「国民のイライラが大爆発。」

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いま中国で急増する「路怒症」とは?

数年前から中国でよく使われるようになった「路怒症」という言葉をご存知でしょうか。今や自動車大国となった中国でよく見かける「道路でキレる人」のことを指す単語ですが、無料メルマガ『石平(せきへい)のチャイナウォッチ』の著者で中国事情に詳しい石平さんは、「国民の政治に対する積もり積もった不満がこのようなかたちで表れているのでは」と推察しています。

家まで行って人を刺す 注目を集める中国人の「路怒症」

中国では今、車の数が急速に増えている。先日、当局が発表した数字によると、全国で保有される自動車の台数は3億台を超え、世界有数の車大国になっている。

それに従って、大気汚染や交通渋滞など、車社会ならではの諸問題が起きており、最近では「路怒症」と称される問題が注目を集めている。

「路怒症」とは文字通り、「道路で怒り出す症候群」という意味である。あおり運転などでトラブルが起きると、どちらかのドライバー、あるいは両方がキレて相手との衝突を起こす。中国の場合、そのキレ方も衝突の激しさも並々ならぬものがある。

ナイフで刺す、バットで殴り殺す…「路怒症」事件簿

例えば今年4月5日、江蘇省昆山市の道路で傷害事件が起きた。その経緯はこうである。2人の男が乗用車で鉄道の駅へ急ぐ途中、渋滞の中で前方に1台のトラックが横から割り込んできた。それに怒った乗用車のドライバーが信号で停止中に車から飛び出しトラック運転手と口論の末、用意していたナイフで相手を刺した。幸い、致命傷にはならなかったが、この程度のことで人を刺すとはまさに驚きの出来事である。

「路怒症」で人を殺してしまうケースもある。昨年3月5日、甘粛省蘭州市の道路で、前方を走る乗用車のドライバー(Aとする)が携帯で話しながら運転していたため速度を落としたところ、後方の乗用車のドライバー(Bとする)が何度もクラクションを鳴らし、「速く走れ」と促した。

そして、前方の車を追い越したとき、Aに罵声を浴びせたのである。
それに怒ったAは必死になってBの車を追跡した。そしてBの家の車庫まで追いかけて激しい口論となった。怒りが収まらないAは持ってきたナイフでとうとう相手を刺したが、刃を受けて死亡したのは、たまたま、この場に居合わせたBの近所の男であったという。

あるいは昨年6月8日、山東省青島市の道路で、ある男が運転する車が別の車と軽くぶつかってかすり傷を負った。男は相手のドライバーと激しい口論になり、頭に血が上った上、車から野球のバットを取り出し殴りかかった。しかし、そこで殴り殺されたのは何と、2人の中に割って入り、けんかを止めようとした別の男だった。

「路怒症」は、国民の不満の表れ?

道路上の些細(ささい)なトラブルでそこまで正気を失うのは極端な例ではある。だが、中国全土の道路で、毎日のように「路怒症」が起きていることも事実だ。

昨年9月、中国公安部交通管理局が発表したデータによると、2015年1年間で全国の道路などで「路怒症」によって引き起こされた「違法事件」は1,733万件にも上ったという。単純に計算すれば同年に中国国民が「路怒症」で犯した違法事件は1日平均にして4万7,400件以上もあるということだ。

「路怒症」事件はなぜそれほど頻繁に起きるのか。車の多さによる道路の混雑も理由の一つではある。だが、最大の理由はやはり、今の中国で一般国民が抱える不平不満が高まり、車のドライバーたちがキレやすくなったことにあるだろう。

実際、今年3月に開かれた全国人民代表大会(全人代)で、李克強首相は政府活動報告の中で「大衆が激しい不満を示している問題」の深刻さを自ら認めた。

「路怒症」事件の多発もこうした「激しい不満」の表れの一つであろうが、中国政府の心配はむしろ、大衆の不満が何らかの政治問題に向かって集中的に爆発してしまうことだ。

そうなったとき、あるいはそうなる前に、中国政府は何らかの対外紛争を起こし国民の目を外にそらすという「必殺の剣」を抜くこともあるから、「中国問題」にはなおさら注意が必要だ。

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