「水を守れ!」

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持続可能な水利用に向けて世界が求める技術・システムとは
 
古代ギリシャ哲学では、水をアルケー「万物の母」と呼ぶものもいた。我々は皆、母の胎内で水に包まれている。キリスト教の洗礼による再生という概念もそこから生まれたのだろうか。古代インドの聖典「リグ・ヴェーダ」でも、体と心を清め、活力の源である水を讃えている。

一方で、だからこそか、古今東西で水をめぐる争いは絶えない。ライバル(rival)の語源が小川を意味するラテン語というのも、なるほどである。

中世日本では興福寺と石清水八幡宮の間で起きたように、用水をめぐって朝廷や幕府も巻き込む争いが頻繁にあった。世界では今も各地で続いている紛争の大きな要因の一つである水。

人口増加で水問題はますます深刻化するだろう。水に恵まれ、国際河川を持たない島国日本も決して無関係ではない。食物の生産に必要な水も含めれば、世界最大の農産物輸入国である日本の水「輸入」は世界最大とも言える。

世界の水問題を考察し、日本の水技術が役立つ可能性を探ってみよう。
世界の人々の安心安全な暮らしと経済を支える水

世界で6歳に満たないうちに亡くなる約590万人の子どもの6割がアフリカとアジアのわずか10カ国に集中しているという衝撃的な事実が、昨年11月、英医学専門誌「ランセット」に掲載された研究論文によって明らかになった。

(2) アフリカのアンゴラ、コンゴ民主共和国、エチオピア、ナイジェリア、タンザニアと、アジアのバングラデシュ、インドネシア、インド、パキスタン、そして中国である。

国連は「持続可能な開発目標(SDGs)」の中で、2030年までにすべての国で5歳未満児の死亡率を1000人あたり25人以下にすることを掲げている。先述の研究チームでは、目標達成のために投資を加速すべき取り組みとして、母乳育児推進やワクチンの提供、公衆衛生などとともに、「水質の改善」を提言している。

昨年8月には、中央アフリカでコレラが流行し、国連児童基金(ユニセフ)によると少なくとも16人が死亡した。

(3) コレラはコレラ菌に汚染された水を飲むことで感染する。幼い子ども、特に5歳以下の子どもは感染しやすい。今回の流行は同国のウバンギ川流域、首都バンギから100キロ上流で発生し、拡がった。ユニセフ声明によれば、この地域に住む人々は、浄化された水へのアクセスがほとんどなく、ウバンギ川を主な水源として利用している。また、コレラに感染した人々が混雑した船でウバンギ川を移動したことによっても、コレラ菌が下流に運ばれた。

インドでは昨年6月、大干ばつによる飲料水危機に直面した。

(4) 北部では水が豊富な農村もあるが、そこでは貴金属による汚水が懸念され、子どもたちは腹痛や肌の問題を訴えている。干ばつ地域の慢性的な水不足、河川や湖、地下水の汚染など、水問題は人口世界第2位のインドにとって重大な課題である。

汚染が深刻なガンジス川の浄化に政府は数10億ドルを投じ、下水や産業廃棄物の水路への流入を阻止する取り組みも進んでいるが、長期にわたって地下水の管理が行き届いていなかった地域では、こうした取り組みも追いつかない。また、排水管理を改善しなければ、モンスーンの豪雨も単に洪水を引き起こすだけで、水不足の解決には繋がらないと指摘する専門家もいる。

水協調で貧困撲滅と世界平和を目指そう
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水問題は世界平和とも密接な関わりがある。
地球は表面積の7割を水で覆われている。にもかかわらず、アクセス可能な飲料水は1%に満たず、7億5000万人もが安全な飲み水にアクセスできない状態にいる。

そのため、水源の確保をめぐって世界各地で紛争が絶えない。たとえば中央アジアでは、国土の大部分を砂漠が占めるカザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンと、この地域の水源の8割を支配するタジキスタン、キルギスとの間で、しばしば紛争が起きる。大半が砂漠地帯の中東でも、水の配分は大問題である。

イスラエル最大の淡水湖であるガリラヤ湖の水は主としてヨルダン川によって得られているが、上流の三つの水源はイスラエル、レバノン、シリアの国境に位置する。1960年代半ば以降、水はシリア・イスラエル間の紛争の種であり、第三次中東戦争(六日戦争)に至った緊張関係の重要な一因であった。

1967年6月、地域の水供給の6割を担うゴラン高原、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区をイスラエルが掌握した。チグリス川、ユーフラテス川もまた羨望の的である。源流はトルコ南東部にあり、シリア、イラクへと流れる。三国間で水資源の配分がたびたび問題になる。

食糧の6割を海外の土地・水・労働資源に依存している我が国にとって、海外の水事情は存亡に関わる重大事である。世界の貧困を終わらせ平和を達成するための鍵と言える水協調。日本の技術で貢献する道はあるだろうか。

ICTで水資源の有効活用

AFP / VALERY HACHE(6)
数年前、水インフラ技術を日本の新たな産業の柱として海外展開する動きが期待を集めた。まず水インフラには、どのような技術があるだろうか。

川や湖からの採水と浄水の技術。あるいは海水を真水に変える海水淡水化技術。それらの水を家庭や工場などに送る給水の技術。水の使用量を測って料金を計算、徴収する技術。そして汚水を集めて、ある程度きれいにし、再び川などに戻す下水処理の技術。

日本企業は海水淡水化や排水・下水再利用などで優れた技術を持ち、省エネや環境配慮の面でも定評あるものの、世界の水ビジネス界では、フランスをはじめとする欧州勢、アメリカ、アジアでもシンガポールや韓国など競争が激しく、総合的にはもう一歩である。

そんな中で、昨年11月にバンコクで開かれた「持続可能な開発目標(SDGs)達成計画策定のための統合アプローチ推進にかかる地域セミナー」ではSDGs目標6(水と衛生)を達成するための総合的水資源管理の取り組みについて議論や情報交換が行われ、日本からは名古屋市での取り組みの紹介を通じて具体的な施策の提案を行った。日本は水道の民営化が遅れる一方で、自治体の運営管理ノウハウは世界トップレベル。今後の鍵は企業の技術力および資本力と自治体との連携にある。

もう一つの鍵と言えるのはAIをはじめとするICTだろうか。AIが可能にするデータの見える化、予測分析、制御誘導などの技術分野を、浄水や配水の制御システムに応用し、気象その他の様々なデータを組み合わせて水需要を予測、配水計画をリアルタイムで自動生成、常に最適な水供給を制御し続ける。世界が待望する水資源の安定供給に日本企業が貢献できる方向性として、今後も注目したい。

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