「ヤッパリ信用できない」

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自身の出馬は固辞しているものの、希望の党を率い、全国で200人超の候補者を擁立して国政進出を果たそうとしている東京都知事の小池百合子氏。

期待の声がある半面、都知事としての皮算用に満ちた「失策」には、目を覆うばかりだ。改革者として信用に足る人物なのだろうか

「日本をリセットする」――。10月10日公示、22日投開票の第48回衆議院議員選挙で、一気に台風の目に躍り出たのが、東京都知事でありながら国政政党「希望の党」を自ら設立して代表に就いた小池百合子氏である。

十数年ぶりの本格的な野党再編を巻き起こし、政界やマスコミはもはや、小池氏を中心に回り始めたといっても過言ではない。もっとも、民進党の所属議員を引き入れ、連合の全面的な支援を得て政権奪取をうかがうかと見られたが、小池氏が左派系議員の「排除」を訴えたために民進は分裂、当初の勢いは削がれたように見える。

さて、今まさに小池氏がライバルに見据えているであろう安倍晋三首相の好きな言葉を使えば、「政治は結果責任」である。2016年8月の就任以来、東京都という自治体の首長として小池氏はどのような結果を残してきたのだろうか。

「1年と少しで結果を残せるわけがない」との声も聞こえてきそうだが、小池氏が今日までの任期で決定した政策をつぶさに検証すれば、将来どう見ても破たんすると断じざるを得ないような、重大な失策が見えてくる。

例えば、都政で最も注目を集めた築地市場の豊洲への移転問題。

小池氏は豊洲の土壌汚染などを理由に、移転自体をいったん遅らせた。だが結局今年6月になって、中央卸売市場の機能は豊洲に移転させ、築地の跡地を売却せず、再開発して活用する案を発表。「築地は守る、豊洲を活かす」と小池氏自ら表現した方針だ。

莫大なコストをかけて建設された豊洲新市場は活用しつつ、「TSUKIJI」として海外にも知られた築地市場跡地を「食のワンダーランド」として活性化する――。そんないいとこ取りのアイデアが実現できれば、素晴らしい。あくまでも本当に実現できれば、の話だが。

ところで、豊洲新市場を建設したがために、東京都の市場会計の企業債残高、すなわち借金は、18年3月末見込みで約3600億円存在する。

小池氏の都知事就任前は、築地の跡地を民間に売却することで、この借金の返済に充てる計画だった。だが小池氏は、築地を売却せずに都で保有し続け、前述の再開発によって民間から地代収入を得て、これを返済に充てる方針に切り替えたのだ。

小池氏の方針転換を受けて都の事務方は、21年度から50年間、1年あたり160億円の地代収入を得続け、かつその途中で企業債を借り換えれば、大きな資金ショートを避け、累積赤字を54年度に解消できるとの試算をはじいた。

逆に言えば、築地の再開発で毎年、160億円の地代収入を50年間得続けなければ、累積赤字の解消はままならず、深刻な資金ショートに陥ってしまう。

小池氏が6月の記者会見で語った「豊洲で累積してしまう、将来への負の遺産は残してはならない」との宣言は、実現できなくなるのだ。

築地で表参道並みの賃料設定
あまりに非現実的な都の試算

築地の再開発によって、本当に年間160億円の地代収入を稼ぎ続けることが、できるのか。専門家への取材に基づいた本誌の検証では、答えは「ノー」だ。

まず、前出の都の事務方の試算を詳しく見てみよう。160億円地代収入の積算根拠は、貸付面積全体から道路想定部分を除いた17.2万平方メートルのうち、事業用地を11.3万平方メートル、住宅用地を5.9万平方メートルと設定。貸付料の料率については、事業用地は、豊洲に建設予定の「千客万来施設」、住宅用地はなんと、「港区北青山3丁目地区の実績に基づく」との記載がある。

港区北青山3丁目と言えば、東京メトロ表参道駅がある交差点の周辺だ。商業地としては、今年7月1日時点の基準地価で1平方メートル当たり2420万円と、東京でも、いや日本でもトップクラスの価格だ。一方で築地の商業地は、最高値の築地3丁目でも196万円と、桁が違う。

築地に近い晴海では五輪選手村をマンションとして5000戸超分譲
では、住宅地としての価値はどうか。不動産のデータ分析などを手掛ける東京カンテイによると、駅周辺の築3~10年の中古マンションの流通価格の実績を、東京メトロ日比谷線築地駅、都営大江戸線築地市場駅、東京メトロ表参道駅で比較した場合、築地7457万円、築地市場8561万円、表参道1億2710万円と、かなり大きな差がある。

