「北爆」

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北朝鮮の反撃に備えを固めた日米

米国は戦争準備をほぼ終えた。それは北朝鮮も分かっている。

「嫌がらせ」をあきらめた文在寅

文在寅(ムン・ジェイン)大統領が7月29日未明、米軍のTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)の追加配備を認めました。7月28日深夜、北朝鮮が米本土まで届くと見られるICBM(大陸間弾道弾)を試射したからです。

180度の姿勢転換です。文在寅政権は追加配備に難色を示したうえ、国を挙げて在韓米軍のTHAAD基地を封鎖するなど嫌がらせをしてきました

態度急変の前日、7月28日には韓国国防部が「すでに配備した装備を含めTHAADすべてに関し、環境影響評価を実施する」と正式発表したばかりでした。

文在寅大統領は2017年3月、テレビ討論会で「THAAD問題を次の政権に手渡せば、いろいろな外交カードとして使える」と主張しました。

環境影響評価を理由に配備を遅らせることにより、米国を脅す作戦でした。在韓米軍の兵士と韓国国民を守るTHAADを、外交の小道具として使おうとしたのです。

米軍の顔色を見る国防部は環境影響評価の実施に否定的でしたが、青瓦台(大統領府)に押し切られたのです。

THAADの「非正常な運用」

これを報じた東亜日報は「THAAD、年内配備は不透明に」(7月29日、日本語版)で「(環境影響評価は)1年以上かかる可能性が高く、THAADの非正常な運用が長期化すると懸念されている」と書きました。

韓国の左派団体は慶尚北道・星州(ソンジュ)の米軍THAAD基地を封鎖。通行する車両を検問しては、新たな発射台や発電機の燃料の搬入を阻止してきました。それを警察も止めません。

文在寅政権が「環境影響評価が実施されていない」ことを盾に追加配備を認めないこともあって、4台の発射台は韓国に持ち込まれましたが、星州の基地に配備されていません。米軍は本来なら6台の発射台で構成する

THAADを、先に持ち込まれた2台で運用しています。

高性能レーダーに必要な電力も外部から供給されず、ヘリコプターで発電機用の燃料を運んでいます。このため、北朝鮮がミサイルを発射しても稼働していなかったこともあると朝鮮日報は報じています(「『THAAD封鎖』でいよいよ米国を怒らせた韓国」参照)。

「「見捨てられ」の恐怖」

政権が態度を急変したのはなぜでしょう?

「米国に見捨てられる」との恐怖でしょう。5月末に訪韓した米国の大物議員は「韓国がTHAAD配備を望まないなら他で使う」と語りました(「『第2次朝鮮戦争』を前に日米を裏切る韓国」参照)。

韓国に頭を下げてまでTHAADを配備するつもりはない、ということです。

この発言により、米朝間の緊張が高まった時に韓国が配備を邪魔し続けるなら、米国は軍を引き揚げる可能性が高いと見られるようになりました。

韓国の保守も「THAADでつまらぬ嫌がらせをしていると米国から見捨てられる」と悲鳴をあげました(「『韓国の鳩山』に悲鳴をあげる保守系紙」)。安全保障に鈍感な日本の軍事専門家の間でも、在韓米軍撤収が囁かれ始めていたのです。

文在寅政権は7月29日の北朝鮮のICBM発射を見て「米国が軍事行動に出る可能性が増した。もう、米国への嫌がらせを続けるわけにはいかない」と判断したのでしょう。

この政権の基本路線は「反米親北」です(「『米帝と戦え』と文在寅を焚きつけた習近平」)。しかしまだ、米韓同盟の廃棄につながる米軍撤収までは覚悟できていないのです。

南下した米軍兵士と家族

米国は「第2次朝鮮戦争」への備えをさらに固めましたね。

その通りです。2台より、6台の発射台の方がいいのは当然です。米国防総省のスポークスマンは7月31日、韓国記者らに「追加配備の準備は終えている」と語りました。

「すべてのことは韓国政府との継続的な協議の産物」とも述べ、追加配備容認は対韓圧力の結果と誇りもしました。

聯合ニュースの「米国防総省『THAADの追加発射台、可能な限り迅速に配備の準備完了』」(8月1日、韓国語版)が伝えています。

文在寅政権は北朝鮮との対話に未練を持っています(「早くも空回り、文在寅の『民族ファースト』」参照)。

北朝鮮は追加配備に怒り出しますから、米国は韓国にそれを認めさせることにより「対話より戦争準備」を選択させたのです。

戦争準備と言えば、7月11日には在韓米軍の主力である陸軍第8軍の司令部の移転が終わっています。ソウルから、その南方80キロの平沢(ピョンテク)に移りました。

これに伴い、各地に分散して駐屯していた米軍部隊も平沢に集結、ソウルよりも北に残るのは砲兵1個旅団だけになりました。もちろん在韓米軍の家族も一緒に平沢に移り住みます。

これらの大移動は予定されていたことですが、北朝鮮の長距離砲や多連装ロケット砲の射程圏内から、多くの米軍兵士と家族が脱したことを意味します。米国は戦争を始めやすくなりました。

