「目算狂った」

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シリア攻撃で台湾への武器売却めぐる目算狂った習近平氏 首脳会談で「一つの中国」話題にもならなかった?

米南部フロリダ州で6、7の両日行われた米中首脳会談は、その最中に米国がシリアへの巡航ミサイル攻撃に踏み切ったことで、世界の関心が薄れた感がある。

中でも、米国の台湾への武器売却は、これを阻止しようとした中国側の思惑がシリア攻撃で外れた可能性が指摘されている。「一つの中国」をめぐる米中の応酬がほぼ平行線をたどっていることも、今後の武器売却に影響してきそうだ

複数の米メディア(電子版)は8日、AFP通信の記事を引用し、情報筋の話として、中国の習近平国家主席(63)が、米国で70万人以上の雇用を生み出す投資を計画していたと報じた。習氏がその見返りにドナルド・トランプ米大統領(70)から引きだそうと期待していたのは、中国製品への制裁関税に対する何らかの保証と台湾への武器売却の延期。

売却延期期間は「少なくとも年内の中国共産党大会後まで」といい、その控えめさからは今秋の第18回党大会に向けた習氏の切迫感が伺える。

これに対し、台湾の蘋果日報は9日付で、台湾の情報当局者の話として、習氏がトランプ氏との夕食会でシリア攻撃を知ったことで、予定していた米国への巨額投資の発表を行わなかったと報じた。会談後の米側の説明によると、習氏は米国のシリア攻撃に「理解を示した」とされていた。

だが、報道が正しければ、習氏は事前に臆測のあった「米国への手土産」を実際に用意していたものの、シリア攻撃で面目をつぶされ、少なくとも発表は中止。その結果、台湾への武器売却延期も、現段階での取り付けに失敗したことになる。

対中貿易赤字削減に向けた今後の「100日計画」の中で、こうした案が実現する可能性も残っているが、首脳会談という直接の取引の場で成果を得るという習氏の目算は狂った形だ。

また、首脳会談では、台湾は中国の一部だとする「一つの中国」が予想に反して大きな話題とならなかった。

会談後、米中双方はそれぞれ記者説明を行ったが、ティラーソン国務長官らが行った米側の説明、訪問団が米国を離れた直後の中国側の国営メディアの報道のいずれにも「一つの中国」に関する発言はなかった。このため、台湾を含む海外メディアの間には一時、この問題でやり取りがなかったとの観測すら流れた。

だが、中国側は8日になり、国営新華社通信や外務省の公式サイトが、王毅外相が記者団に語った内容として、台湾問題とチベット問題を並列する形で「3つの米中共同声明と『一つの中国』政策に基づき適切に処理するよう米側に求めた」と公表した。

2月の電話会談で、習氏は中国が主張する「一つの中国」原則の受け入れを要求し、トランプ氏が「われわれの一つの中国政策」の「尊重」を表明した経緯がある。米国の「一つの中国」政策には、中国側が容認しない台湾関係法が含まれている。

今回、習氏は従来から中国が主張している「原則」ではなく、米国の「政策」の堅持を求めることで、要求水準を下げた。米国家安全保障会議のポッティンジャー上級部長は5日の事前記者説明会で、トランプ氏が2月の電話会談で、「われわれの一つの中国政策」を「再確認」したと強調。

中国側がこの問題でのトランプ政権の意志は固いとみて追求を避けた可能性がある。

台湾関係法の最重要点は、台湾への防衛的な武器供与だ。さらに、トランプ政権は台湾関係法に関連し、1982年にレーガン政権が台湾に対して行った「6つの保証」も重視している節がある。

「6つの保証」は、同年に米中が出した3つ目の共同声明(第2次上海コミュニケ)で、台湾への武器売却の漸減を約束したことに反発した議会共和党の意向を受けて台湾側に確約したもの。「武器売却の終了期限を設けない」などとしているが、さらに、武器の質や量は中国の脅威との比較で決められるとの米側の「解釈」が付けられたとされる。

トランプ政権がこれに忠実に従えば、オバマ政権下で停滞してきた台湾への武器売却が質量ともに転換する可能性がある。

台湾側には、トランプ政権が最新鋭のステルス戦闘機F35Bの売却に同意するのではないかとの期待もある。長年、F16C/Dの売却を求めてきた台湾から見れば、一足飛びの空軍力強化になる。一方、短距離離陸・垂直着陸(STOVL)型のF35Bが台湾の手に渡れば、緒戦に弾道ミサイルで台湾空軍の滑走路を一斉に破壊する中国側の戦略に狂いが生じることになる。

台湾への武器売却をめぐる米中の駆け引きは、首脳会談を経てなお複雑さを増している。

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