「ロシア疑惑」

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深刻化するベネズエラの経済危機に乗じて、ロシア国営石油会社のロスネフチが、ベネズエラ国営石油会社PDVSAの米国子会社シットゴー・ペトロリアムの経営権を事実上掌握したとの情報が波紋を呼んでいる。

シットゴーは全米30州で展開する米国の石油会社である。ロスネフチは株式取得を通じて米国エネルギー市場への参入を目論んでいるとされる。

米議会は早くも「エネルギー安全保障上の脅威である」と反発し、超党派の国会議員が米金融当局に実態調査を要請。一方、トランプ米大統領がシットゴーから多額の寄付を受けていた事実が判明した。

オクラホマ州を本拠とするシットゴーは1910年に設立された「シティーズ・サービス・カンパニー」を母体とする。テキサス、ルイジアナ、イリノイ各州で3つの製油所を運営する。

パイプラインもいくつか保有する。さらに、全米30州の約6,000カ所でガソリン・スタンドを展開し、潤滑油、ジェット燃料、アスファルトなどの石油製品も販売する。反米だったチャベス政権ができる前の1990年までにベネズエラ国営のPDVSAに買収され、100%子会社になっていた。 

シットゴーの燃料提供サービスで約170万人の米国民が恩恵を受けるとされる。同社はこれまで、米国政府の貧困層への対応を批判する目的で、低所得者層に割安な燃料を提供してきたことでも知られる。2014年半ば以降の原油安を受け、苦境に陥ったベネズエラは自国経済の立て直しの一環としてシットゴーの身売りに踏み切らざるを得なくなった。ただ、買い手がなかなか見つからなかった。

シットゴー売却で動きがみられたのが昨年10月だった。PDVSAは債務不履行(デフォルト)を回避するため、返済が満期を迎える借入金72億ドルのうち、28億ドルを持つ債権者を対象にシットゴーの株式50.1%を担保に34億ドルを調達し、これを28億ドルの債務返済に充てたとされる。

これに加え、PDVSAは昨年12月末、シットゴー株式49.9%を担保にロスネフチから15億ドルの融資を受けたという。28億ドルの債権者にロスネフチが含まれている場合、ロスネフチがシットゴー株式の過半数を事実上取得している可能性が十分にある。仮にベネズエラがデフォルトに陥った場合、シットゴーは間接的にロシア企業の所有となる。

ロスネフチのセチン社長はプーチン大統領の側近中の側近だ。シットゴー案件はプーチン大統領の意向を反映したものと受け止められている。米国がエネルギー安全保障上の理由から買収阻止に出るのは必至だ。実際、数年前に中国企業が米国内のエネルギー会社に買収をしかけ、米政府に阻止されている。

民主党のメネンデス上院議員(ニュージャージー州選出)や共和党のルビオ上院議員(フロリダ州選出)ら超党派議員は連名で、外国投資委員会(CFIUS)の議長を務めるムニューチン財務長官宛てに実態調査を要請する書簡(bipartisan letter)を4月10日付で提出した。

不可解なのは、トランプ大統領がこの件で沈黙を守っていることだ。実は、PDVSAがシットゴーを通じてトランプ米大統領に50万ドルの寄付していた事実が発覚している。大統領は旗幟鮮明な態度を取りづらいのではないかとの憶測を呼んでいる。

米CNNテレビ(国際電子版)などの報道によると、寄付は昨年12月、米大統領の就任式委員会に対して行われ、50万ドルはペプシ、ベライゾン、ウォルマートの3社を合わせた寄付金に相当するという。米連邦選挙管理委員会が4月19日に公開した記録から明らかとなった。

ロシアは、1990年代後半にベネズエラで誕生した反米左派のチャベス政権時代から多額の支援を行ってきた。2013年3月、カリスマ的存在だったチャベス氏が死去した後、マドゥロ現大統領が前政権の政策路線を継承してきたが、2014年半ば以降の原油安局面で財政破綻や治安悪化、社会不安の増幅など国民からの信頼は完全に失墜した。

2015年末に実施された議会選挙では与党が敗北を喫し、マドゥロ大統領は窮地に追い込まれるともに、国内各地では現在、大統領退陣を求めるデモが連日繰り返されている。エコノミストの間では、次回の返済を迎える今秋にもベネズエラはデフォルトに陥る可能性が高いとの見方が根強い。

トランプ大統領がこのほど、コミー連邦捜査局(FBI)長官を解任したことをめぐり、昨年の米大統領選でのトランプ陣営とロシアとの疑惑があらためて物議を醸している。形勢不利のトランプ大統領は、シットゴー案件という新たな火種を抱えることになりそうだ。

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