希望の党政権誕生ならその実態は「元民進党内閣」になる]

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衆議院選挙が10月22日に実施される。当初は、「自民圧勝」と思われていたが、小池百合子氏の「希望の党」登場で、結果が見えなくなってきた。

唯一分かるのは、今回の選挙が「安倍vs小池の戦い」ということだ。今のところ風は、はっきりと希望の党に吹いているように見える。しかし、希望の党が政権をとった後をイメージしてみると、あまり明るい未来は描けない。(国際関係アナリスト 北野幸伯)

安倍総理の目算を狂わせた
小池氏の反撃

弱り切っていた民進党が合流したことで、一気に勢力を増した希望の党。しかし、特に外交・安全保障分野では、希望の党ではいかにも頼りがない
 
安倍総理が突然、解散を決意したことで実現した今回の衆議院選挙。野党第1党・民進党がボロボロになっていき、小池氏の新党構想は停滞中だったから、「今なら圧勝できる」と読んだのだろう。

ところが、事態は安倍総理の予想通りには進まなかった。小池氏が反撃に出たのだ。

9月25日、小池氏は「希望の党」を立ち上げた。これは、どのような政党なのか?小池氏曰く、「保守政党」であり、「憲法改正」「安保法」を支持する。これでは、安倍自民と同じだ。

違いがあるのは消費増税。安倍総理は、2019年10月に消費税を引き上げると明言しているが、希望の党は、これに反対している。次に、安倍総理は原発容認だが、希望の党は「脱原発」を目指す。

小池氏の狙いは、はっきりしている。「保守」「憲法改正支持」「安保法支持」を打ち出すことで、「保守だが、森友・加計問題で安倍氏に愛想をつかした層」を取り込む。
 
次に、「消費税引き上げ凍結」を宣言することで、「増税反対派」を味方につける(安倍総理の元支持者には前回の消費税引き上げ後、「反安倍」に転じた有力者が多い)。さらに「脱原発」を公言することで、リベラル層も取り込む。

そして、小池氏の大戦略は、「希望の党」を立ち上げ、自らが党首になることで、「安倍vs小池選挙」にすること。国民は、この2人のどちらを選択するのだろうか?

安倍総理は、森友・加計問題で大きな傷を負ったし、長期政権で飽きられてもいる。小池氏は、「勝てる」と読んだのだろう。さらに追い風も拭いた。民進党の前原代表が、「希望の党への合流」を宣言したことで、一気に「候補者不足」を解消することができたのだ。

希望の党がもし与党になると大きな問題が出てくる

読売新聞が9月28日、29日に行った世論調査によると、すでに希望の党は支持率で第2位に位置している。ここまで影響力が大きくなると、希望の党の未来をイメージしてみる必要があるだろう。

小池氏は、本稿執筆段階では「衆院選には出馬しない」と語っているが、政界では「やはり出馬するのではないか」との観測も根強い。そこで、4つのケース想定してみた。

1.小池氏が都知事にとどまり、希望の党が第2党になる。
2.小池氏が都知事を辞め、衆院選に出馬し、希望の党が第2党になる。
3.小池氏が都知事にとどまり、希望の党が第1党になる。
4.小池氏が都知事を辞め、衆院選に出馬し、希望の党が第1党になる。

「1.小池氏が都知事にとどまり、希望の党が第2党になる」と「2.小池氏が都知事を辞め、衆院選に出馬し、希望の党が第2党になる」の2つのケースは何の問題もない。

2のケースでは、小池氏は、野党第1党のリーダーとして活躍することになる(筆者は景気に冷や水をぶっかける消費増税には反対だ。ぜひとも小池氏にはがんばって頂きたい)。改憲では、自民党との協力もあり得るだろう。

問題となるのは、3と4、つまり希望の党が与党になった場合だ。「3.小池氏が都知事にとどまり、希望の党が第1党になる」では、どうだろうか?このケースで、都知事・小池氏は、総理大臣になれない。

