「韓国大統領」

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北朝鮮は、またも予想外のミサイル発射で国際社会を驚かせた。

7月28日深夜、北朝鮮は慈江道・舞坪里(ジャガンドウ・ムピョンリ)から弾道ミサイルを発射。ミサイルは高度3700kmに達し、47分間に水平距離で1000km飛行した後、日本の排他的経済水域内に落下した。

米国防総省は、このミサイルを通常の高度で打ち上げた場合、飛行距離は最大で5500kmを超える大陸間弾道ミサイルであると分析。今回のミサイル発射は「いつ、どこからでも発射できる」とする北朝鮮の主張を裏付ける形で、発射時間、発射場所ともに予測を覆すものであった。

北朝鮮に対する対話提案は、文大統領の“独り相撲”

これに先立つ7月6日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、「条件が整い、半島の緊張と睨み合いの局面を転換させる契機になれば、いつどこでも金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と会う用意がある」とし、21日に軍事当局者会談を、8月1日には南北赤十字会談を板門店で開催することを提案、「北朝鮮の存続を保証する代わりに、2020年までに北朝鮮の核兵器は廃絶される」と述べていた。

だが北朝鮮は、6日の首脳会談提案を「詭弁」だとし、その他の提案についても無視し続けていた。

そもそも、北朝鮮が文大統領の南北会談提案に応じてくるとは思えなった。確かに軍事当局者会談は、軍事境界線での敵対行為を互いに中止しようというものであり、軍事境界線での韓国側の宣伝放送に反発してきた北朝鮮側の意向に沿うものではある。

しかし、現在の南北関係は、やはり融和政策を進めた盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代とは全く異なる。北朝鮮はICBMを成功させ、「それでも米国は何もしてこない、次は核実験だ」と有頂天になっており、対話の相手は韓国でなく、米国だからだ。もし韓国が、「米韓合同軍事演習の中止を話し合う」というなら対話に乗ってくるかもしれないが、そうでなければとうてい無理な話なのだ。

文政権は、大統領府の幹部や閣僚に、盧政権時代に北朝鮮との対話を主導してきた人物を起用しており、「北朝鮮のことは自分たちが一番よく分かっている」と考えているのであろう。

しかし北朝鮮の核・ミサイル開発は格段に進歩しており、「来年中には大陸間弾道ミサイルを実戦配備するのではないか」と米国防総省が予想するところまで来ている。

加えて金正恩は、中国との連絡役を果たしていた伯父の張成澤(チャン・ソンテク)を殺害、韓国との橋渡しをしていた金養建(キム・ヤンゴン)も交通事故で不慮の死(暗殺の噂もある)を遂げるなど、交渉のパイプもなくなっている。

そうした北朝鮮が、盧政権時代とは違う対応をとるであろうことは容易に予測できたはずだ。文大統領は、国際情勢の現状を冷静に分析する必要があり、思い込みや期待だけで北朝鮮に接することが危険なのは誰の目にも明からだ。にもかかわらず、2020年までに北朝鮮の核兵器は廃絶される、とは何とも呑気な話なのである。

文大統領は左翼系の民族主義者で、進めようとする北朝鮮との融和政策について、筆者はダイヤモンド・オンラインでこれまで幾度となく論じてきたし、決して驚きではない。しかし、ここまで現実の地政学的な情勢を顧みることなく、北朝鮮に歩み寄ろうとする姿勢を見ていると、日米が北朝鮮に対して抱く危機感とはかけ離れたものであると言わざるを得ない。

圧力だけでは中国を動かすことはできない

北朝鮮の弾道ミサイルの発射を受け、文政権は29日早朝にTHAADの発射台の追加配備の協議など「圧力の強化」を打ち出した。また、大統領府関係者は「レッドラインの限界値に来たのではないか」と述べたようである。これにより、文政権の姿勢に変化が見られれば幸いだが、これまでの言動から見て、当面はおとなしくなるかもしれないが本質は容易に変わらないと思う。

これまで、北朝鮮の核開発問題に対しては日米韓が連携して対応してきた。しかし、韓国がその枠組みから抜け出しかねない姿勢を見ると、今後の対応に危惧を感じざるを得ない。

