「ムダ三昧の東京五輪」

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ムダ三昧の東京五輪、天下りが集う「虎ノ門」の最も罪深きヤツら

お見積もりさせていただいた費用ですが、こちら現在、4倍になっております──。

たとえば家の建築費用の見積もりで、そんなことを業者に言われたら、どうか。机を蹴飛ばすか、呆れて笑うか。いずれにしても、普通なら契約は破棄だろう。数%の上昇ならまだしも、4倍は商慣習としてありえない。だが、そんなありえないことがまかり通ってきたのが、2020年東京五輪での開催費用の問題だ。

2013年1月の招致時は7340億円。それが2014年10月には「1兆円」(森喜朗組織委員会会長)、2015年7月に「2兆円」(同)、同年10月に「3兆円」(舛添要一前東京都知事)と、開催費用の見立てはみるみる膨張していった。

そして、この9月末、小池百合子知事が就任後、独自に設定した都政改革本部で詳細に調査したところ、やはり「3兆円を超える」おそれがあることが判明した。当初予定額の4倍以上。そこから、また各種競技場施設の建設を含む、東京五輪の開催費用問題が沸騰した。

2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗元首相

ワイドショーの関心は、絵的にもわかりやすい「海の森水上競技場」の移転か否かに焦点があてられているが、本質的な問題はなぜこんなことになったのかということだ。この問題、要点を絞ると、およそ3つの要因が浮かび上がる。

まず最初が、「トップ不在」という組織構造の問題だ。筆者が都政改革本部の上山信一特別顧問に取材した際、上山氏が指摘していたのが、決定権者がいないことだった。

「言ってみれば、社長も財務部長もいない会社ということ」。東京五輪を巡っては、東京都、組織委員会、JOC(日本オリンピック委員会)、日本パラリンピック委員会、文部科学大臣、五輪担当大臣という6者が「調整会議」という場で重要事項を審議するという形になっていた。

だが、この会議はこの半年でもわずか2回、数時間しか開かれておらず、何も機能していなかった。

トップがいないのであれば、決まるものも決まらない。この構造のもと、第二の問題が出てくる。「都職員の社会を知らないビジネス慣行」である。

各競技の会場について任せられた都職員は招致時のプラン──臨海地域の選手村から半径8キロメートル以内──に忠実に計画を進めた。その条件だけで限定してしまえば、立地に余裕がないため、コストを上げてでも条件に対応しようとする。また、前述のように、コストの総額をチェックする人間もいないため、個々の費用は制限なく積み上げられる形になった。

民間企業の取引であれば、こうした杜撰な見積もりは絶対に起きえない。建設費であれば、設計図はもちろん、資材やパーツの選定まで含めてコスト管理をし、合理的な価格を導く。

それでも、決裁者に目を通してもらう際は、何度も検証させられる。それが一般企業のコスト意識であり、ビジネス慣行というものだ。コスト感覚のない都職員にこれだけの大きな事業を任せてしまったのが、まずは間違いだったとは言える。

付け加えるなら、これが税収の少ないほかの道府県であれば、話も違っていただろう。いかに国から補助金を得たとしても、小さくない税負担を市民に求めるのであれば、むやみに高いコストは許容できないからだ。だが、幸か不幸か、東京はお金だけはある。それがおかしなコスト増を加速させた一因だろう。

だが、一連の問題で、もっとも罪深く映るのは第三の要因、「元首相」「元大蔵次官」といった大物名誉職の存在と「虎ノ門」という伏魔殿である。

今回の2020年東京五輪で、「国際オリンピック委員会(IOC)」と契約をしているのは、開催地となる「東京都」と「JOC」の二者しかない。重要なところなので念押しで記すが、契約の当事者には「政府」も入っていないし、「組織委員会」も入っていない。

そしてIOCから権限委譲をされているのは「組織委員会」なのだが、この組織委員会は東京都の外郭団体で、その出資金の97.5%(約57億円)を東京都が出していた。9月末の報告書が上がってから、組織委員会は東京都に出資金の返還を申し出て、11月末までに57億円は返還される予定だが、それまでの関係で言えば、組織委員会は東京都の下請け機関にすぎなかった。その長が森喜朗氏で、事務総長が大蔵事務次官だった武藤敏郎氏である。 

構造的に言えば、組織委員会は東京都の意向を汲み、東京都の方針のもと動くべき存在だったはずである。

だが、これまでの報道から浮かぶのは、組織委員会は都との連携を密にしているわけでもなく、ほぼ個別に活動をしてきたような状態だった。なぜなら(五輪後にも有形無形で貢献するという)「レガシープラン」では東京都と組織委員会のそれぞれで別々のものがつくられていたのである。いかに連携がなかったかがうかがえる。

そうした問題が露見していく中で、大物名誉職の人たちはいったい何をしていたのか。90年代半ば、霞が関で官僚問題が出てきた後、猪瀬直樹氏が『日本国の研究』(文藝春秋)として引っ張りだしたのが、虎ノ門という地区に潜む特殊法人の問題だった。

官僚は事務次官を目指す出世レースに落ちこぼれると、定年前に退職していく。その先に就くのが天下りとしての特殊法人だった。

各省庁にひもづいて予算をもらい、ちょっとした事業を請ける。民間企業であれば3日で終わるような事務仕事を1カ月かけて行う。それだけ生産性が低いにもかかわらず、理事への報酬は年数千万円が支払われる。こうした仕組みが「虎ノ門」問題だった。

おもしろいことに、いま問題の組織委員会も拠点を置いているのは虎ノ門である(虎ノ門ヒルズ)。組織委員会は国ではなく、東京都の外郭団体。少なくない報酬・待遇で大物政治家や官僚に役職を与えて回してきたのがこの団体である。

国からお金を引き出し、大きな事業を行えば、それだけで特殊法人は「何かやった」という体裁になる。それが天下りが集う「虎ノ門」に長年潜む病理だった。今回の東京五輪問題も、結局は似た仕組みのもとで問題が放置されてきたのではなかったか。

東京五輪の組織委員会が拠点を置く虎ノ門ヒルズ

名誉職の人たちは、「よかれ」と思って決裁をしてきたのかもしれない。だが、それは本当に都民や国民の目線に立っていただろうか。都民への調査も行わず、大きな事業案ばかり膨らませて「都民のため」と言われても、何を根拠にそう信じていいのかもわからない。「虎ノ門」の人たちは、都よりも都民を説得できる根拠や論理をまずは提示すべきだろう。
 
最後にもうひとつ、気になっていることがある。同じく紛糾している、豊洲市場との関連だ。虎ノ門ヒルズができ、臨海の五輪会場へ抜けるという環状2号線ができたのは2014年3月。

この道はかつて進駐軍のダグラス・マッカーサーが命じて建設が始まったが、用地取得で難航し、途中で建設が中断されていた。だが、晴れて「マッカーサー道路」が開通したことで、築地市場の移転計画と連動し、その道はさらに豊洲へとつながろうとしている。

この道路の建設は2005年に着手されたものだが、2001年の12月の豊洲市場への移転決定といい、今回の東京五輪の決定といい、臨海部の再開発もじつにうまく連動していることに気づく。

実際、築地市場が豊洲に移転しないことには、このマッカーサー道路も開通せず、再開発もうまく回らない。その意味で、ゼネコンにとってはどちらも巨大なプロジェクトとして、五輪も豊洲もつながっているのである。

いったい誰がこの絵を描いてきたのだろう。こうすることで誰が儲かるのだろう。そう考えると、想像は膨らむばかりなのである。

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