「素人同然」

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「金融のプロ」であるはずの銀行が有価証券の運用で“大やけど”を負った。5月に出そろった銀行業界の2017年3月期通期決算は、そのことをあらためて浮き彫りにした。

中でも損失額が大きかったのが静岡銀行だ。米国債などの債券を損切りし、売却損は370億円余りにものぼった。他にも多くの銀行で外国債券を中心に含み損が発生。この事態を受けて、銀行の監督官庁である金融庁は、銀行の有価証券運用に対する監視体制を強化し、一部の銀行については立ち入り検査も実施した。

ただ、金融庁は巨額の債券売却損を計上した静岡銀行のことは「気に留めていない。それよりも他に問題視している銀行がある」(大手銀行幹部)という。

金融庁は、銀行に対する監視や検査に基づく調査結果から、有価証券運用における“素人”銀行の特徴を分析。そして、次の3パターンに分類した。

一つ目は、銀行が有価証券の損切りから目を背けているケース。保有債券の含み損が拡大しているにもかかわらず、その穴埋めの目処が立てられないがために「臭いものにふた」をしている事例だ。

他にも、株価の値上がり、または値下がりで利益が出るファンドを両方購入し、利益が出たほうだけを売却して業績をかさ上げする一方、含み損が発生しているファンドの損失確定は先送りにしている銀行の事例もあったという。

逆風だった「トランプ相場」

二つ目は、有価証券の利息収入を重視するあまり、将来の金利上昇リスクには目をつぶって、相対的に金利が高い米国債や超長期の国内債券への投資を拡大している銀行だ。

債券価格は金利と逆に動くため、金利が上昇すれば債券価格は下落する。

直近の銀行決算でも、このかたちで多くの銀行で債券の含み損が発生している。また、金利が上昇して資金の調達コストが高まり、超長期債券の利息収入を上回った場合は逆ざやが発生する。目先の収益に目がくらんで、こうした金利上昇リスクをないがしろにしている銀行の事例だ。

三つ目は、銀行の運用体制がお粗末なケース。非常に少人数の運用チームで、多数かつ巨額の有価証券運用を手掛けている上に、投資リスクを理解できない有価証券にまで手を出してしまっている銀行があった。

中には「ベテラン投資担当者の属人的な一種の勘によって、巨額の運用を行っている銀行もあった」(金融庁幹部)という。

逆風だった「トランプ相場」

こうした運用“素人”銀行が大量発生した背景には、銀行の本業不振がある。マイナス金利政策などによる超低金利環境によって、本業である融資業務において利ざやが縮小。収益性が悪化の一途をたどっているのだ。

その穴埋めを目論んで、銀行業界はこぞって米国債などの有価証券運用を拡大したのだが、「トランプラリー」と呼ばれる米大統領選挙後の株高相場で世間が沸き立っていた裏側で、金利が急騰。その結果、前述の通り債券価格が急落し、多くの銀行が多額の含み損を抱えるはめに陥ってしまった。まさに泣きっ面に蜂だ。

そうした状況に拍車をかけたのが、有価証券運用に対する銀行経営陣の無理解だ。

一昔前までは本業の融資業務が健在で、“小遣い稼ぎ”程度の収益が挙げられれば御の字だった有価証券運用。そのため、十分な経営資源が割かれてきたとは言い難い。

ある金融庁幹部は、「銀行業界において、運用畑出身の頭取なんて聞いた記憶がない。そのことが象徴するように、今までどれだけの銀行が経営戦略において有価証券運用を真剣に扱ってきたのか」と、問題点を指摘する。

証券会社や外資系金融機関の“かも”となり、どんなものかもよく分からない金融商品に飛び付いた挙句、リーマンショックで“大やけど”を負った日本の銀行業界。あの時の教訓は生かされないまま、10年弱の年月がただ過ぎたようだ。

そして、今回の教訓も生かされるかどうかは分からない。別の金融庁幹部は「融資業務の収益が低下する中で、有価証券運用への依存をさらに高めようとしている銀行も見受けられる」と、警戒感を強めている。

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