「スバル」

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「中央翼(ちゅうおうよく)」とは何か?

2017年10月19日(金)、午前8時55分に成田空港を出発した旭川行きのJAL4901便。

成田からは名古屋の中部国際空港や、大阪の関西国際空港などに向かう国内線が飛んでいるが、旭川行きは設定がなく、JAL4901便はチャーター便だ。しかも、機種は通常は国際線で使用している最新型の787機が用意された。依頼主はスバルだ。

日本航空関係者によると、こうした一企業と広報活動のコラボレーションによるチャーター便の運航は極めて稀なケースだという。

機内に入るとCA(キャビンアテンダント)が「本日は、SUBARU中央翼体感フライトにご搭乗いただき、誠にありがとうございます。この後、特別プログラムをご用意しておりますので、どうぞお楽しみください」とアナウンスした。

さすがに、実機のボディペイントはなかったが、SUBARUとJALのコラボを記念した模型を作成 

聞き慣れない、中央翼(ちゅうおうよく)という言葉。これは、左右に伸びる主翼を支える、機体の中央部分にある構造物を指す。今回搭乗した米ボーイング787機の中央翼を設計・製造しているのが今年4月1日に富士重工業から社名変更したSUBARU(スバル)である。

スバルのルーツが中島飛行機であることが各種メディアで紹介されることはあるが、

『SUBARU航空宇宙カンパニー』という組織があることを知る人は少ないかもしれない。米ベル・ヘリコプター・テキストロンと新多様途ヘリコプターの412EPI発展型機を共同開発し、それをプラットフォームとして陸上自衛隊向けUH-1を開発中だ。そして、中央翼については、787機に次いでボーイング777-X機向けにも開発している。

中央翼の効果とは?

通常は国際線で利用されている787なので、ビジネスクラスを完備 

筆者は定常的に世界各地を取材するため、787の初号機が出荷された2007年以降の約10年間にわたり、787機に搭乗する機会がよくあった。そうした過去の経験では、
(1)エンジンが747機の4基に比べて2基と少ないため離陸時の機内でのエンジン音が静か。
(2)飛行中の機内では機体と空気の接触による振動や音が少ない。
(3)トイレの機能性が良くて生活感がある、といった感想を持ってきた。さらに「なんとなくだが、長時間フライトでも疲れが少ない」という印象があった。

今回のフライトでは、機内プレゼンテーションとして、SUBARU航空宇宙カンパニー・技術開発センター・研究部長の齋藤義弘氏、JALエンジニアリング技術部・システム技術室・機体技術グループ・グループ長の盛崎秀明氏、そして日本航空・運行乗員部・機長の靏谷忠久氏が、それぞれの立場から787機について詳しく説明した。

成田~旭川の飛行中の787主翼。SUBARUが開発・製造しているのは胴体側の中央翼 

それによると、787機は構造の50%を強靭で軽量な素材であるCFRP(炭素繊維強化プラスティック)で構成し、発生音を低くした改良型エンジンと、洗練された形状の主翼を採用したことが大きな特徴だという。

その上で、飛行中に主翼は最大で上下に約3mもたわみ、500トン以上の力がかかる中央翼は「787機の要である」と、その重要性を強調した。

実際の中央翼は、全長×全幅×全高=約9m×約6m×約4m。各種の部品を組み合わせており、主要部分では数百枚のCFRPを重ね合わせている。また、中央翼には約2万本のボルトを採用しているが、そのすべてについて強度計算を行い安全性を高めている。

旭川空港に到着後、787のコックピットを見学 

中央翼を含めて機体全体が軽量かつ剛性が上がったことで、上空で機内に加える圧力を高めることが可能となった。それにより、地上にいる場合に近い気圧で機内で過ごせるため、フライト中の疲れが少ないという。

中央翼の生産は、愛知県半田市のスバル工場で月産12基のペースで行い、中部国際空港からアメリカへ空輸している。アメリカ側では、西海岸のワシントン州エバレットと東海岸のサウスカロライナ州チャールストンにあるボーイングの工場で787の最終積み付けが行われる。最終組付けの期間は約90日だ。

主な目的は、新設テストコースの視察

スバル研究実験センター美深試験場に新設された、高度運転支援技術テストコース 

旭川空港に到着後、大型観光バスで約2時間半北上し、到着したのがスバル研究実験センター美深試験場だ。

スバルは1970年代から美深町の公道を利用した雪上走行試験をきっかけに、1995年に寒冷地での評価を行う試験場を開設した。2003年には全長4.2kmの高速周回路を増設するなど総敷地面積361ヘクタールという、広さでは栃木県佐野市にあるスバルの主要なテストコースを凌ぐ規模の施設へと成長していった。

そうした中、今回、報道陣向けに初めて公開されたのが本年11月からの本格的な運用を予定している『高度運転支援技術テストコース』だ。信号機と横断歩道がある2つの交差点を中心とした一般路を模した設計である。

SUBARUが目指す、自動運転技術の基本的な考え方 

このコースを加えた美深試験場で今後、研究開発が加速するのが2020年に量産を予定している自動車線変更機能を伴う自動運転技術だ。

同社の自動運転部門プロジェクト・ゼネラル・マネージャー(PGM)の柴田英司氏は、「ステレオカメラを利用したアイサイトに加えて、車体の四隅にミリ波レーダー、さらに高精度なデジタルマップと衛星による位置計測システム(GPS)を活用するという、可能な限りセンサーの数を減らして量産コストを抑えるシステムの導入を目指す」と、これまでの考えを繰り返して説明した。

機内で使用するカップや記念シールを作成。JAL関係者から手書きのメッセージも 

さらに、美深試験場での自動運転技術の作り込み方については「5つの曲率のカーブを設定し、レーンキープ(車線維持)などのデータを定量化していく。リアルワールドで、車線変更を伴う自動運転機能は多様なシチュエーションに遭遇するが、まずは試験場における環境下でのシンプルな自動車の動きを定量化した上で、リアルワールドの自動車の動きと照らし合わせる」として、スバルの自動運転技術は衝突回避を第一に掲げる“究極安全”を目指すと抱負を述べた。

この他、レガシィなどの試乗などを含めて、美深試験場で約3時間の滞在の後、再び観光バスで旭川空港へ戻った。

帰路は、定期就航のJAL便で、行く先は羽田空港だった。

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