「米デフォルトリスク」

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トランプ政権の混乱で「正夢」も

8月18日、米政府の債務不履行(デフォルト)リスクに対し、金融市場の懸念が表面化しつつある。資金手当てができている9月末までに米議会が債務上限の引き上げを承認するのか、予断を許さない情勢になっているためだ。

米政府の債務不履行(デフォルト)リスクに対し、金融市場の懸念が表面化しつつある。資金手当てができている9月末までに米議会が債務上限の引き上げを承認するのか、予断を許さない情勢になっているためだ。背景にはトランプ政権の迷走もあり、世界最大の米国債保有国である中国と日本が利払いを受けられないという「悪夢」が「正夢」になる可能性を、頭ごなしには否定できない。

白昼夢ではない米デフォルト・リスク

ムニューシン財務長官は「9月いっぱいまでの資金手当てはできてている」と表明したが、それ以降は、米議会による債務上限の引き上げ承認が必須。

しかし、9月5日の米議会再開後、9月末までの審議日は、下院で12日間、上院で17日間しかない。

「絶対にそんなことは起こらないだろうということが、トランプ政権では起こり得る」(機関投資家)と、一部の参加者は身構え始めた。

米3ヵ月物米国庫短期証券(TB)の利回りは7月25日、1.203%まで急上昇し、2008年10月以来、約9年ぶりの高水準に達した。「債務上限を巡る議会での対立で償還が遅延するとの懸念から、TBはつま弾きにされている」(ストーン&マッカーシーのストラテジスト、ジョン・キャラバン氏)という。

世界最大級の米国債保有国の中国と日本も、他人事ではない。

FRBの計画に影響も

米国は10月2日に既発債務に対して70億ドルの利払いを実施する予定だが、あくまでも債務上限引き上げが前提だ。

6月末時点の中国の米国債保有額は1兆1465億ドル、日本の保有額は1兆1022億ドル。債務上限引き上げの承認がずれ込めば、兆円単位の利払いが滞る。

「利払いがなかった場合は、利払いの技術的遅延という解釈で、日本政府としては様子を見ることになるだろう。他の債権者からデフォルト宣言があるとしても、日本は最後になるのではないか」(河上信彦・元財務省為替資金課長)という。

この件に関して、日本の財務省は「状況を注視している」(国際局)としている。

FRBの計画に影響も

米連邦公開市場委員会(FOMC)は、6月に米連邦準備理事会(FRB)のバランスシートの具体的な縮小方法を公表し、7月の声明で米経済がおおむね予想通りの展開となれば「比較的早期」に縮小に着手する方針を確認した。

市場は次回9月19、20日のFOMCで、縮小プロセスの発表があり、10月に縮小が開始されると見込んでいる。

しかし、ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は17日、FRBはバランスシートの縮小開始時期を決定する際に、債務上限を巡る議会での議論も注視するだろうとの見方を示した。「FRBは9月にBS縮小を決定することはできるが、米財務省の資金繰りが厳しくなることが見込まれる中で、開始時期が後ずれする可能性もありそうだ」(日本政府関係筋)との見方もある。

米財務省の入札計画に狂い

債務上限引き上げにメドがつかない状況は、米財務省の第3・四半期の債務発行計画を狂わせた。

米財務省は、FRBの国債買い入れ減少計画に備えて、年内に財務省証券の発行を増加させる方針を示していた。

しかし、債務上限を巡る討議が長引く中、8月2日に公表した四半期定例入札の詳細では、第3・四半期の入札規模を960億ドルに据え置き、検討していた超長期債の発行も見送った。

この結果、発行増が第4・四半期に集中し、発行規模が5010億ドルと大幅に拡大する見通しで、米国債市場の需給悪化要因になりそうだ。

米国では、国債発行枠に上限(法定債務上限)があり、超過は許されていない。現在の上限は19.9兆ドル。

オバマ政権下の2013年10月には、債務上限に対する暫定予算案が期限の9月末まで成立せず、約18年ぶりに米国の連邦政府機関が一部閉鎖され、80万人以上の政府職員が自宅待機となった。

米議会では上下両院とも共和党が過半数議席を占めるが、簡単にはいかない構造問題がある。自由議員連盟(フリーダム・コーカス)の30─40人の共和党議員は、オバマ政権時代にも、債務上限引き上げに反対。彼らが今回も反対すれば、民主党議員の支持が必要になる。

ムニューシン長官は「米国の信用を維持することが最も重要」とし、米国は期限までに債務返済を行う必要があると再三、議会で訴えているが、民主党は歳出削減との抱き合わせという条件を出し、長官が望む条件無しの「クリーン」な引き上げのメドは立っていない。

9月上旬に予定される4週間物TBの入札に向け、市場がデフォルト・リスクに一段と神経質になれば、再び短期金利が急上昇するリスクも否めない。

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