では、誰がなるのか?常識的に考えると「結党時からいた人を優先させる」と予想できる。小池氏にもっとも長く仕えているのは、元自民党の若狭勝氏である。

しかし、元検事、弁護士である彼の政治家としてのキャリアは、わずか3年(初当選は2014年)。とても総理にはなれないだろう。

若狭氏の次に小池氏に近いのは、細野豪志氏(元民進党、当選6回)だろう。野田政権で環境大臣、内閣府特命担当大臣(原子力担当)を務めた。元民主党幹事長で、代表選に出馬したこともある。希望の党内では「大物」といえる。

その他にも、松原仁氏(元民進党、当選6回、元国家公安委員会委員長、拉致問題担当大臣、国土交通副大臣)、長島昭久氏(元民進党、当選5回、元防衛副大臣)、笠浩史氏(元民進党、当選5回、元文部科学副大臣)など、結党時から希望の党に参加していて、それなりにキャリアを持つ人物の中から総理が選ばれることになるだろう。

民進党出身者だらけの内閣が誕生したら…?

そうなると、懸念が出てくる。まず第1に「元民進党が多すぎる」ということ。希望の党は、結党段階で既に、ほとんどが民進党出身者である。既述のように、前原民進党代表が「希望の党への合流」を宣言したことから、今後「元民進党」がさらに増えることは確実だ。結果、「希望の党」内閣が実現すれば、「元民進党内閣」になってしまう。

ちなみに、小池氏は「憲法改正」「安保法」に反対の人は入れないと明言しているが、そもそも民進党は、党の方針として改憲(特に9条改正)と安保法に反対していた政党だ。
その党から来る人が、「憲法改正」「安保法」に賛成というのは、どういうことか?民進党時代に本心を隠していたか、希望の党に入るために変節したかのどちらかだろう。

第2に、小池氏は「希望の党をコントロールし続けることができるのか?」という懸念だ。総理はおそらく元民進党、閣僚もほとんど元民進党。そんな状況で、新総理は都知事のいうことを聞きつづけるだろうか?「小池氏に恩があるのだから、彼らは裏切らない」と考えるのはナイーブすぎる。

そもそも、彼らは民進党(や自民党)を離脱して(悪い言葉を使えば裏切って)、小池氏の新党に走ったではないか?

というわけで、「3.小池氏が都知事にとどまり、希望の党が第1党になる」ケースでは、総理は民進党、閣僚もほとんど民進党。そして、閣外にいる小池氏は、時と共に影響力を失う可能性が高い。このケースでは、「小池さんの党と思って投票したのに、総理も閣僚も民進党」となり、支持者は幻滅するだろう。

最後のケース、「4.小池氏が都知事を辞め、衆院選に出馬し、希望の党が第1党になる」では、小池氏が総理大臣になる。日本はじめての女性総理ということで、世界中のメディアが大きく取り上げるだろう。日本のイメージは、短期的には大きく改善する。

閣僚は、ほとんどが民進党出身者だろうが、小池氏が総理兼党首であることで、反逆は起きにくくなる。

こう見ると何の問題もなさそうだ。しかし、やはり懸念はある。それは、小池総理の下で閣僚になる政治家たちの経験の浅さだ。そもそも、安倍総理と、小池氏の「外交、安保政策」に何の違いもない。

集団自衛権行使を認める「安保法」を支持しているということは、「日米同盟が基軸」ということだ。つまり、安倍、小池外交の大きな方向性は同じなのだ。ただ、小池内閣の閣僚は、安倍内閣に比べて、かなり未熟、経験不足である。

希望の党の外交戦略にはあまり期待が持てない理由

小池内閣が誕生したら、どのような結果になるかを予言することなどできない。ただ、選ぶ時は、一定のリスクを覚悟しなければならない。国民が「リスクを覚悟して新しい人を選ぶ」場合、その大きな理由は、「古い人がダメだから」だろう。
 
しかし安倍総理は、「希望の民進党政権」をリスク覚悟で試すほどに、ダメだっただろうか?

