「消えゆく外交的解決…」

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消えゆく外交的解決…マティス米国防長官「脅威なら大規模反撃」明言 北取引国との貿易停止措置が分岐点か

3日、米ワシントンのホワイトハウスで、声明を発表するマティス国防長官(左)とダンフォード統合参謀本部議長

「北朝鮮を抹殺しようとしているわけではないが、そうするための選択肢は数多くある」

3日午後。マティス国防長官は、北朝鮮による「水爆」実験を受けてトランプ大統領が招集した約3時間にわたる緊急会議の後、ホワイトハウスで記者団に言明した。

ダンフォード統合参謀本部議長を横に従えて声明を読み上げたマティス氏は、北朝鮮が米本土やグアムなどの米領、同盟諸国を攻撃するなど「直接の脅威」にさらした場合は「有効かつ圧倒的な大規模軍事反撃に見舞われるだろう」とも強調した。

一連の激烈な警告は、ケネディ政権が旧ソ連との核戦争の瀬戸際に立たされた1962年のキューバ危機以来の「異例の発言」として、米国内でも衝撃をもって受け止められた。

トランプ氏は会議でマティス氏に対し、現時点で米軍が用意している「多数の軍事的選択肢」の詳細について、一つ一つ説明するよう要請した。

米軍は、グアムのアンダーセン空軍基地に配備しているB1爆撃機によって、命令さえあれば2時間以内に北朝鮮の核・ミサイル施設を攻撃できる態勢を維持する。

また、部隊を東アジア地域に大規模増派しなくても在韓米軍と在日米軍で北朝鮮有事に即応できる準備を整えている。

マティス氏はトランプ氏に「いかなる攻撃があろうと、米国や日韓を守り抜くことができる」と応じた。

トランプ氏も3日の安倍晋三首相との電話協議で、「米国は外交、通常・核戦力など全ての能力を活用して米本土、海外領土、同盟国を防衛する責務を果たす」と改めて表明した。

注目されたのは、この日の会議には北朝鮮に対する国際的な外交・経済的圧力を主導するティラーソン国務長官が出席していなかったことだ。マティス氏も、ここ最近の発言では必ず付け加えていた「外交的解決を最優先させる」といった文言を一切封印した。

透けて見えるのは、トランプ政権が今回の核実験を極めて深刻にとらえているという事実だ。

米国防・情報当局者は、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)に搭載可能な水爆の実験に成功した」とする北朝鮮の主張は事実であるとの見方を強めている。トランプ政権の我慢は、許容限度に近づいている。

米国はここへきて「平和的解決」から「軍事的選択肢」に軸足を移すのか。

トランプ氏は3日、ホワイトハウス近くの教会で南部テキサス州でのハリケーンと集中豪雨の犠牲者を追悼する礼拝を終えた後、記者団に「北朝鮮への攻撃に踏み切るのか」と聞かれると、「そのうち分かる」とだけ述べてきびすを返し、大統領執務室に戻る専用車に乗り込んだ。

「北朝鮮と取引のある、あらゆる国との貿易停止を検討している」

トランプ米大統領は3日、ツイッターで北朝鮮に対する全面禁輸につながる措置に初めて言及し、北朝鮮の核放棄に向けて徹底的な経済制裁を展開していく覚悟を強く打ち出した。

トランプ氏の発言は、一連の経済制裁が北朝鮮を対話の場に引き出すための単なる威迫ではなく、北朝鮮を国際経済から切り離して弱体化させ、核保有が体制の存続を保証しないことを悟らせるのが目的であることを鮮明にするものだ。

同時に、北朝鮮の後ろ盾となっている中国とロシアに対し、関係が一層険悪化するリスクを冒してでも北朝鮮に厳然と対処すると宣言するものでもある。

ロイス下院外交委員長は3日、先月2日に成立した北朝鮮による核・ミサイル開発の資金源を絶つことを目的とした北朝鮮制裁強化法を活用するとともに「北朝鮮と取引のある中国銀行への制裁の網を広げるべきだ」と訴えた。

トランプ政権は4日に開かれた国連安全保障理事会の緊急会合で、北朝鮮と取引のある企業への制裁を拡大する制裁決議の採択を目指し、中国とロシアに圧力をかける。

一連の動きの背景にあるのは、トランプ政権がどれだけ強く「軍事的選択肢」の可能性を警告したとしても、想定される多大な被害と犠牲者を勘案すれば、北朝鮮が先に攻撃してきた場合に反撃するのは別として、情勢を打開するために軍事行動に踏み切るのは極めて困難だという現実だ。

一方で、米政権が外交・経済的圧力に関し「北朝鮮への全面禁輸」という、歴代大統領が有効な手段であると知りつつ、米国にとっても重要な貿易相手国である中国との関係を考慮すれば踏み切れなかった「最後の手段」を持ち出してきたことは、米国が「平和的解決」に向けて全ての手を尽くしていることを打ち出す狙いがあるとみられる。

言い換えれば、外交・経済的手段が尽きれば、軍事的選択肢の実施が視野に入ってくることを暗に示す意図が込められている。

これによって、中国とロシアを北朝鮮に対する圧力強化に同調させることに成功するのか、あるいは中露がこれさえもトランプ政権による「はったり」とみなして動かないのか、現時点では見通せない。

問題は、経済圧力を通じた解決が絶望的であることが明白となった場合、米国がどう動くかだ。

トランプ政権が「第二次朝鮮戦争」を覚悟して軍事攻撃に踏み切る可能性は決してゼロではない。一方、「核保有国・北朝鮮」という新たな現実を受け入れようという声は、米国の外交専門家の間で徐々に広がりつつある。いずれにしても米国および同盟国の日本にとっては「茨の道」となるのは確実だ。

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