「熱狂」

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ポピュリズムの主張が既成政党の主流となっている

オランダに続きフランスでもポピュリズム政党の政権獲得は実現しませんでした。

表向きは、ポピュリズムの「熱狂」は勢いを失ったようにも見えるかもしれないが、政党政治に焦点をあてると、まったく逆の姿が見える。

フランス大統領選では、従来の二大政党である共和党と社会党の得票率が、合わせても2割強しかなかった。二大政党の候補が決選投票に残れなかったのは初めてだ。オランダでも、右派ポピュリズム政党の自由党は第1党にはなれなかったものの、議席を伸ばし第2党になった。与党も自由民主人民党が第1党を維持したのは、自由党の台頭に危機感を抱き、ルッテ首相自らが選挙戦で激しい移民批判を展開したからだ。

それまで、移民批判は人種差別につながるというので、既成政党には忌避されてきた。その意味では、排外的ポピュリズムの主張が既成政党に影響を与え、「主流化」したともいえる。

先進国の中流層が受けたグローバル化の負の影響

英国や米国では二大政党制は維持されているが、支持基盤などはかなり変わっている。例えば、民主党支持者が多かった旧工業地域の白人労働者がトランプ大統領を支持するなど、政党と有権者の関係は流動化し、選挙に影響力をもっているのは無党派層だ。

英米では政党が多様な民意を巧みに汲み上げるところがあるが、「Brexit」で親EU派と離脱派が入り乱れ、党としての方針をまとめきれなかった英国の保守党に象徴されるように、既成政党の力の衰退が目立っている。

先進国の中流層が受けたグローバル化の負の影響

ポピュリズム台頭の背景をどう考えますか。

2000年代以降、EU統合やグローバリゼーションが加速したが、先進国のいわゆる中流層はグローバル化や技術革新の負の影響を大きく受けた。

企業が途上国に生産をシフトしたために賃金が伸びなかったり、雇用自体が縮小したりしたために、繁栄や成長から「置き去りにされた」と感じる層が出現した。グローバル化にうまく乗った企業や地域と、そうでない層との格差拡大や移民の流入が増えた。

だが、こうした状況に既成政党は十分な対応策をとれなかったため、既成政党と支持層との関係に亀裂が生まれた。国民国家の枠組みで、雇用を維持したり社会保障を実現したりすることが難しくなり、逆に年金の切りつめや失業手当などが削減されて、支持層の反発と離反を招いた。

既存の政党や団体は、個々人の忠誠心の対象ではなくなっているばかりか、むしろ不信感を抱かれる存在となっている。それに代わる形で、ポピュリズム政党が不満を吸い上げる受け皿になった。その意味では、ポピュリズムはもはや現代の先進国にビルトインされた観がある。

極右だけでなく、左派のなかでもポピュリズム政党が出ています。

ポピュリズム台頭の第一期は1990年代だが、この時期は既成政党や既得権益層への反発という形で、規制緩和などを求める新自由主義的な思想と共振しながら広がった。この時期はまだ欧州でも反EUなどの動きはなかった。

ところが、リーマンショック以降の第二期になると、グローバル化やEU統合の下での格差拡大への不満が前面に出て、それに移民批判が加わった。
中間層では移民に自分の雇用を奪われることはなくても、安全な生活環境を脅かされたり、流入した移民の生活を自分たちの負担で支えたりすることへの不満から、移民を排斥する「排外主義」が前面に出てきた。

当初は、民族主義的な極右政党が中心だったが、オランダ自由党のように、イスラムの政教一致や女性差別などを批判して、「イスラムとの戦い」を掲げる政党などが出てきた。政教分離や男女平等を訴え、返す刀で、「近代的な価値を受け入れない」移民やイスラム教徒を批判する。リベラルな価値を突き詰めることで移民排除を訴えるという論法だ。

歴史的に見ると不平等を背景に台頭

こうした主張は、右翼に賛同できなくても、移民問題に関心を持つ有権者にアピールした。デンマークやオランダでは、閣外協力などの形で政権に手を貸し、移民や難民対策が厳格化されるなど、強い影響力を持つようになっている。いわば、民主主義の改革勢力としての「衣」をまとうようになってきたといえる。

既成政党がその主張を取り入れたり、連立や閣外協力でポピュリズム政党を「包摂」したりすることで、政治に変化をもたらすという意味では良い面もある。だが排外主義は、民主主義を後退させ、また不健全なナショナリズムを醸成してしまう危うさがある。

