「呪縛」

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「原発輸出」で日立も三菱も東芝の二の舞いか? やばくても撤退許されぬ実態

またも総選挙の争点から置き去りになった原発問題。国内新増設が見込めない中、安倍政権の原発輸出路線に乗って原子炉メーカーが活路を見いだすのは海外市場だ。だが、一歩間違えば巨額の赤字を背負い込むリスクもある。東芝の二の舞いにならないのか。ジャーナリストの桐島瞬氏が取材した。

今回の衆院選で原発ゼロを掲げたのは希望の党、共産党、立憲民主党、社民党。一方、自民党、公明党、日本維新の会、日本のこころは条件付きを含めて再稼働を容認した。だが、すでに再稼働が進んでいることへの諦めの雰囲気なのか、争点として原発政策が大きく注目されることはなかった。

現在、国内で再稼働した原発は5基。さらに9基が新規制基準に適合するなど安倍政権では次々に再稼働を進めている。エネルギー基本計画で2030年の電力の約2割を原発で賄うとしているためだ。

だが、建て替えや新増設となるとハードルが高い。

「経済産業省は、来年見直すエネルギー基本計画にも新増設の表現を盛り込むことはまだ早いとして見送る構えです。新たに原発を造ることへの国民のアレルギーが依然としてあるため、既存原発の再稼働で間に合わせようとしています」(経産省関係者)

国内需要が見込めない以上、国内原子炉メーカーが目を向けるのは海外だ。

安倍晋三首相自らトルコやインドへ原発を売り込みに行くなど余念がない。

現在、プロジェクトが動いているのは、日立製作所と三菱重工業。日立は12年にドイツの電力会社から原発事業会社の「ホライズン・ニュークリア・パワー」を買収し、英国ウェールズの沿岸地域にあるウィルファで原発4~6基程度の建設を計画。

三菱はその翌年、トルコでフランスの原発メーカーアレバなどと企業連合を作り、黒海沿岸のシノップ原発の建設で合意した。

半面、海外の原発事業には大きなリスクが伴う。

東芝は子会社の米原発会社ウェスチングハウスの経営破綻から屋台骨が揺るぎ、海外の原発事業から撤退した。そうなると心配なのは、日立と三菱が東芝の二の舞いになる危険性だ。

「トルコはまだ事業化の調査段階ですが、英国は20年代前半の稼働を目指して動きだしています。改良型沸騰水型原子炉(ABWR)を建設するプロジェクトの総額はおよそ2兆7千億円。うち1兆円が日本の公的融資ともいわれます。これだけの大金を投入して、本当にリスクはないのかという懸念があります」(同)

プラント輸出の動向に詳しいエンジニアリング・ビジネス誌の宗敦司編集長は、「英国はほかの国に比べてリスクは低いとされているものの、それでも問題は山積み」と話す。

「まず英国では労務費が高いうえに大量の建設作業員の確保が難しい。それに環境保全コストもかさむ。建設工事がスムーズにいかず工期が長引くようなことになった場合、そのぶんの損失を日立側が被ることも想定されます。プロジェクトは日揮、米国のベクテルとコンソーシアムを組んで進めますが、日立と日揮には原発を輸出した経験がない。このため、思いもよらないトラブルが起きた際、3社がうまくまとまるかどうかは未知数なのです」

この3社は今回、工事遅延などで発生した損失は、事前に決めた割合で全社が責任を負うとしている。だが、予想外のもめ事が起きない保証はない。

事実、アレバの新型原子炉「EPR」を建設中のフィンランドのオルキルオト原発3号機とフランスのフラマンビル3号機では、コンクリートの欠陥などから完成がずれ込み、追加費用の支払いを巡って訴訟にまで発展した。

英国で建設予定のある別の原発でもこうした問題は起きていると説明するのは、ドイツ在住のジャーナリスト川崎陽子氏だ。

「英国のヒンクリーポイントではフランスと中国が原発を建設する計画ですが、着工が遅れて追加支払額だけでも当初の60億ポンド(約8900億円)から200億ポンド(約2兆9800億円)以上に増えています。それでも一度動きだした計画はやめられない。現地では、日立はこうしたことを顧みなくていいのか、という声も出始めています」

そもそも英国ではブラウン政権が08年に温暖化対策とエネルギー保障の観点から原発推進へ転換、一時期は海外からの売り込みが押し寄せた。しかし、福島原発事故をきっかけに原発市場が先細りしたため、各社が蜘蛛の子を散らすように撤退した経緯がある。

