「心臓」

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「止まらない心臓」が登場、課題は高額医療費
世界初、自己組織を利用した生体弁の作成にも成功

最新技術は「止まらない心臓」さえも生み出そうとしている…

全身に血液を送る臓器、心臓。その機能不全(心不全)を防ぐ医療デバイスと治療手法が幾つも開発され、百歳超まで寿命を延ばすことが可能になりつつある。水分と栄養を絶えず全身に送り出す心臓が元気であれば、たいていの人は生き続けられるからだ。

弱った心臓の一部を代替するデバイスは形状記憶合金フレームなどが使われ、メスで胸を開かなくてもカテーテルを使って心臓内に設置できるようになってきた。術後に普通に日常生活を送れる植え込み型の補助人工心臓も登場している。こうしたデバイスには、合金や磁気など先端分野で開発された技術が盛り込まれている。

半面、これらの治療はどれも高額である。このため、例えば「百歳の人を百十歳まで延命するために高額な医療費をかけるべきか」といったことを国民全体が真剣に考える時期が来ている。

弱った心臓の弁を再生、血管から挿入

全身の血管に血液を送る心臓は、ポンプの役割を果たす4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)と血液の逆流を防ぐ4つの弁で構成されている。歳を取るにつれ、心筋の肥大や弁の石灰化などが進んで、ポンプや弁がうまく機能しなくなり、心不全や重症不整脈が起きると人は死に至る。

生命に関わるポンプや弁を修復する治療として近年、カテーテル治療が台頭している。弱った心臓の機能を代替する様々なデバイスを、足や手の血管からカテーテルという細い管を介して入れ、心臓内部に設置するものだ。

体への負担を最小限にとどめつつ、心臓の機能を再生させることができる。従来はメスで胸を開き、時には人工心肺を用いて心臓を止めながら行う外科手術が主流だった。

欧米から導入が始まり日本でも手掛ける施設が急速に増えているのが、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)である。左心室と大動脈の間に存在する「大動脈弁」の代替となるデバイス(生体弁)を、カテーテルを介して挿入・留置して弁の機能を再生させる。生体弁は豚や牛の心嚢(しんのう)膜で作られており、医師が施術直前に専用の器具を用いて小さく折り畳み、カテーテルに装填する。

「僧帽弁の閉鎖不全をクリップ」

個々の患者の大動脈弁輪の形状に合わせて、生体弁は均一な拡張力で弁輪に圧着するようになっている。そのため、生体弁には内側からバルーンで膨らませるバルーン拡張型と、形状記憶合金を用いた自己拡張型フレーム技術が使われている。弁周囲で血液の逆流を防止する仕組みもある。

2013年にTAVIは日本でも保険適用となり、約3年間で5000以上の大動脈弁不全患者がTAVIによる治療を受けた。TAVIを実施できる施設は3年前に国内で8施設しかなかったが、現在は100以上に増えた。2016年には、エドワーズライフサイエンス、日本メドトロニックの2社からそれぞれ最新のデバイスが発売され、使用できる患者の幅も広がっている。

TAVIはまず、外科手術が実施できない患者を中心に実施された。大動脈弁の治療では通常、実績のある外科手術が優先されるが、開胸して数十分間心臓を停止させる必要があり、合併する基礎疾患などの影響で実施できない患者が3~5割ほど存在する。
その多くは高齢者だ。外科手術を行えない患者には対症療法しか選択肢がなく、数カ月から数年以内に死亡するケースが大半だった。

TAVIにおける30日後死亡率は2%以下。一方、外科手術における30日後死亡率は、単弁置換で2%、再開胸手術で7%となっている。「TAVIを実施した患者群は比較的高リスクな患者を多く含むため、2パーセント以下という率は良好とみることができる」と専門家は説明する。

僧帽弁の閉鎖不全をクリップ

下腿静脈からカテーテルを挿入し、右心系から心房中隔を経て左心房、左心室へ動かし、僧房弁の前尖と後尖の両端をクリップで留め、僧房弁逆流を低下させる。(J Am Coll Cardiol.2011;57:529-37.などを基に作成