断っておくが、筆者は「安倍信者」ではない。安倍政権の「消費税引き上げ」や「3K外国人労働者大量受け入れ」「残業代ゼロ法案」などには同意できない。しかし、こと外交・安全保障分野においては、安倍政権の功績を高く評価している。

安倍総理は、今回の解散・総選挙を「国難突破」と名づけた。たとえ本音が、「自民党圧勝作戦」だったしても、今が「戦後最大の国難の時代」であることは事実だ。

「日本の国難」とは、何だろうか?長期的には、「日本に沖縄の領有権はない」と宣言している中国だろう。中国は、ロシア、韓国と組み、米国を巻き込んで、日本を孤立させようとしている。
 
これに対し安倍総理は、米国と最良の関係を築き、ロシア、韓国と和解し、中国の戦略を無力化させた。この件については8月の記事(「安倍総理続投が日本の国益、辞めれば習近平が大喜びする理由」)で触れたので、今回は詳述しない。「自民か、希望か?」で迷っている人は、この記事も参考にしていただきたい。

ちなみに、安倍氏の前、3人続いた民主党の総理大臣はいずれも、外交では大失敗をしている。

09年に誕生した鳩山政権は沖縄基地問題で米国と揉め、日米関係を破壊した。

続く野田政権は「尖閣国有化」で、日中関係を戦後最悪にした(筆者は尖閣国有化に賛成だが、それで日中関係が壊れたことは事実である)。

安倍総理は5年かけて、民主党政権が壊した、さまざまな国々との関係を修復してきた。こうした過去の経緯を振り返ってみると、日本の国難を考えたとき、希望の党が与党となり、民進党出身閣僚が集うようでは非常に危ういと言わざるを得ない。

一方、短期(あるいは中期)で最大の問題は、北朝鮮だろう。世界の現状を見ると、国連安保理を通じて制裁を強化していく「圧力派」の日本、米国と、「緩衝国家」北朝鮮を守りたい「対話派」の中国、ロシアに分かれている。

しかし、中ロも北朝鮮を守り切ることは難しい情勢だ。北朝鮮は安保理を無視して暴走を続けているからだ。この間、制裁も徐々に強化されてきた。

北朝鮮問題でも安倍総理は良い行動を取っている

「圧力派」を主導するのは、もちろんトランプだ。しかし、彼の言葉は過激すぎで、ロジックも不足している。たとえば、トランプは9月19日、国連で演説した。世界中のメディアが、彼の「北朝鮮は完全に破壊される」発言をトップで報じた。「戦争の可能性を高める」というネガティブな意味で取り上げたのだ。

一方、安倍総理が9月20日に国連で行った演説は、極めてロジカルだった。総理は、現在の危機が「対話の不足」によってもたらされたものではないことを、詳しく解説した。

1994年の米朝合意、2003年から始まった六か国協議。北は、協議と核開発を同時に進め、06年には初めての核実験を強行している。総理は、対話が結果的に無意味だった証拠を突きつけた。

<何よりそれを次の事実が証明します。
すなわち94年、北朝鮮に核兵器はなく、弾道ミサイルの技術も成熟にほど遠かった。
それが今、水爆とICBMを手に入れようとしているのです。
対話による問題解決の試みは、一再ならず、無に帰した。
何の成算あって、われわれは三度、同じ過ちを繰り返そうというのでしょう。>

トランプと違い、安倍総理の演説は論理的で説得力があり、誰も反対できない内容だった。このように安倍総理は、トランプの「圧力路線」を論理面で支えているのだ。

前述したように、民主党政権時代の外交の失敗を一つずつ安倍総理が修正してきたため、日米は現在、最良の関係にある。日ロ関係は、米ロ関係が最悪であるにも関わらず良好だ。さらに日本は、インド、英国、オーストラリアなどと準同盟と呼べる関係にある。EUや東南アジア諸国との関係も悪くない。

中韓との関係すら、民主党の野田政権時代と比べると、穏やかになっている。
 
これが、日本の現状だ。日本は今、世界のほとんどの国々と良好な関係を築いている。これは、もちろん安倍総理の実績だろう。

確かに小池氏は、勇気、決断力、時流や大衆心理を理解する力、戦略観、大局を見通す力、スピード、行動力など、さまざまな肯定的要素を持っている。

しかし、「小池氏の他は、ほとんどが元民進党(=旧民主党)」という政党に、政権を任せることができるだろうか?

筆者は、現在日本が直面している「国難」を考えると、希望の党に「試しにやらせてみる」「リセットしてみる」のは「リスクが多すぎる」と思う。皆さんは、どうお考えだろうか?

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