「ニセニュース」

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元CIA・情報のプロがついにトランプの「フェイク政策」を見破った
「サウジに武器は売られてません」

あの有名研究所が指摘

いまや日本でもすっかり定着し、今年の流行語になってもおかしくない「フェイクニュース」という言葉。

最近でもサウジアラビアなど中東アラブ諸国がカタールと断交したことが大きなニュースになったが、カタール政府は、同国の国営通信社が何者かにハッキングされ、サウジなどを挑発するような「フェイクニュース」が知らぬ間に配信された、と主張したとして話題になった。

「偽のニュース」という意味のフェイクニュースは、敵を貶めたり、世論を操作する手段として、古代から存在していた。だが、ここにきて再びスポットライトが当たるようになったのは、2016年の米大統領選で、ドナルド・トランプ候補が有利になるような偽情報やニュースがインターネットやSNSなどで大量に発信されたからだ。

トランプは大統領に就任してからも、「大手メディアはフェイクニュースを流している」と連呼し続けており、フェイクニュースという言葉を世に広めたのは、紛れもなくトランプの”功績”だと言えよう。

だが、そんなトランプ自身がいま、重大で看過できない「フェイクニュース」を発しているという。6月5日、米国の有力シンクタンクのブルッキングス研究所が、公式サイトで提供しているニュース欄に、「サウジアラビアへの1100億ドルの兵器売却合意はフェイクニュースである」という衝撃的な記事を掲載したのだ。

一体どういうことなのか。

まず簡単に、米国とサウジアラビアの兵器売却合意について説明したい。去る5月20日、トランプ大統領は就任後初となる外遊先にサウジを選び、2日間の日程で同国を訪問、サルマン国王と会談し、イスラム世界に融和的なスピーチを行ってみせた。

そしてトランプ政権は、サウジに1100億ドル(約12兆円)の兵器売却で合意したと大々的に発表したのだ。

米ワシントンポスト紙は5月20日、この件についてこう報じている。

「サウジ訪問中のトランプ大統領は20日、世界舞台で派手なデビューを飾った。米国による1100億ドルの兵器売却と、その他の新規投資を含む『戦略的ビジョン』に共に署名をし、米サウジ関係の新しい時代の到来を告げたのである」

また米ニューヨーク・タイムズ紙も同日の記事でこう書いている。

「トランプ氏は1100億ドルに近い兵器売却を発表した。これは米国が中東湾岸地域の安全保障について改めて深い関与を示すものである。この売却される武器には、サウジがイエメン国内で市民を殺害するのに使われる懸念から、オバマ前大統領が売却を保留していた精密誘導兵器も含まれている」

このニュースは米国のみならず、日本でも大きく扱われた。5月21日付の日本経済新聞は、「米、サウジに兵器売却12兆円合意」とのタイトルで、「トランプ米大統領は20日、就任後初の外国訪問で最初の訪問国サウジアラビアに到着し、サルマン国王と会談した。米は1100億ドル(約12兆円)規模の兵器売却でサウジと合意し、両首脳が覚書に調印した」と報じている。

ビジネスの才覚を大統領になっても発揮させたとして、世界の注目を集めたこのニュース。これが、米政権が喧伝した「フェイクニュース」だったと、ブルッキングス研究所が指摘したのである。

そんな合意などなかった

どこにも証拠がない

同研究所のホームページに上げられたこの記事を執筆したのは、同研究所で上級研究員を務めるブルース・リーデル氏。中東情勢やテロ組織などの取材をする筆者のようなジャーナリストにとって、リーデル氏はあまりにも有名な人物である。

2006年に30年勤めたCIA(米中央情報局)を引退したリーデル氏は、NSC(米国家安全保障会議)の上級顧問として過去4人の大統領と仕事をしてきた。著書も数多く、ハーバード大学やジョンズ・ホプキンズ大学、ブラウン大学などで教鞭も執る。

彼は記事の中で、トランプ大統領がサウジを訪問して1100億ドルの武器売買を発表したが、「問題は、合意などなかったことである。フェイクニュースなのだ」と指摘したのだ。

一体どういうことなのか。リーデル氏はこう続ける。

「私は軍需産業関係者や連邦議会にいる知り合いたちに話を聞いたのだが、全員が口を揃えてこう言ったのである。1100億ドルという合意など存在しない、と」

「(サウジ側が)購入の意向や興味を表明する書類は数多くあるが、それだけだ、という。契約書などは存在しない。それらの書類は、軍需産業から見ると、サウジ側がいつか興味をもつだろう武器を提供しますよ、という提案に過ぎないのである」

売却提案の対象となったのは、例えば多目的水上戦闘艦艇や、韓国にも配備された高高度迎撃ミサイルシステムのTHAADだ。
ただ、どちらも2015年の段階ですでにサウジ側に提案されているもので、その時も売却は実現していない。また多目的軍用ヘリのブラックホークも150機が売却希望リストにあるが、これも以前から検討が続いている話だ。

端的に言うと、今回米政府は、今後4、5年でサウジに売却したい兵器を提案しただけに過ぎないのだ。また、今後売却するかもしれない兵器についても目新しい提案などが見当たらないばかりか、オバマ政権時代の提案などをひとまとめにすることで、あたかも華々しく売却合意がなされたかのように発表しただけなのである。

リーデルは繰り返す。
「これはフェイクニュースである」

「フェイク政権」か?
サウジはなぜ黙っているのか…

そもそも、原油価格の下落で自国経済がひどい状況にあるサウジは、オバマ政権時に購入契約をした兵器の支払いもできていないのだ。また国内でも公共事業などへの支払いが滞る始末で、景気回復策としてサウジ在住の外国人労働者を狙い撃ちに課税をし、なんとか税収を増やそうとしている。

外遊時には大勢を引き連れて贅沢三昧、というイメージのサウジ政府だが、実情はいつまでも贅沢をしていられる場合ではないのだ。そんな状況にありながら、ぽんと気前よく武器購入に1100億ドルを払う、というのは考えにくいのである。

では、なぜこんな「フェイク」がまかり通るのか。サウジ側にすれば、米国製の武器を大量に購入することに合意したと発表するのは、周辺国やライバルのイランへの牽制になる。

またロシアゲートなどで政権がぐらつき続けるトランプにとっても、武器売却契約でアメリカが潤い、それによって雇用が生まれる、と外交成果を主張できるのは願ってもないことなのである。つまり両者にとって、大風呂敷を広げることはウィンウィンなのだ。

ただ、時の権力者がなかったことを「あった」かのように喧伝しているとなると、それは「フェイクニュース」という軽い言葉では済まされない問題だ。「フェイク政権」と呼ばれても仕方がないだろう。不動産取引の交渉ならそんなハッタリは通用するかもしれないが、国際情勢はそんな単純なものではない。

とんでもない嘘を吐き続けているトランプ大統領。米国民が相手ならどれだけ騙してもいいのかもしれないが、嘘の蓄積は確実に米国という大国の評判と信用を今以上に貶めることになる。

「フェイク政権」が率いる米国を誰も信じなくなる日は、そう遠くないのかもしれない。

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