「夢の技術は詐欺だった」

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渋滞をものともせず、環境への負担も少なく、経済的にも優れている-。

中国で「未来の交通システム」として開発が進んでいた新型バスをめぐり、違法な手段で出資金を募ったとして30人以上が拘束された。技術的にも疑問が呈されており、プロジェクトはこのまま頓挫するもようだ。

主要国営企業の9割に粉飾決算が指摘されるなど、企業の不透明な経営がたびたび浮かぶ中国。「夢の技術」も不正と無縁ではなかったようだ。

渋滞知らず 良いことずくめの「天空バス」
「未来の乗り物だ」

昨年、新型バスの走行実験が始まった際、中国メディアはこぞって、その先行きに期待を寄せた。「国産」であることを強調する報道も相次いだ。

新型バスは「Transit Elevated Bus」(TEB)と名付けられ、「天空バス」「立体バス」とも呼ばれた。道路の両脇にレールを設置し、道路をまたぐように通行するバスで、車道との間に約2メートルの距離があるため、道路を走行する乗用車をやすやすと乗り越えて走るとされた。

渋滞緩和にもつながり、環境にも優しく、コストも低い乗り物として評判を集め、米誌タイムが選ぶ「世界の発明50」にも選出された。

昨年5月に北京で開かれた科学技術産業博覧会に出展され、8月には河北省秦皇島市で走行実験がスタート。米紙ニューヨーク・タイムズも「もし将来、中国の道を走っているとき、急に鉄製の“腹”に飲み込まれても慌てないように。エイリアンによる連れ去りではありません」とTEBについて好意的に報じた。

夢の実現は遠くない未来と思われた。

不透明な資金集め浮上…「神話が笑い話になった」

だが、夢はそれから1年も経たずに覚めてしまった。

走行実験の前後から、各メディアが不透明な資金集めについてこぞって指摘し始めたのだった。「重心が高くて重量もあるので、倒れやすいのではないか?」「はたしてカーブでちゃんと曲がれるのか?」という技術的な問題点を挙げる声も相次いだ。

実験も頻繁に行われることはなく、秋には落ち葉が軌道上にあふれ、TEBの車体は「観光客が写真をたまに撮りに来る」(中国ネットユーザー)状況となっていたという。開発が進んでいないことは明白だった。

そして、今月2日、北京市公安局は、投資を募る際に違法行為があったとして、資金集めに関与していた運営会社「華贏凱来」の関係者ら32人を拘束した。

経済誌「新金融観察」や、経済紙「毎日経済新聞」(電子版)によると、同社関係者は投資後、上場が実現された場合、「6倍にしてリターンする」などとかたって投資家を集めていた。600万元(約1億円)をつぎ込んだ個人投資家もいたという。

関係者が拘束されて以降、北京の事務所には投資家が詰めかけたが、同社側は一切対応はしなかったという。すでに看板も下ろされており、投資家は怒号を上げた後、ため息をつくほかなかった。

公安局が今後、動機や被害の規模などについての捜査を進めるものとみられる。新金融観察は「成熟したプロジェクトは最新技術や研究チームが備わっているが、TEBはただ未考証のサンプル(試験運行した車両)があっただけで資金を集めていた」と指摘。

地方紙「重慶日報」(電子版)はコラムで「天にも昇らんばかりの勢いで語られた(TEBの)神話は、最終的に笑い話に終わった」と切って捨てた。

秦皇島市に設置されていた実験用の軌道は当局によって取り壊しが始まっており、すでに「神話が笑い話」になったことを裏付けている。

売上高操作は「3兆円」

中国企業をめぐっては、中国審計署(日本の会計検査院に相当)が6月23日、代表的な国有企業20社のうち18社で不正があり、粉飾決算は近年の累計で2001億6000万元(約3兆3000億円)に達すると公表している。

18の企業には石油業界最大手の「中国石油天然気集団」など業界の大手が名を連ね、不正が幅広く蔓延(まんえん)していることがうかがえる。

審計署の発表は、あえて不正を発信することで習近平政権が腐敗や不正に厳しい姿勢で臨んでいることをアピールする狙いがあったとみられるが、企業経営に不透明さがつきまとう実態が改めて浮かんだ。

もちろん国営企業の問題とTEBの事件は、規模や手法から同一視はできないが、中国企業に詳しい関係者は「中国をめぐるビジネス全体の信頼に関わるという意味では同じ」と指摘。

「TEBは世界中にニュース配信され、各地の新聞にも取り上げられて話題になっていた。プロジェクト頓挫は中国にとって赤っ恥ともいえる事態だ」と話している。

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