「揺り戻し」

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≪「揺り戻し」が始まったのか≫
いま世界は、一体どちらへ向かおうとしているのか。昨年からの「揺り戻し」が始まったのか-。

この6月8日から9日にかけて、イギリスとアメリカから伝わってきたニュースは多くの人々に、このような疑問と戸惑いを与えたのではないか。

昨年、人々はイギリスの国民投票で「欧州連合(EU)離脱」が決まったニュースや、アメリカ大統領選挙での「トランプ氏勝利」の報に大いに驚き、「世界は混乱状態に陥るのではないか」との強い懸念にとらわれたものだ。

ところが6月8日のイギリスの総選挙では、EUからの強硬な離脱を推進してきたメイ首相の保守党が、予測を裏切り過半数を割り込むという惨敗を喫した。この1年で、英国民の「EU離脱」への態度に大きな変化が生じたのか。

最近の(ロンドン)タイムズ紙が報じた世論調査によると、「EUからの離脱は正しいと思うか、間違っていたと思うか」の問いに、44%対45%の結果で「離脱は間違い」の意見が上回った(6月23日付)。

イギリスは果たして「EUに戻る道」へと踏み出そうとしているのだろうか。いずれにせよ、一定の「揺り戻し」が始まっていることは確かだ。
トランプ政権は「死に体」化へ≫

しかし翌日(日本時間)のアメリカからのニュースにはもっと大きな衝撃があった。それは、トランプ大統領によって解任された米連邦捜査局(FBI)のコミー前長官が上院情報特別委員会の公聴会で証言し、いわゆる「ロシア疑惑(ゲート)」へのFBIによる捜査を理由にトランプ大統領によって解任されたことを明確に証言したからである。

さらに、ロシア側との不適切な接触をめぐって解任されたフリン前大統領補佐官に対する捜査中止をトランプ大統領に「指示」されたとも言明した。

これは大きなニュースである。確かにコミー氏の公開されている証言を聞く限り、トランプ大統領による司法妨害の決定的な裏付けとなるものはなかったかもしれない(ただし非公開の証言に注目する向きもある)。

しかし、コミー氏の前任のモラー元FBI長官が特別検察官となって進められる大統領周辺への捜査は来年の中間選挙を視野に入れたとき、トランプ政権の命運を脅かすものになってゆくことは間違いあるまい。

端的な言い方になるが、これでもしトランプ氏が4年の任期を全うすることができるなら、「アメリカ民主主義の信憑(しんぴょう)性が問われる」ということになるだろう。それほどトランプ氏の疑惑は限りなく深まりつつある。

トランプ政権を従来の米政権と同様、一定の堅実な基盤を有した普通の政権だろうと見なして、日本の安倍晋三首相やイギリスのメイ首相のように急接近を図ったり、「トランプ時代」への性急な期待感や、反対に行き過ぎた悲観論が交錯したものだが、こうなってくると話は変わってくる。

いずれにせよ、徐々に(あるいは急速に)レームダック(死に体)化してゆく可能性が高いアメリカの政権が世界の秩序と安定に及ぼす影響は、甚大なものとならざるを得ない。これを欧州で続いている右派政党や極右勢力の明らかな退潮と重ねて見たとき、世界の趨勢(すうせい)というものを考える上で大切な要点が見えてくる。

≪元に戻る「楽観論」は禁物だ≫

まず昨年末、オーストリアの大統領選挙では下馬評の高かった極右政党、自由党のホーファー氏が敗退した。次いで今年3月のオランダの総選挙では、反イスラムでEU離脱を掲げる右派ウィルダース氏の自由党も大差で敗れた。
4~5月のフランス大統領選では極右勢力「国民戦線」党首のルペン氏も大敗し、6月の仏議会選挙では「国民戦線」が惨敗を喫した。そして冒頭のイギリス総選挙の結果である。

それでは、これでEUの行方には元の楽観論が戻ってくるのか、欧州の移民問題や反イスラム感情は下火になってゆくのだろうか。答えは明らかに否であろう。

あるいは今後、追い詰められてゆくトランプ政権の外交はどうなるのか。

鳴り物入りで政権入りした「アメリカ・ファースト」派のフリン氏やバノン首席戦略官、対中強硬派で国家通商会議委員長だったナバロ氏らの凋落(ちょうらく)が進んでいるが、彼らに代わって台頭しているマクマスター大統領補佐官やマティス国防長官、ティラーソン国務長官ら従来の「国際主義」派による一極覇権志向の外交で、果たしてアメリカの国益は確保され覇権は維持されるのだろうか。

答えはここでも否!とならざるを得ない。それにはなぜ昨年、英国民が「EU離脱」を選び、欧州で反移民の極右勢力が大きな広がりを見せ、とりわけグローバリズムの旗手とされたヒラリー・クリントン氏が大統領選で敗れたのか、このことを「ロシアのハッキング」などという次元を超えて、より深く考える必要があるのである。その答えは「脱グローバリゼーション」そして「世界の多極化」ということ以外にはない。

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