だが彼は、毛沢東の片腕であり、後に文化大革命を主導した康生(1898-1975)により日本のスパイだという濡れ衣を着せられ処刑された。

文大統領が「中国共産党の同志」と表現した朝鮮人は毛沢東と中国共産党によって命を落とした「被害者」なのである。こんな皮肉があるだろうか?

これ以外にも、明と朝鮮の初期を「両国が共に絢爛たる文化を開花させた代表的な時期」と表現した点も理解に苦しむ。「朝鮮」という国名自体が明の太祖に選んでもらった名前であり、その明の太祖は座る姿勢が悪いなどの難癖をつけて朝鮮王が送った使臣を半殺しにして送り返したような人物だ。

明と朝鮮の初期とは、使臣を半殺しにされても抗議することすらもできない、絶対服従の姿勢でいるしかなかった時代である。あの時代が、両国が共に絢爛たる文化を開花させた時期と表現するとは……。

文大統領が夢見る両国関係はあの時代の関係だとでもいうのであろうか。

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