2018年11月1日よりタイトルをWCA(世界の時事)に変更しました。
「経営」
「働きたい人を働かせないで、日本の製造業は何をやっているのか」
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「わが経営」を語る 大山健太郎アイリスオーヤマ社長
――アイリスオーヤマは、家電メーカー出身の人材を積極的に採用していますね。(聞き手は経済ジャーナリスト、森一夫)
我々は一切、スカウトしていません。家電メーカーの元社員などで大阪R&Dセンター(2013年)を設けたのは、大阪の代表選手はパナソニック、シャープ、三洋電機(現パナソニック)でしたからね。残念ながら3社のうち2社は資本が変わったり会社が無くなったりしました。
リストラで技術者が海外に流れるのを見ていて、何とかしたいと思って退職者を採用したのです。
――大阪R&Dセンターは総勢約70人になり、家電開発を担っているんですね。
大企業では、30代まで現場でガンガンやっていた人が40代になると管理職です。理系の人には不得手な仕事で、そんな悶々としているときに、ハイさようならと言われたらどうなりますか。
まだ自分の技術、腕を生かしたいんです。生活者目線による商品開発という私の方針に共鳴して、そういう人たちがどんどん集まってくれたのです。
アイリスの大阪R&Dセンターは連合艦隊だと、私は言っています。パナソニック、シャープ、三洋、東芝、日立と互いに闘ってきたのが、みな仲間です。多様な人たちが連合すると、いろんなアイデアが出るし、開発スピードも速まります。
――普通なら考えられないですね。
だから皆さん、生き生きしている。70歳の人も働いています。重要な人物で顧問です。「72歳のオレより若いのだから頑張れ」と言ったら、「わかりました」と応えてくれました。
いまだに応募者が来ます。日本の製造業は、働きたい人を働かせないで、何をやっているのかと思いますね。
――アイリスもグループ全体で年間売上高が5000億円にもうすぐ手が届く規模になり、大企業病の不安はありませんか。
気を付ける点は2つあると思います。1つは、働く人の意識が、顧客に向くより組織を優先するようになることです。もう1つはサラリーマン経営の問題です。幹部がサラリーマンになってくると、リスクを取らなくなる。社長の視野が短期志向になって失敗する例があるでしょう。
――「いい会社だから」と看板にひかれて入る新卒者はいませんか。
私は、目標を明確にして評価を公正にすれば人間は頑張るんだと、常に言っています。単に「頑張れ」とか「売り上げ1兆円にしよう」とか言っても、社員には何の関係もない。
アイリスには、何年後に何千億円とか何兆円とかにするという計画はありません。中期計画みたいな意味の無いものを作って縛られるより、今やるべきことをしっかりやった方がいい。
人事評価には公正を期すために時間をかけます。学生時代にあまり勉強しなかった人は、アイリスでは勉強しないといけない。(笑)
――リーダー職に当たる社員には、年末年始に論文を書かせるそうですね。
12月くらいに課題を出して、提出された論文を評価します。そのうち3割くらいは社員の前で発表してもらいます。
――人事評価の下位10%の社員にはイエローカードを出して、3枚になると降格だとか。
当然なんですよ。働く社員にとって良い会社にしたいので、もっと頑張れという意味で、「気づきカード」と言っています。
当社の人事評価は3つあって、1つは業績で自分の目標の達成率。もう1つは、論文などの能力。3つ目は、上司、同僚、部下による多面評価です。気づきカードは、多面評価の順位によるものです。業績や能力とは関係ありません。
――3枚もらうと降格ですが。
そうならないように、コーチングをします。ただ「駄目だ」ではいけません。コーチ役にはデータを渡し、それに基づいて、ここをこうしようとやるのです。
――実際に降格になった人はいますか。
もちろん、おります。2段階くらい落ちた人もいますよ。首になるわけではないので、頑張ればまた上がれます。
――敗者復活がないと。
敗者でもないのです。「気づき」が狙いですからね。復活は多いんです。サッカーと同じです。J1からJ2に落ちたガンバ大阪だって優勝しているでしょう。
――大山さんは現在72歳で、社長を続けるのは75歳までとか。
いや、来年が73歳で、役員定年なんです。
――取締役の定年ですか。
いやいや、社長がね。
――で、どうするのですか。
そりゃ、当然、ここでは発表しません。(笑)
――社長定年が一応あるのですね。
内規がありますのでね。中国の習近平さんや安倍晋三総理みたいにやるのかどうか、わかりません。今言うと大変なことになる。(笑)
――長男の晃弘取締役に将来、継承すると前から言っていますね。
もちろん、それは。
――交代しても何も問題はないのでは。
ただ、この規模で、いつのタイミングがいいのか。今、彼(晃弘氏)は海外をみています。中国、韓国、ヨーロッパ、米国をね。
――ご長男はおいくつですか。
39歳です。
――大山さんはお父様が急逝されたため、社長を継いだのは19歳でしたね。
そう考えれば、誰でもできるんです。責任のある場を与えて、当人に意欲があれば、誰でもできます。
――今、社長の夢は何でしょう。
アイリスオーヤマという会社が世の中に貢献して、皆さんから「いい会社だね」と言われたい、それが一番ですね。我々の会社は生活者を豊かにするためにあるので、利益はその結果です。
――中期計画もなく、数字はそれほど気にしないのですか。
利益率にはこだわります。利益がないと会社が回りませんのでね。そのために新製品の売上比率を5割以上にしなさいと。数字目標はこの2つだけです。
――大山さんはオーナーで株主ですね。
株主です。私は、社員あっての会社であり、経営者は社員の代表だと考えています。私は株主で経営者です。だから当社は社員の代表の社長と株主はイコールパートナーで、最高じゃないですか。
――株式を上場しないとの方針は。
全然変わりません。上場の必要がない。(上場すると)株主と会社の利害がそう反するんですよ。