圧力だけでは中国を動かすことはできない

米国は、北朝鮮の核問題に対してあらゆる選択肢をテーブルに載せ検討、最近では中国に対し、北朝鮮への圧力を強化するよう促す戦略を取っている。

例えば、4月の米韓合同軍事演習の頃には空母を2隻体制にし、米韓首脳会談の最中にシリアの化学兵器使用への懲罰としてシャイラト空港をトマホークで攻撃、その後アフガニスタンでも大規模爆風爆弾を投下するなど、「北朝鮮への先制攻撃も辞さない」との姿勢を世界に示した。

しかしその後、空母の配備を縮小。マティス国防長官は5月19日の記者会見で、「軍事的に解決しようとすれば、信じ難い規模の悲惨な事態をもたらす」と述べ、軍事オプションを後退させた。

もちろん日本としても、米国の軍事オプションは北朝鮮の報復を招き、日本自身が甚大な被害を被る可能性があるので、是非とも避けてほしいとの考えだ。

そこで米国は、軍事オプションに代わるものとして、中国に対して北朝鮮への圧力を強化させる動きを強めてきた。それは米中首脳会談から見られたが、その後の北朝鮮の挑発を受け、北朝鮮と取引のある中国の銀行に、米国との取引を禁じる制裁を課すなど、中国へのプレッシャーを強めている。

だが、中国の当面の優先事項は、今秋の共産党大会でいかに習近平体制を強固なものにするかだ。

確かに中国にとっても、朝鮮半島が不安定化することは避けたいだろう。というのも、朝鮮半島が不安定化すれば、多くの難民が中国に流れ込んでくるかもしれないし、万が一、北朝鮮が崩壊すれば中朝国境まで米韓が迫ってきてしまうかもしれない。そうした米韓の影響力が拡大してしまう事態は望ましくない。中国が、韓国へのTHAADの配備問題に異常なまでにこだわる様子からも、それが見て取れる。

とはいえ、中国政府にとってはたいしたダメージはなく、いかにも力不足。ましてや肝心の韓国が、「北朝鮮への制裁は対話に引き出すため」と及び腰とあっては、米韓が影響力を増す心配も少ない。そうした中にあって、中国は米国の言うことを聞かないのである。

北朝鮮への圧力反対で中国とロシアが結束

一方で、習近平中国国家主席は7月3日にロシアを訪問し、ロシアのプーチン大統領と会談。両首脳は、朝鮮半島情勢について「各方面が、対話と交渉を通じて適切に朝鮮半島の核問題解決を推進しなければならない」ことで一致した。

北朝鮮に対しては、「自ら政治決断し、核実験とミサイル発射実験をしばらく停止することを求める」一方で、米韓も「大規模な合同軍事訓練の実施をしばらく停止」し、核問題に含まれるあらゆる問題を、交渉によって一括解決することを提案している。

これは中国にとって実に都合のいい状況だし、ロシアにとっても一定の影響力を及ぼすことができるとあって都合がいい。しかし、この提案で重要なことは、非核化が交渉の前提ではなく、中ロは「北朝鮮の非核化を実現できるとは思っていないのではないか」と考えられることである。

こうした状況に直面し、米国はどう対応するのか。北朝鮮との対話も視野に入れるのか、あるいは、あくまでも北朝鮮の非核化を追求していくのか。もちろん、北朝鮮が核や大陸間弾道ミサイルを開発することは、米国にとって受け入れられないはずである。しかし、政策が安定しないトランプ政権だけに、心配な面がないでもない。

そこで、日本の出番である。トランプ大統領が進める、北朝鮮非核化の対応を支援するのである。日本としては、あくまで軍事力を行使せずに非核化を求めていく必要があり、となれば中国を動かすために日本も力を尽くすしかない。

中国を動かすには、「北朝鮮の不安定化」「米韓の影響力増加」といった中国の不安材料を解消、ないしは和らげる必要がある。そのために最も重要なことは、米中が北朝鮮の将来像について、何らかの共通の見通しを持つことではないかと思う。

そのために日本は、柔軟な発想で北朝鮮の非核化に対応するべきだ。例えば、日米韓が連携して北朝鮮の将来像について話し合いを進めるよう促し、その中で指導力を発揮するというのも一つだ。

北朝鮮問題について主導権を発揮したい韓国は、こうしたことを歓迎しないであろう。だが、それが最善の道であることを粘り強く説いていくことが、今とり得る最善の道であるように思う。そして、日米韓の連携で作り上げた北朝鮮の将来像をもとに、米中が話し合いを進める道を開いていくことができれば、北朝鮮問題解決の展望も開けてくると考える。
 

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