「簡単には行かないね」

画像の説明

英国のEV移行に電力不足がブレーキ、巨額投資必要に

9月1日、英国が、ガソリン車やディーゼル車の新規販売禁止に伴い発生するだろう電力不足を防ぐためには、巨額の資金を投じ、新たな発電所、電力供給ネットワーク、そして電気自動車(EV)充電スポットなどの整備を図る必要がある。

ガソリン車やディーゼル車の新規販売を2040年以降禁止すると表明した英国だが、それにより発生するであろう電力不足を防ぐためには、巨額の資金を投じ、新たな発電所、電力供給ネットワーク、そして電気自動車(EV)充電スポットなどの整備を図る必要がある。

技術的には、今後20年間に走り始める数百万台のEVに電気供給することは可能だ。余剰電力の大きい夜間に充電するようドライバーを説得できるならば、インフラ投資コストも低めに抑えられるだろう。

特に課題となるのは送電網だ。全体で15%、ピーク時で最大40%の増加が見込まれる電気需要に対応するには、さまざまな技術が必要となる。

「これは難問だ。発電能力や送電網の強化、充電施設に対して多大な投資が必要となる」とコンサルタント会社ウッドマッケンジーのエネルギー市場アナリスト、ヨハネス・ウェッツェル氏は語る。

ガソリン車などの販売禁止方針を7月に表明した英国政府の狙いは、健康被害が懸念される大気汚染の改善と、2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で8割削減する自らの目標達成だ。

英国の道路を走り続ける従来車もあるだろうが、2040年までにEVの数は、現在の約9万台から2000万台へ急増すると、専門家は予測する。これら全てを充電するには、追加電力が必須だ。

オフピーク時に充電

それでなくとも英国は、古い原子力発電所が寿命を迎え、石炭火力発電所が2025年までに漸次停止されるため、2020年代初頭には電力供給危機に直面する見通しだった。

今回のEV移行方針を表明するはるか以前、今から4年前の時点ですでに英国政府は、クリーンで安定した電力供給を実現し、需要を抑制するために1000億ポンド(約14兆円)を超える投資が必要だと試算していた。

これは楽観的な数字だろう。現在英国で唯一建設中の原子力発電所、ヒンクリー・ポイント原発の建設費用だけで、196億ポンドかかる見通しだ。

ガス火力発電所の建設はこれより安価で工期も短いが、新規建設の計画はない。また、ガス火力発電は温室効果ガスを排出する。再生エネルギーについても、例えば太陽光発電パネルの場合、EV充電に適した夜間には発電できないなど、需要と供給のバランスの問題を抱える。

オフピーク時に充電

EVやハイブリッド車、燃料電池自動車など、それぞれの台数予測は数字に幅がある。しかし、こうした車の増加に対応するため、2040年までに最大50テラワット時の追加電気供給が必要になる、とロイターが取材したアナリスト数人は予想する。

バーンスタインのアナリストは、総電気需要の増加幅は現在の13─15%にあたる41─49テラワット時になると予想する。だが15%の増加であっても、消費電力がピークに達する午後6時─9時にドライバーがEVを充電すると、4割増に跳ね上がることになるという。

ただ、電気需要がピーク時の3分の1程度に落ち込む夜間に充電をするよう奨励することで、この問題を緩和することが可能だ。

「オフピークの時間帯に充電するようなインセンティブを作れば、EVにシフトしてもピーク時に大きな負荷はかからない」とバーンスタインのアナリストは指摘する。

英国は、エネルギー効率改善に成果を上げている。2005年から2016年にかけて、電力需要は、総需要とピーク時ともに約14%低下した。経済が同程度拡大したにもかかわらず、だ。

「送電と配電システムには、ピーク時の需要増に対応できるだけの需給の緩みが生じている」とバーンスタインは分析する。

同社が「極端なシナリオ」として想定するピーク時需要の4割増は24ギガワットに相当する。だが、英国の送電システムを運営するナショナル・グリッドによると、もしスマート充電設備や、時間帯ごとに料金を変える電気料金システムが導入されれば、増加は5ギガワットに抑えられるという。

このように、オフピーク時の電気代を安くすることで、その時間帯にEV充電を推奨するやり方は不可欠だ。

「次世代送電網や、スマート充電、蓄電などの設備が導入されなかった場合、ピーク時需要の極端な増加は起こり得る。だが、こうした新技術の開発によって、ピーク時のレベル内で需要増に対応できると考えている」と、ポユリュ・マネジメント・コンサルティングのリチャード・サースフィールドホール氏は語る。

電力損失の発生リスクも

妨げられた成長

現在英国にある9つの原発は、計9ギガワットを発電できるが、寿命が延長されない限り、そのうち8つが2030年までに閉鎖される予定だ。さらに、12ギガワット分の石炭火力発電所が2025年までに閉鎖される。

昨年末の時点で、ガス火力発電は合計32ギガワットに達しており、政府はさらにガス火力発電所を増やせば、石炭火力発電所の閉鎖分を補えるとしている。ただ、大口電力価格の低迷によって、新たな投資が抑制されている。

この3年に開設されたなかで最大の884メガワットを発電するガス火力発電所が、昨年マンチェスターで稼働を開始した。建設費用は7億ポンドだった。だが、近隣に2ギガワットのガス発電所を建設する計画は、8億ポンドの投資集めに苦戦し、行き詰っている。

考えられるリスクは、電力需要拡大に化石燃料を使って対応することで、従来型車両が現在排出しているよりも大量の温室効果ガスを排出する結果を招く可能性があることだ。

ノルウェーは、世界で最も人口当たりのEVの所有数が多く、1月には新車販売の37・5%がEVだった。だが同国は、ほぼ全ての電力を、温室効果ガスを排出しない水力に頼っている。

政府は、老朽化する発電所の刷新と電力需要増に対応するため、2035年までに140ギガワット近い発電能力が必要になると予測している。これは、現在より30ギガワット多い規模だ。

電力源としては、陸上と洋上の風力発電、ガス、バイオマス、原子力、また欧州からの電力供給などが考えられる。

しかし英国は、原子力発電所の新規建設に苦戦している。仏電力大手EDFが建設している発電量3・2ギガワットのヒンクリー・ポイントC原発が稼動するのは、最短で2025年だ。

必要な投資のほとんどは、民間セクターの負担となる。だが、専門家は、電力・ガス市場規制局(OFGEM)も含めた政府が、安定したエネルギー・ミックス(電源構成)の実現を後押しし、欧州大陸とのインターコネクターなどのインフラ整備を実施しなければならないと指摘する。欧州大陸と電力網を結べば、需給にあわせて電力の輸出入が可能になる。

「再生エネルギーやインターコネクター、新規のガス火力もしくは原子力発電所が増加すれば、必要な電力は賄える。だがその実現には、政府やOFGEMの支援が必要だ」と、米コンサルティング大手KPMGのサイモン・バーレイ氏は言う。

「それでも、地域のピンチポイントや送電ネットワークの安定の問題には、疑問符が付きまとう」

コメント


認証コード8536

コメントは管理者の承認後に表示されます。