「最も警戒」

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中国は党大会を目前に控え「米朝戦争」を最も警戒している

中国共産党第1回党大会跡

8月31日、中央政治局が会議を開き、同大会を10月18日に北京で開催する旨が公表された。これから中国は、ますます本格的に政治の季節に入っていく。あらゆる分野におけるあらゆる事象が党大会を中心に動いていくことになる。

とりわけ、前回コラムで扱った言論統制は最も赤裸々に実施されることが必至だ。現在、中央から地方まで各宣伝機関は党大会のための“宣伝工作”をどう展開するかを具体的に確定する段階に入っている。

例として、9月8日、習近平総書記の古巣・浙江省の党委員会宣伝部は会議を開き、「党の十九回大会を迎えるために宣伝の大合唱を形成するのだ」と会議出席者に対して呼び掛けている。

上記のスケジュール感が明らかになった直後、私は「早いな」という第一印象を受けたのが正直なところである。10月18日、そしてこの日時を8月31日に発表したことを含めてだ。過去の党大会と比べてみると、スケジュール感自体は早くない。前回の18党大会は9月28日に公表されて11月8日に開催、前々回の17回党大会は8月28日に公表されて10月15日に開催されている。今回のそれが特別な様相を呈しているわけではまったくない。

「早いな」という印象を持った
二つの理由

にもかかわらず、自分が「早いな」という印象を持った理由と背景を、公表から約10日が経ったいま、二つの視点から考えてみる。

米中関係をめぐる不確定要素は少なくない

一つは、本連載でも度々扱ってきたように、習近平政権が成立して以来、“反腐敗闘争”から“核心”の地位まで上り詰めた習近平本人への権力の集中を含めて、激動の程度、闘争の様相が尋常ではなかったように思える。

一時はポスト習近平候補の一人と目されていた孫政才・元重慶市書記が党大会を前にして“落馬”するなど、これまた尋常ではない動きが実際に発生している。このような状況を背景に、党内の権力闘争が水面下で激化し、人事や日時を含めて中々決まらないのではないかという“印象”を私自身が抱いてきたのだろう。

言うまでもなく、そんな“印象”から何かを確定できるわけでは決してないが、私が現段階で判断する限り、習近平と長老、他の同僚との関係やコミュニケーションはある程度順調に進んでおり、党大会の目玉となる人事を含め相当程度固まった、故に確定された日時を公表するに至ったと振り返ることができる。

二つ目は米国のトランプ政権との関係をめぐってである。今年4月米フロリダ州で開催された米中首脳会談において、習近平はトランプ大統領に対して「年内の国事訪問」を要請している。習近平本人が要請し、公表されたということは、中国共産党のロジックから言えば、これは絶対に成功的に実施されなければならない案件ということになる。失敗は許されないし、トランプが来なくなることも許されない。

実際に、私自身は、中国共産党指導部にとって、2017年下半期の二大行事は19回党大会とトランプ訪中だと捉えてきた。しかも、この二つの行事はコインの表と裏の関係にある。後者は前者の布石にならなければならないのであって、間違っても重荷になってはならない。

米中関係をめぐる
不確定要素は少なくない

しかしながら、経済貿易問題や北朝鮮問題などを含め、米中関係をめぐっては依然として不確定要素が少なくない。私自身は、共産党指導部の対米関係への懸念度と警戒心が党大会のスケジュール設定にかなり直接的に反映されると見てきた。

やっかいな北朝鮮の核問題

具体的に言えば、対米関係への自信と掌握度が高いのであれば、党大会をトランプ訪米の後にスケジューリングし、「トランプ訪中円満成功」という業績を持って党大会を迎えるアプローチが一つ。

もう一つが対米関係への懸念度と警戒心が高く、“失敗”が心配されるトランプ訪中を党大会の前にスケジューリングするのはリスキーであるという判断から、先に党大会、後にトランプ訪中というアプローチである。

現状から、党指導部は後者を選択したようである。今年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)は11月初旬にベトナムで開催される予定であり、トランプはよほどのことがない限りアジアを訪問する。その際に日中韓三国を何らかの形で訪問する可能性はある。

もっとも、長旅を嫌うとされるトランプが11月のアジア訪問をどうマネージするかは不確定要素である。米中双方の交渉の結果、APEC期間とは切り離すシナリオも考えられる。

ただ本稿の文脈から一つだけ言えるのは、よほどのことがない限り(このように前置きをするのは、少なくとも私から見て、トランプの言動や思考が読めないこと、米中を巡る問題が激しく動いており次の瞬間に何が起こるか読めないことが関係している)、トランプ訪中は党大会開催の後になるということである。