ポピュリズムの主張が共感されるのは、それなりの理由があるのではないでしょうか。

歴史をたどると、ポピュリズムが政治現象として生まれたのは19世紀末、米国の人民党(People's Party)が既存の政治、とりわけエリート支配を批判する運動を始めたのが最初だ。

南北戦争の後、資本主義経済が発展する過程で、スタンダード石油やカーネギー鉄鋼会社などの巨大企業が出現、独占的な地位を得たが、一方で、都市労働者は長時間労働を強いられ、労働運動は弾圧され、そうでない層との格差拡大や移民の流入が増えた。

こうした状況に二大政党は冷淡で、独占的な企業支配と結びついた金権政治、政治腐敗が横行した。米国社会の中核だった勤労者層がないがしろにされているという意識が高まっていた時に、人民党が労働者や農民の不満を吸い上げた。累進課税や、企業による農地所有の制限、労働規制の強化といった、当時としては急進的な政策を掲げて支持を得たのだ。

その後、ポピュリズム運動はラテンアメリカで一気に躍進する。外資による経済支配、それと結びついた鉱山主、大地主らの寡頭支配に対抗し、中間層や労働者、農民の支持を得た。特権層による搾取の体制からの「解放」の運動として拡大し、各国で政権を担うまでになったわけだ。

ポピュリズム台頭の背景には社会経済上の圧倒的な不平等があった。その意味でも、現代の世界でポピュリズムが高まるのは、ごく自然なことだといえる。

地方や非正規の不満が溜まれば、日本でも起こり得る

日本の現状をどう見ますか。

「大阪維新」は、代表だった橋下徹氏が、公務員や労働組合を既得権益層として攻撃したり、「大阪都構想」を直接、住民投票で決めようとしたりするなど、ポピュリズム的な手法で勢力を伸ばした。今の東京で起きている「小池ブーム」も同じで、都議会などを牛耳ってきた既得権益層を批判し、既成政党に不信感を持つ層の支持を得ている。

欧州の場合、第一期から10年ほど経過した後、第二期のポピュリズムが起きている。日本でも、すでに“温床”となる格差は、米国ほど極端ではないにしても拡大しているし、東京などの大都市と過疎化が進む地方の二極化が進み、「取り残された」と感じている層が増えている。

単に所得の格差だけではなく、片や東京のように世界中から企業や働き手が集まって国際化、多民族化が進み、英語でビジネスをしてライフスタイルも自由でという社会と、過疎化、高齢化が進む地方との質的な落差も大きくなっている。かつて大都市は、地方から流入した工業労働者の集まる場所だったから、地方との本質的な差は少なかった。だが、今はいわばエリート層と「置き去りにされた層」との文化的格差がある。

また働く現場でも、低賃金で昇進や昇格もない非正規社員が約4割に上っている。同じ職場で働いていても、正社員と比べて、非正規社員は将来への展望が限られ、会社との距離感や疎外感は、正社員とは違ったものだ。

こうした地方や非正規の不満、政治不信を結びつけるような形で、オランダ自由党のウィルデスのようなカリスマ性を持った指導者が日本にも出てきたら、日本も今の欧米のようなポピュリズムが高まる恐れがある。

安倍政権はそのあたりを薄々感じているのだろう。「働き方改革」を進め、「同一労働同一賃金」に取り組んでいるのは、非正規層の不満を意識したものだ。

また、アベノミクス自体も当面の間は、誰も痛みを伴わない国債増発による財政出動と超金融緩和だ。ポピュリズムを「人気取り的政治」と呼ぶ人もいるが、そのような意味でポピュリズムを理解するなら、消費増税を2回も先送りしているし、安倍氏もポピュリストなのかもしれない。

しかし、高齢化が進み、社会保障が今以上に充実を求められたり、再分配政策をきちんとせざるを得なくなったりすれば、財政ばらまき型の政治手法はもたなくなる。

日本が欧米と違うのは、移民問題がそれほど意識されていないことだ。非正規社員が安い労働力として、事実上の移民の代わりをしている面もある。

だが、介護現場などでの人手不足を考えると、外国人労働者の受け入れは今後、進むだろう。問題は、不況期に職を失った外国人が、社会保障に依存しているという状況がことさらに強調された時に、日本社会でどういった反応が起きるかだ。

格差が放置され、多くの人の所得が伸び悩んで社会が余裕を失いつつある状況では、「反外国人」「反移民」が人々を政治的にまとめあげる主張として力を持つ可能性は今後、十分にあるのではないか。

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