いくら築地が銀座に近く、浜離宮恩賜庭園を望む「何物にも代えがたいロケーション」(小池氏)にあるとはいえ、住宅地として国内最高価格帯ともいえる表参道並みの価格を維持するのは、どう考えても無理である。

ましてや、土地は都が保有し続け、その上にマンションを建てて定期借地で販売することになるが、こうしたいわゆる定借マンションの販売価格は、一般的に相場を2~3割下回る。現実的には、「表参道並み」から大きく離れた価格を想定すべきなのだ。

さらには、供給戸数もネックとなりそうだ。

中央区の都市計画図によると、築地市場がある土地の建蔽率は80%、容積率は500%だ。ある不動産の専門家の分析によると、試算で住宅地とされた5.9万平方メートルの敷地では、1戸当たり60平方メートルのマンションが約5000戸できる計算だ。

つまり都の試算は、築地に5000戸のマンションを建て、全ての部屋が表参道並みの価格で売れるか、賃料で貸せることで、初めて160億円の地代収入が得られる、ということなのだ。

ちなみに、築地に近い晴海では、20年の東京オリンピックのために建設される選手村が、大会終了後にマンションとして5000戸超分譲されることが、すでに決定している。

それだけでも首都圏のマンション価格を大きく押し下げると懸念されているのに、築地でさらに5000戸のマンションを試算通りの高値で販売するのは至難の業といえるだろう。この専門家は「試算の前提は荒唐無稽。全く話にならない」と突き放す。

なお、都の資料では、事業用地は後述する千客万来施設、住宅用地は港区北青山3丁目地区の土地価格をベースとした上で、貸し付け条件の制約を想定し貸付料を10%減額したとしている。

しかし、表参道と築地では、前述のようにマンション価格の差は10%では済まない上、定期借地であるため販売価格も下がる。10%分減額した前提でも、50年間で160億円を稼ぎ続けられるとは言い難い。

美辞麗句を並べただけ
築地活用プランの危うさ

より面積の広い事業用地については、豊洲市場に隣接して建設予定の温浴施設や飲食店などからなる「千客万来施設」を目安に、地代収入の料率が設定されている。

ただし豊洲に実際に建設予定の施設は、延べ床面積が計約4万1900平方メートルだ。これは敷地面積ではなく、延べ床面積であることに留意されたい。

築地の事業用地は敷地面積で11.3万平方メートルあり、ここに施設を建設する場合、一般的に考えれば延床面積はより広大なものとなるはずだ。果たして施設を全て埋めるだけのテナントを誘致できるのか、大いに疑問だ。豊洲に実際に整備される施設とも競合する。

なお、これら都の事務方の試算は、小池氏の指示を受けて、築地の跡地を売却した場合、保有し続けた場合など、複数のケースについて前提を変えて計算した結果の一部にすぎない。

肝心なのは、小池氏が試算をどのように吟味し、自身の結論を出したのかである。6月20日の記者会見で、小池氏はどのような結論を出したのか、会見の配付資料から見てみよう。

「仲卸の目利きを活かしたセリ・市場内取引を確保・発展」「築地のノウハウを生かした消費者向け新事業(商業、外食、教育、芸術、スポーツ等)」「地域との一体化で一大観光拠点として発展」「食のワンダーランド」

何ともあいまいなコンセプトばかりで、地代収入の安定的な確保に向けた具体策は何一つ語られていない。

にもかかわらずこの資料には「『賢い支出』により持続可能な市場を確保」「豊洲・築地合算のキャッシュフロー収支が黒字化し、当初の巨額な総事業費を超える都民負担の拡大を防止」と書かれている。金額的な根拠はなんら示されていないのに、である。これでは美辞麗句を並べただけの“作文”だ。

ちなみに小池氏は、当時の記者会見で「築地を再開発して新たな東京の一大拠点を作るという希望。これがあれば私は必ずやってけると考えている」と述べている。このころから「希望」という言葉を自らの主張に潜り込ませていたのだった。

そのうえで、7月に投開票された都議選では、自身が率いる地域政党「都民ファーストの会」で圧倒的な議席を得た。豊洲移転推進派、反対派の両者にいい顔を見せるための「捕らぬ狸の皮算用」を用いて都議会自民党の議席を奪い、政治基盤を強固にしたのだった。

さて、いまや政界再編の台風の目として派手な打ち上げ花火を打ち上げる小池氏だが、都知事として決定した政策はすでに、これだけの危うさに満ちたものだった。

来たる衆院選への小池氏の戦略や公約などは依然として不透明だが、有権者は「希望」の二文字以外にも、目を凝らして検証すべき点が多くある。

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