左心房と左心室の間にある「僧帽弁」に対してもデバイスが開発され、欧州ではカテーテル弁治療が可能になっており、国内でも治験が進んでいる。

僧帽弁が傷んで機能不全に陥った場合に、弁の前尖と後尖の一部をクリップで留めるというものだ。「MitraClip(ミトラクリップ)」 と呼ばれるデバイスを、米国のアボット社が開発し、2008年に欧州で実用化した。主に重症僧帽弁閉鎖不全症に対して現在30カ国以上でMitraClip を使った治療が行われている。日本国内では現在、承認に向けて治験中である。
 
カテーテル弁治療の最大の利点は、心臓を動かしたままで弁の修復ができることだ。MitraClip によるカテーテル治療では、下腿静脈からカテーテルを挿入し、右心系から心房中隔を経て左心房、左心室へ動かし、僧帽弁の前尖と後尖の一部をクリップで留め、僧帽弁逆流を低下させる。

超小型器を心室に入れ、電気で直接刺激

一方、徐脈性不整脈に対する最新デバイスが、洞不全症候群や房室ブロックなど重症不整脈患者の調律を補正する「リードレスペースメーカー」だ。カテーテル操作により右心室内に留置し、本体先端の電極から直接、ペーシング(電気刺激による拍動の調整)をする。

鼠径部の大腿静脈からカテーテルを用いて右心室に入れ、心尖部に近い心室中隔部に直接留置する

2017年2月、我が国でも米メドトロニックのリードレスペースメーカー「マイクラ(Micra)」が承認された。マイクラは欧州で2015年4月、米国で2016年4月、それぞれ承認されている。

マイクラは直径6.7mm、長さ25.9mm、容積1mL、重さ1.75gで、大きさは現在のペースメーカーの約10分の1。専用のデリバリー用カテーテルで鼠径部から大腿静脈に挿入して右心室まで運び、心尖部に近い心室中隔部に固定する。先端の陰極と本体後部の黒いリング状の陽極間に電位差を発生させて、ペーシングする仕組みだ。

本体を心筋に確実に固定するために、本体先端にタインと呼ばれる形状記憶合金が使われている。マイクラの電池寿命は平均12.5年と長いが、心房と心室の両方にリードを入れる必要がある疾患には適用とならないなどの制限がある。そのため、国内のペースメーカーの植え込み件数年間約6万件のち、リードレスに置き換わるのは数パーセント程度とみられている。

ただし、両心室へのペーシングが可能な新たなデバイスが開発されつつあり、将来的にはリードレスが主流になるとみられている。マイクラはリードレスペースメーカーとしては二番手で、世界で初めて実用化したのは米アボットである(製品名「Nanostim」)。欧州で2013年10月に承認された。我が国でも治験が行われているが承認申請には至っていない。

植え込み型補助人工心臓で長生きが可能に

拡張型や拘束型の心筋症など、薬物療法やCRTが奏功しない重症心不全の患者を救うために、ポンプを体内に埋設する「植え込み型補助人工心臓」が登場している。補助人工心臓は血液を送り出す遠心ポンプやポンプを心臓につなぐ人工血管、駆動装置などからなる。

「高額なデバイスの費用対効果が問われる時代に」

一方、徐脈性不整脈に対する最新デバイスが、洞不全症候群や房室ブロックなど重症不整脈患者の調律を補正する「リードレスペースメーカー」だ。カテーテル操作により右心室内に留置し、本体先端の電極から直接、ペーシング(電気刺激による拍動の調整)をする。

鼠径部の大腿静脈からカテーテルを用いて右心室に入れ、心尖部に近い心室中隔部に直接留置する

2017年2月、我が国でも米メドトロニックのリードレスペースメーカー「マイクラ(Micra)」が承認された。マイクラは欧州で2015年4月、米国で2016年4月、それぞれ承認されている。

