「金融危機」

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「次の金融危機に備えよ」、BISが鳴らす警鐘
対策はバブル崩壊を経験したノルウェーに学べ

ロンドンを離れノルウェーを訪問する機会があった。北欧ならではの幻想的な風景が広がり、日本人にも人気の観光地である。朝食のメニューには日本の旅館のように焼きサバや明太子などが並ぶのも嬉しい。

ノルウェーといえば手厚い年金や医療などの高福祉の一方、北欧の中でも飛びぬけて高い物価と税金でも有名だ。マクドナルドのビッグマックセットは約1300円(90クローネ)。コンビニで水2本と、ホットドッグを買ったら約2000円(146クローネ)したのにはさすがにビックリした。

一方で、幸福度ランキングでいつも上位につけるなど国民はその高福祉に十分満足している印象も受ける。払っている税金は年金などの将来の福祉として返ってくるので、貯金と変わらず特段気にならないとのことだ。

ただし、教育や医療の多くが無償という旧社会主義に近い体制を今も引き継いでいるため、サービスの質は旧ソ連に似ている印象を受けた。とにかく何についてもサービスは遅く、行列は長い。列車の到着が1時間半遅れようと、レジが壊れて1時間並ぼうとも気にしない。幸福度もさることながらのんびりした国民性でもあるようだ。

もっとも、この幸せの国のノルウェーが、過去に日本以上に深刻なバブル崩壊に直面したことはあまり知られていない。ノルウェーでの過去の教訓は、次に起こりうる金融危機のケーススタディーとして学ぶべきことが多い。

BISが示す不気味な兆候

「次の金融危機に備えよ」――。各国の中央銀行相互の決済を担う組織であるBIS(国際決済銀行)は、2017年6月に発表した年次報告書の中で、再び起こるかもしれない金融危機を回避するように中央銀行の金融政策当局者や政治家に注意を呼び掛けている。主要国の多くで起こっている軽率な銀行融資や、それに伴う一連の資産価格バブルへの警鐘を鳴らしているのだ。

BISは報告書で、グローバル金融危機の打撃が少なかった国や新興国の一部で、リーマン・ショック前に英米で見られた緊張に似た兆しが見られることを指摘している。特に2008年の金融危機の打撃を回避した国が、安易なクレジットの拡大を基盤に急速な成長を得たことで、リスクに曝されていると警告している。

その具体的にはリスク要因は大きく4つ。いずれも、リーマン・ショック以来の金融危機の再発につながる恐れがあることを指摘している。

(1)2008年のグローバル金融危機の直撃を逃れた国(カナダ、北欧、中国、タイ等)における民間債務や住宅価格の高さ
(2)一部の国で、金利上昇時に(債務返済負担が増し)高い水準にある家計債務が需要を抑制する可能性
(3)長く沈滞している生産性の伸びと高い水準の企業債務が、投資抑制につながる可能性
(4)保護主義の高まりが、特に新興国経済の見通しを悪化させる

(注)主要先進経済国=米国、日本、英国、ユーロ圏。その他先進経済国=オーストラリア、カナダ、スイス、デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド、スウェーデン。

中でもBISが最も警戒しているのは、家計債務の増大だ。BISは、長年にわたり世界の主要中銀が導入してきた非伝統的金融政策が招いた世界的な債務水準の大幅な上昇が、既に深刻な状態にあることを強調している。

「家計債務発のバブル崩壊が起きたノルウェー」

過剰債務は金融危機の根本的原因の一つであり、過去に大幅な景気後退を招いてきた。特に金融サイクルがピークを迎えると、その後に銀行や金融市場に膨大なストレスが発生することを警戒している。

家計債務が長期にわたりGDP成長率を上回る速度で成長することは、金融市場のストレスの一つであるだけでなく、経済成長にも大きな影響を与える。過剰債務状態からのさらなる与信の積み増しは、短期的には経済成長につながる効果があるものの、中長期的には経済成長抑制につながるという実証結果などもBISは示している。

しかしながら過去の金融危機発生は、過剰な企業向け融資が一斉に不良債権化することがトリガーとなったケースが多く、実際に家計債務が金融危機の源となったことは少ない。2008年に顕在化した米国のサブプライムローン問題も、本質的には、証券化商品全体の信用問題がその源にあるとされる。

ただ過去の金融危機の根幹には、家計における過度のレバレッジがあり、景気過熱とその後の急後退が政策当局のコントロール不能な状況をもたらしたことは明らかである。

家計債務発のバブル崩壊が起きたノルウェー

ここで、ノルウェーが登場する。同国は1980年代後半から90年代初頭にかけて、家計債務の増大で金融危機に陥ったのだ。

当時のノルウェーは、家計が過剰な債務を縮小するために、急激に消費や住宅投資に向けた支出削減を行ったことが危機の発端になったといわれている。消費者の不安が増大した中での支出削減は、ノルウェー企業の利益急減をもたらした。

家計債務の縮小に遅れて、家計が消費や投資を控えることにより利益が減少した企業向け融資の信用収縮が発生した。既に80年代後半から徐々に収益性が悪化していた銀行では、融資企業の業績悪化に伴う大規模損失を契機に、収益性の悪化が加速度的に進み、最終的には91年の預金の取り付け騒ぎにまで至った。

同時期の92年にスウェーデンで銀行危機が、規制緩和によりバランスシートの健全性を見失い、過剰な企業債務により発生したのと比較しても、その危機の発生メカニズムの違いは鮮明である。

金融上のシステミックリスクと家計債務の関係性を見ると、家計債務の大部分は住宅を担保としており、その価値が大きく変動することがリスクの源となる。すなわち、住宅価格が長く上昇している際には一定期間リスクは低下するが、一旦逆方向を向けば、そのリスクが加速度的に上昇することは自明である。

ただし、ノルウェーで起きた金融危機でも、住宅ローンでの直接的な損失は少なく、その多くが、突然の金利上昇により、消費に大きな影響が出ることで、経済へのネガティブな波及効果が生まれたことが原因といわれている。

突然の消費者の行動変化が結果的に経済成長に大きなインパクトを与え、銀行に甚大な損失を生み出す。また欧州では、日本と違い長期の固定金利の住宅ローンが一般的ではなく、多くが変動金利を採用していることも、家計債務とシステミックリスクの相関を高めている。

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