なお「最近、横田基地に大量のバラックが建てられた。朝鮮有事の際、韓国から退避した米軍関係者を収容するためだろう」と語る日本の専門家もいます。

「人間の盾」を予防

米国政府は自国民の北朝鮮旅行も禁止したとか。

7月21日、北朝鮮への渡航禁止を発表しました。7月27日に施行され、30日の猶予期間を経て発効します。北朝鮮旅行を斡旋してきた中国の旅行社には発表前から通知しており、実質的には7月中旬から渡航を止めている模様です。

北朝鮮で拘束された米国人青年が6月13日、人事不省の状態で送り返されました。この青年は6月19日、脳の損傷のため亡くなりました。

米国政府は渡航禁止を発令した理由にこの事件をあげました。が、米朝の軍事衝突を念頭に置いているのは間違いありません。いざ戦争になった際、北朝鮮が米国人旅行者を「人間の盾」に使うのは確実だからです。

渡航禁止令の発表と同じ日、7月21日にはハワイ州政府が、北朝鮮の核攻撃を想定した市民向け対応マニュアルを公表しました。7月4日に発射したICBMの射程距離が従来の北朝鮮のミサイルよりも長いため、ハワイが核攻撃に晒されると判断したのです。

北朝鮮支援が目的の吹田事件

米国は準備、着々ですね。

日本も備えを進めています。安倍晋三政権は6月15日、共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を成立させました。「第2次朝鮮戦争」に伴う日本国内でのテロの防止にも活用する狙いと見られます。

北朝鮮軍の奇襲攻撃で始まった朝鮮戦争(1950-1953年)。一時は朝鮮半島の東南の片隅に追い込まれた米軍が、態勢を挽回できたのは日本の強大な補給力のおかげでした。

戦争の真っただ中の1952年6月24―25日、北朝鮮を支持する左派勢力は朝鮮半島に送られる米軍の武器・弾薬を阻止しようと吹田事件を起こしました。

大阪大学豊中キャンパスを出発したデモ隊は、警官隊から拳銃を奪い、米軍の高級将校に暴行したうえ、国鉄・吹田操車場に突入しました。
 
朝鮮半島で再び軍事衝突が起きれば「日本の補給力」を潰そうとするテロが起こり得ます。安倍政権が「共謀罪」を強引に国会で通過させたのも、新たな朝鮮半島有事を意識してのことと思われます。

「北への侵略と共謀罪を許すな」

「共謀罪」が「第2次朝鮮戦争」と関連するとは初耳です。

公安関係者には関連付けて考える人が多いのです。逆に、北朝鮮を支援する勢力にすれば、共謀罪は「目の上のたんこぶ」です。

7月29日、「北朝鮮への侵略戦争を阻止せよ!」をスローガンに掲げ、署名を呼びかける人々が都内で見受けられました。彼らのもう1つのスローガンが「共謀罪を許すな!」でした。自分たちに適用されかねないと懸念しているのでしょう。

1994年の朝鮮半島の核危機の際、日本には戦争準備が全くないことが露呈し、米国を激怒させました。例えば、日本を守る米海軍の艦船が敵から攻撃を受けても法的に、自衛隊は指をくわえて見ているしかなかったのです。

そこで安倍政権は2015年9月になってようやく、米艦防御などを可能にする安全保障関連法を成立させました。

それから2年近く経った2017年7月26日、青森県陸奥湾沖で海上自衛隊は「米艦防御」を実施しました。もちろん、安全保障関連法が根拠です。参加したのは海自の掃海母艦「ぶんご」と、米海軍の掃海艦「パイオニア」(Pioneer)です。

戦争になったら北朝鮮の流す機雷を、海上自衛隊と米海軍の掃海部隊が一緒になって除去することになります。その訓練を新しい法制の下で実施したのです。

深夜のICBM試射

これだけ準備したとなると、米国は北朝鮮を攻撃するのでしょうか?

それは分かりません。準備はあくまで準備です。「いざ」に備えているに過ぎません。ただ、北朝鮮は米国の戦争準備にしっかりと対応しています。7月28日のICBM試射はその好例です。

北朝鮮が発射した場所は中国国境沿いの慈江道・舞坪里(ムピョンリ)です。「先制攻撃してきたら、国境沿いから核ミサイルで反撃するぞ。中国への誤爆が怖くて、ここは攻撃できないだろう」と、米国を嘲笑したのです。

発射時刻も28日午後11時42分ごろと、珍しく深夜でした。米国が戦争を開始するのは、真っ暗な新月前後の夜がほとんどです。

湾岸戦争の「砂漠の嵐」作戦(1991年1月17日開始)も、イラク戦争の「イラクの自由作戦」(2003年3月20日開始)もそうでした。

北朝鮮は「米国は深夜に攻撃してくるだろうが、いつでもICBMで反撃できるぞ」と言いたかったのだと思われます。7月の新月は23日で、試射の28日はその少し後でしたが。

次の新月は8月22日

次の新月は?

8月22日です。その前日の8月21日から米韓は合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」を始めます。

「演習を始めると見せかけて兵を集めておき、一気に攻撃してくるのではないか」と北朝鮮は疑っていることでしょう。

「米国の先制攻撃」を牽制するため、6回目の核実験など新たな動きに出るかもしれません。

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