「なぜトランプはエルサレムを首都認定したのか?」

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カネの流れで見えてきた「なぜトランプはエルサレムを首都認定したのか?」

トランプがエルサレムをイスラエルの首都と認定したことで、にわかに中東情勢が緊迫してきた。米国は中東、あるいは世界をどうしようと目論んでいるのだろうか?(矢口新)

米のエルサレム首都認定が新たな火種に

米トランプ大統領が、エルサレムをイスラエルの首都と認定したことで、にわかに中東情勢が緊迫してきた。それに先立つ、サウジアラビアのカタールやレバノンに対する攻勢を踏まえ、中東情勢を5枚の図版で解説してみたい。

中東情勢緊迫化の布石は、2017年6月にサウジアラビアが突如、カタールに国交断絶を言い渡した頃に始まる。

上図にあるように、対立の根っこは、サウジアラビアとイランにある。両国はイスラム教の宗派の違いだけでなく、民族も言語も違う大国同士だ。
ここで特筆すべきは、イランが支援しているとされるレバノンのヒズボラに対して、サウジアラビアとイスラエルが協調して向かっているとされることだ。

サウジアラビアの皇太子は、2017年後半に発表したスマート都市構想でも、計画はイスラエル・エジプトの海岸線にまで及ぶとした。友好国扱いだ。

ここにきて米トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定した要因の1つは、アラブの盟主とされるサウジアラビアが、このところ親イスラエルに傾いていることかもしれない。

ちなみに、イスラム教シーア派はイランとシリアだけ。イスラエルはユダヤ教。レバノンはキリスト教国だ。

米国は世界をどうしようと目論んでいるのか?

米国が中東、あるいは世界情勢をどう捉えているか、あるいは、どうしようと目論んでいるかの示唆は、米国による軍事援助からも伺い知ることができる。

外交は外交辞令という表現があるくらいに当てにならないが、資金援助(特に軍事資金の援助)は本音中の本音を表していると考えられるからだ。

上図の赤が安全保障、濃い赤が緊急軍事支援だ。
安全保障では、イラク、アフガニスタン、イスラエル、エジプト、ヨルダンの順に多い。

緊急支援では、エチオピア、シリア、レバノン、ウエストバンク、イエメンと、図版1から予想されるような所が多い。シリアは反政府勢力への援助だ。

イラクとアフガニスタンが多いのは、侵攻後の米傀儡政権に対する軍事支援、エジプトは「アラブの春民主化運動」を軍事クーデターで倒すことで成立した軍事政権を支え続けていると考えられる。

どちらも2016年末の数値で、トランプ政権誕生前なので、オバマ政権の頃から、こうした動きが見られていたことになる。ところが、次の図版3を見ると、少し様相が異なってくる。

アメリカは軍事支援を通して、中東の「新たな展開」に備えている

2014年末の時点でも、イスラエル、エジプトの軍事政権支援は変わらないが、2年後に急増したアフガニスタンはほぼゼロだった。

この2年間で急増したのは、アフガニスタンに加え、イラク、ヨルダン、エチオピア、シリア、パキスタンなどだ。

つまり、イラクとアフガニスタンへの支援の急増は、米傀儡政権に対する支援というより、新たな展開に備えたものと考える方が自然だ。そして、それはトランプ大統領の誕生前から、周到に準備されていたものだった。

イラン包囲網で見えてくる「戦争が起きた理由」

サウジアラビアがイランと対立し、イランを取り囲む国々に米国が軍事支援を急増させている。

緑の矢印はイランの同盟国だ。シリアは同盟国だが、一部地域では政府の力が及ばない。

黒い矢印はイランが軍事的に力を向けている方向だ。
オレンジの矢印はサウジアラビアが軍事的に力を向けている方向で、クルドを除いては、ここでイランと対立している。

こうして見ると、どうしてシリアの内戦が起きたのか、いや、イラク戦争やアフガニスタン戦争が起きたのかも、何となく見えてくる気がする。

浮かび上がるロシアとアメリカの対立

ここにロシアを加えると複雑化する。ロシアは、イランとシリアの同盟国だ。とはいえ、サウジアラビアとは原油減産で密に連絡を取り合っている。

世界の原油生産では、サウジアラビア、ロシア、米国が他の産油国を大きく引き離してのトップ3だ。ロシアとサウジアラビアが主導する生産削減を始めてから、原油価格は1バレル45ドル近辺から上昇、現状は50ドル台後半で安定している。

両国ともに財政収入の大半を原油収入に依存していることから、ロシア、サウジ両国の連携は不可欠だ。

この連携を壊すには、米国がシェール原油を増産し続けて、原油価格を40ドル以下に押し下げるのが最も効果的かと思われるが、米国の石油会社はどこも民間企業なので、必ずしも政府の思惑通りに動くとは限らない。

また、エジプトは自国の空軍基地をロシアに使用させたことで、米国から叱責された。とはいえ、エジプトとロシアの関係は、スエズ戦争で英仏イスラエル寄りだった米国に対し、エジプトが東側の支援を仰いだ頃からつづくものだ。

ナセル元大統領はソ連邦英雄、レーニン勲章を受章するほどの親ソ路線だったとされる。つまり、エジプト軍のなかには、今でも親ロシア派がいるのだ。

米国の軍事支援が急拡大しているなかで、対エジプトがわずかながらも減少したのは、こうしたことがあるのかもしれない。また、エジプトは、サウジアラビアのカタールやレバノンに対する攻勢に対しても牽制している。

この中で唯一のNATO加盟国として、米国と軍事同盟を結んでいるトルコもまた、米国の内政干渉やエルサレム容認を牽制している。

こうして見ると、シリア内戦を含め、ロシアが米国による中東支配の抑止力になっていることは疑いがない。とはいえ、米国とサウジアラビアによるイラン包囲網がほぼ完成されているので、中東は何かに備えていると見ていてよさそうだ――

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