後釜に据えられた格好になった日立は大丈夫なのかとの指摘だ。

英国独特の差額調整契約制度(CfD)の問題もある。

「CfDとは、電力の基準価格を政府が最初に決め、市場価格がそれより下がれば政府が電力事業者に差額を支払い、逆に上がれば事業者が政府に支払う制度です。基準価格次第で原発の収益ラインが変わってきますが、日立が造る原発に関して価格が決まるのは来年。価格次第で原発の経営に影響を及ぼすことが考えられます」(宗氏)

首尾よく建物が完成したとしても、原発にはその後もリスクが付きまとう。東芝で原子力プラントの設計技師を務めた後藤政志氏は、地震や津波が少ない英国にも原発事故の原因となる要因はたくさんあると言う。

「まず欧州を狙い撃ちにしているテロリストたちが格納容器にミサイルを撃ち込んだらアウトです。核燃料を冷やすための配管が壊れて冷却不能になる。そこから放射能もどんどん漏れ出し、止めるまで1カ月ほどかかるでしょう。特に危険なのは壁の厚さが1~2メートル程度しかない燃料プール。持ち運びのできる対戦車砲などで狙われたら防ぎようがありません」

人為的なミスや内部の機器トラブルも怖い。

「79年にアメリカで起きたスリーマイル島原発事故の原因は主給水ポンプの故障でした。どんなに安全性を高めても事故のリスクが絶えないのが原発。いったん重大な事故が起きれば住民などからメーカーが訴えられます。現に、福島原発事故ではGE、日立、東芝の責任を求めて訴訟が起こされている。原発を輸出するということは、そうしたリスクを負うことになるのです」(前出の後藤氏)

こうした不安要素に対し日立は、子会社のホライズン社への出資比率を引き下げることでリスクを減らすと強調する。

「これから出資者を募り、ホライズン社を当社の会計上の資産から取り除く『オフバランス』にします。資産から省くことができなければ、19年に決めるウィルファの原発プロジェクトへの最終投資を実行しないことにしています」(日立製作所広報部)

だが、これだけリスクが大きい原発事業を背負い込むところがあるかは微妙だ。

「海外企業はない。あるとすれば、国内の電力会社が間接的に運営するかどうか」(業界関係者)との見方も出ている。

たとえホライズン社をオフバランス化できなくても、もう撤退できない状況に追い込まれていると指摘するのは前出の宗氏だ。

「やめると言いだしても、アベノミクスの成長戦略の一環として原発輸出を進めたい政府がそれを許さないでしょう。日立の中西宏明会長が『原子力事業自体に疑義がある』と言い始めたのは、輸出する見返りに政府にしっかりとフォローをしてほしいと遠回しに要望しているのにほかなりません」

それを裏付けるのが9月に明らかになった政府の全額補償だ。今回の日立の原発輸出プロジェクトに関して、日本のメガバンクが融資する建設資金の全額を、政府が日本貿易保険(NEXI)を通じて補償する方向であることが報じられた。通常、民間融資が焦げ付いた場合のNEXIの補償は90%から95%ほど。全額は異例だ。

「今回のプロジェクトでは英国政府と日立、それに日本政策投資銀行と国際協力銀行も融資を実施する見込みですが、総額2兆円を超えるだけに民間融資が不可欠。しかし、原発輸出は貸し倒れリスクが大きいため、銀行が通常の条件での融資を渋った。そこで政府が全額補償をのんだのです」(金融関係者)

全額補償の後ろ盾があってはもはやビジネスではないとの声が聞こえてくる。 しかも、日立の原発プロジェクトが失敗して多額の融資が焦げ付けば、そのツケは国民に跳ね返ってくるのだ。

そこまでして安倍政権が原発輸出を進めようとする背景には、経産省の思惑も働いていると元経産官僚の古賀茂明氏は話す。

「原発産業はすそ野が広く利権の宝庫。天下り先も多い。それを守るためには、是が非でも原発維持が必要です。経産省内で安倍さんは核武装論者だと思われている。首相の意向を忖度するふりをしつつ、実は、原発再稼働や輸出を進める安倍政権を利用して利権を守る。それが将来の生活保障になるというシナリオです」

しかも、いまや日立が強い立場にいる。

「日立は今後、プロジェクトから降りることを匂わせながら、すべてのリスクを政府に被せてきます。そもそも原発輸出したくて仕方のない日本は、相手から見れば、何でも言いなりのいいカモです。東芝と同じ轍を踏めば、結局その尻ぬぐいをするのは国民なのです」(古賀氏)

原発のコストは、やはり高くつき、やがて国民一人ひとりに跳ね返る。

世界的に見れば、再生可能エネルギーへの投資が原発投資をはるかに上回る。

憲法改正、消費税も大事だが、安倍政権、野党は選挙の争点として逃げずにキチンと論議すべきだった。

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