「理由」

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北朝鮮の金正恩に「対米戦争」の動機はない。ならば一体誰が?

楽観できない半島情勢、ポイントは周辺大国の事情

先週、北朝鮮が米領グアムの周辺に4発の弾道ミサイルを発射する準備をしていると報じられてから、米朝間の緊張が高まっています。

米国もハリス国防長官、ティラーソン国務長官が「外交交渉」「対話」路線重視の姿勢を見せる一方で、トランプ大統領が核戦争の脅威をちらつかせるなど、足並みの乱れも見られ、市場に不安をもたらしています。

これに対して、市場の反応もまちまちで、アジア市場、欧州市場が警戒を示す一方で、米国市場は総じて楽観的で、VIX(ボラティリティ指数)が短期的に上昇したものの、すぐにこれが低下するなど、「軍事行動はあり得ない」との見方が優勢になっています。

しかし、米国を含め、ロシア、中国など周辺大国の事情を考えると、あまり楽観は許されないように見えます。

北朝鮮側に米国を攻撃する理由は存在しない

金正恩委員長がいくら不可解な人物だとしても、北朝鮮自身の事情からすれば、米国に先制攻撃する理由はありません。

まだ朝鮮戦争が終わっておらず、目下「停戦中」なだけに、北は自身の存在感を米国はじめ世界に認知してもらい、米国と対等な形で平和条約を結びたいはずです。そこで対等な条件を得るために、核ミサイルの開発を進め、抑止力を確保しようとしたわけです。

従って、北朝鮮としては、米国に北の脅威を感じさせ、そのうえで対等な条件のもと、平和条約を結び、後は経済発展を図りたいはずで、これまでの抑圧された「小国の悲劇」を打開するための手段が核開発でした。

その完成がいよいよ近づき、後は米国など周辺国に北朝鮮の存在感を見せつければ所期の目的は達成されるわけで、あえて米国に戦争を仕掛ける意味はありません。

戦争の「火種」は、米国内と中国・ロシアでくすぶっている

最大の「火種」は米国内にある

ところが、その北の事情に反して、周辺大国がそれぞれの事情で北朝鮮を利用しようとしていて、その過程で軍事衝突が生じるリスクがあり、その辺の事情を市場は織り込めていないように見えます。このため、想定外の「軍事衝突」が市場を混乱させる可能性が排除できなくなっており、そもそも米国内に「火種」があります。

米国のトランプ政権が国防問題で一枚岩になっていません。背後で大きな影響力をもつロスチャイルドは軍事行動には慎重で、対中国では「一帯一路」で共通の利益を狙っています。

一方、ロックフェラー・グループの影響力も高まっていますが、ティラーソン国務長官など、ロックフェラー系でもエネルギー関連の面々は、ことを荒げずに、交渉に持ち込みたいと思っています。

しかし、同じロックフェラー系でも、軍事産業関連の面々は軍事行動に積極的です。それでも当初はイスラエルのためにイラン攻撃を優先すると見られ、北朝鮮は後回しと見られていたのですが、ここへきてトランプ大統領を刺激しているのが彼ら軍事産業関連のネオコン勢力のように見えます。このネオコン勢の影響力がどうも高まっているように見えるのが気がかりです。

中国、そしてロシアの「深謀遠慮」

これに対して、中国、ロシアがそれぞれの事情を抱えています。両国はともに朝鮮半島を「緩衝地帯」と位置づけ、今の状況を変えたくないはずです。このため、11日にはロシアのラブロフ外相が、北朝鮮問題の緊張緩和のために、中露が共同計画を持っていると発言し、市場に安心感を与えようとしました。

しかし、両国の事情も複雑です。中国の習近平主席は、自らを毛沢東の再来のように、長期絶対政権を築こうとしています。そこに習近平主席のもとで中国との冷戦を進めようとしているトランプ政権のロックフェラー系が接近し、習主席の狙いを支援する形になっています。

中国としても北朝鮮の核装備は抑制したく、北の暴発は回避したいところですが、その一方で現在進行中の北戴河会議から秋の共産党大会で、習近平絶対体制が完成するまでは米国との争いは避けなければなりません。米中間の貿易不均衡が拡大し、南シナ海での米中緊張も高まり、そこへ北が核実験でもしようものなら、中国の立場は非常に難しくなります。

ロシアはすでに北朝鮮内にかなり入り込んでいます。もともと北朝鮮は旧ソ連の衛星国としてつくられた面もあります。それだけ、ロシアにとっても北朝鮮と米国との確執は放っておけません。それでも、北朝鮮にロシア軍を配備するには理由が必要で、その際、ある程度米国が軍事行動に出て、朝露国境に難民が押し寄せるなどの事態も必要です。

このように、建前では中国もロシアも北朝鮮問題の緊張緩和を望んでいるように見せつつ、ロシアにとってはある意味、米国が小規模な軍事行動に出た方が都合が良い面もあります。もちろん、ロシアも中国も米国と全面的な戦争に出る気はありません。部分紛争を利用したい程度です。

米国が軍事介入した場合の「北のリアクション」は読み切れない

米国ネオコン勢の「部分的な軍事介入」シナリオが狂う可能性

しかし、イラクと異なり、米国が北に軍事介入に出た場合の、北のリアクションが読み切れません。北が米国の介入に簡単に折れるとも考えられず、命がけの行動に出ないとも限りません。

その場合は、グアムに留まらず、米国本土も報復の対象になり、その前に韓国、日本にミサイルを撃ち込むリスクが高まります。イラクと北朝鮮は同列には考えられません。

米国トランプ政権の言動が北へのブラフであればよいのですが、ネオコン勢が「部分的な軍事介入」を考えるとすれば、それが部分的なものに留まらないリスクがあります。ティラーソン国務長官とトランプ大統領、ネオコンとの関係がうまくないとの見方もあり、一時は国務長官辞任説まで流れました。

米国市場がトランプ陣営を読み切って楽観的であるなら良いのですが、トランプ陣営のバランスを読み切れずに、意味のない楽観論にすがっているとすれば、また一波乱あるかもしれません。

朝鮮半島リスクは、北朝鮮よりもトランプ陣営のバランスにかかっていると言わざるを得ません。安倍政権にこれを抑える力があるとも見えず、日本としても楽観は禁物です。

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