私は現在ワシントンD.C.で本稿を執筆しているが、トランプ訪中にまつわる米中間の各作業は難航しており、現実問題の処理を巡るプロセスが問題解決に臨む当事者間の相互不信を生む事態も発生している。
「現実問題」と「相互不信」の一角を担う

北朝鮮の核問題

「現実問題」と「相互不信」の一角を担うのが北朝鮮の核問題であることは論をまたないだろう。北朝鮮は日本の上空を越える弾道ミサイルを発射したり、6回目の核実験を行うなどますます挑発的な行動を取るようになっている。米朝間の対峙と緊張はエスカレートしており、両者の間で挑発的な発言の応酬も見られる。

最大懸案は米国による北朝鮮への軍事攻撃!?

私が本稿を執筆している9月10日午前現在(米東部時間)、国連安保理が11日に採択を目指すという北朝鮮に対する新たな制裁要項を巡って、米国と中国・ロシアの間で駆け引きが繰り広げられている。中国は国連の枠組み内での制裁に固執しているだけに、国連安保理が制裁の強度をどこまで高められるかが一つのメルクマールになろう。

習近平とプーチン大統領は“暗黙の了解”のもと協調しているように見える。私は中ロがこれからどのような“役割分担”をしていくのかに注目している。北朝鮮は9日に建国記念日を迎え、ロシアからの祝電が北朝鮮官製メディアを通じて確認された。

一方、中国からのそれは確認されず、中国の官製メディアや外交部サイトにアクセスしても北朝鮮の国慶節を祝い、中朝友好を謳うような報道や声明は見られない。参考までに、3年前の2014年9月9日、習近平、李克強、張徳江の序列1~3位が連名でそれぞれのカウンターパート(金正恩、朴奉珠、金永南)宛に建国66周年に際しての祝電を贈っている。

中国側の最大懸案は
米国による北朝鮮への軍事攻撃!?

トランプ訪中を党大会の後にスケジューリングすることで“トランプリスク”が共産党の正統性を脅かすシナリオを回避すべく目論む習近平であるが、懸念事項は残る。最大の懸念は、残り1ヵ月強となった党大会までの間にトランプが北朝鮮に対して軍事攻撃をすることであろう。

軍事攻撃といっても、核開発関連施設に的を絞っての行使、“平壌陥落”を彷彿させるようなより大規模な行使など複数考えられる。仮に米国が軍事力を行使すれば韓国や日本が報復の対象となる可能性は高く、米国も慎重に慎重を重ねることは間違いない。

「中朝友好協力相互援助条約」によれば…ただ、仮にトランプが堪忍袋の緒を切らして何らかの行使に至り、米朝間で軍事的対立が表面化した場合、中国はどう反応・対応するだろうか。

仮に10月18日前後に米朝間の軍事対立が激化したとして、外交部が従来のように声明を出し、各方面に自制を呼びかけるなか、党大会の成功的開催を大々的に祝うのだろうか。私が党中央や外交部の関係者に話を聞く限り、中国当局は「なんだかんだ言って、トランプは北朝鮮に武力行使をすることはない」(外交部局長級幹部)と構えているようである。

「中朝友好協力相互援助条約」によれば
全力で軍事的およびその他の援助を与える

1961年に締結され、1981年、2001年にそれぞれ“更新”されてきた《中朝友好協力相互援助条約》第二条は次のように謳っている。

「締結国の双方は如何なる国家によるどちらか一方に対する侵略を防止するためにあらゆる措置を共同で取ることを保証する。締結国のどちらか一方が如何なる一つの国家或いは複数の国家による武装侵攻を受け、それによって戦争状態に陥った場合には、締結国のもう一方は直ちに、全力で軍事的、およびその他の援助を与えなければならない」

自らが“法治国家”であることを大々的に宣伝する中国共産党が同条約に基づいて行動するのであれば、仮に北朝鮮が米国と“戦争状態”に陥った場合には、直ちに、全力で軍事的およびその他の援助を与えることになる。

仮にそれが第19回党大会期間中であっても、である。そのようなシナリオは共産党にとっては悪夢であり、そうならないように外交的チャネルを通じて“政治的解決”を目指すというのが中国の立場であり主張である。

日本・日本人にとっても他人事ではないだろう。日本には日本の国益・国情があり、できることとできないことがある。「できないこと」を明確にした上で、「できること」を“全ての関係国”と戦略的に共有するところから始めたい。

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