マイクラは直径6.7mm、長さ25.9mm、容積1mL、重さ1.75gで、大きさは現在のペースメーカーの約10分の1。専用のデリバリー用カテーテルで鼠径部から大腿静脈に挿入して右心室まで運び、心尖部に近い心室中隔部に固定する。先端の陰極と本体後部の黒いリング状の陽極間に電位差を発生させて、ペーシングする仕組みだ。

本体を心筋に確実に固定するために、本体先端にタインと呼ばれる形状記憶合金が使われている。マイクラの電池寿命は平均12.5年と長いが、心房と心室の両方にリードを入れる必要がある疾患には適用とならないなどの制限がある。そのため、国内のペースメーカーの植え込み件数年間約6万件のち、リードレスに置き換わるのは数パーセント程度とみられている。

ただし、両心室へのペーシングが可能な新たなデバイスが開発されつつあり、将来的にはリードレスが主流になるとみられている。マイクラはリードレスペースメーカーとしては二番手で、世界で初めて実用化したのは米アボットである(製品名「Nanostim」)。欧州で2013年10月に承認された。我が国でも治験が行われているが承認申請には至っていない。

植え込み型補助人工心臓で長生きが可能に

拡張型や拘束型の心筋症など、薬物療法やCRTが奏功しない重症心不全の患者を救うために、ポンプを体内に埋設する「植え込み型補助人工心臓」が登場している。

補助人工心臓は血液を送り出す遠心ポンプやポンプを心臓につなぐ人工血管、駆動装置などからなる。

「高額なデバイスの費用対効果が問われる時代に」

植え込み型にはいくつかの種類があるが、ポンプ内の回転子が回り、連続して血流を送り出す「非拍動式」がメインになりつつある。以前はポンプに一度血液をためてから拍動流を作って押し出す、心臓を模した「拍動式」が採用されていた。

さらに最近開発された「デュラハート」(テルモ)や「ハートメイト3」(ソラテック)といった製品は、ポンプ内の回転子を磁気で浮かせて回す「磁気浮上方式」を採用している。接触軸受けなどの接触部がないため、ポンプ内血栓ができにくく、長期の耐久性が期待できるという。

植え込み型の場合、補助人工心臓を入れた後、退院して自宅での療養が可能になる。従来の補助人工心臓は駆動装置やポンプを体外につなげる体外設置型が主流だった。体外型は入院して心臓移植をするまでの短期間使用する前提で開発されたため、一度着ければ心臓の機能が自己回復しない限り、退院はできなかった。

高額なデバイスの費用対効果が問われる時代に

以上見てきたように、「止まらない心臓」を支えるさまざまな技術と治療方法が開発され、導入されつつある。ただし、紹介した技術と方法はいずれも高価である。当然ながら、そうした高価な医療が医療費を押し上げる影響は無視できない。費用対効果をどう考えるか、議論が必要だろう。

例えば、植え込み型補助人工心臓は材料価格だけで1000万円を優に超える。国内には、虚血性心筋症で重症心不全に陥り、薬物治療やバイパス手術などで手を尽くした高齢者が多い。そうした百歳の人に補助人工心臓を植え込めば、その寿命を百十歳に延ばすことは技術的には可能だ。だが、補助人工心臓による長期在宅治療の保険適用が認められるとしても、高齢者に無制限に使えば医療費の増加につながる。

カテーテル治療装置の価格もどれも高額だ。例えば、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)に使われるデバイスの保険償還価格は465万円で、入院費などを合わせた総医療費は約600万円になる。外科手術による大動脈弁置換術での治療にかかる総医療費300万~400万円と単純比較すると、約2倍の医療費が必要になる。

TAVIの医療費の高さについては、既に診療報酬を議論する中央社会保険医療協議会(中医協)の場でも取り上げられている。

2018年の診療報酬改定から薬価の再算定ルールに組み込まれる予定の「費用対効果評価」の対象品目の一つにTAVIの製品の一つが挙がっている。中医協の費用対効果評価専門部会で議論される見込みだ。

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