「媚びてみたが」

画像の説明
中国に媚びたが“冷や水”…目が覚めたハリウッド、買収案件「金ない」次々ご破算の深い事情

中国の不動産開発大手、大連万達集団(ワンダ・グループ)を率いる中国一の大富豪、王健林(ワン・ジェンリン)会長とのインタビューが掲載された英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT、電子版4月19日付)。この中で王会長は米の有名なテレビ制作会社、ディック・クラーク・プロダクションズ(DCP)の買収をご破算にしたことを認めた…

さて、今週ご紹介するエンターテインメントは、久々となるハリウッドねたでございます。

本コラムではこれまで、2013年4月21日付の「検閲大国・中国に屈する悲しきハリウッド…『世界2位の映画市場』札束で頬を叩かれ」などで、恐らく今年、米を抜き世界最大の映画市場に成長するとみられる中国にハリウッドが媚(こ)びまくっているトホホな状況について、何度も何度もご説明いたしました。

▼【関連ニュース】検閲大国・中国に屈する悲しきハリウッド…『世界2位の映画市場』札束で頬を叩かれ

その一方で、昨年の9月16日付「中国に媚び『万里の長城』映画、でもマット・デイモン主役…ハリウッドご都合主義“人種差別”世界が激怒」、中国の映画ファンが、ハリウッド映画の“ご都合主義”に疑問を持ち始め、国産の映画になびき始めている状況といった、風向きの変化についてもご紹介しました。

▼【関連ニュース】中国に媚び『万里の長城』映画、でもマット・デイモン主役…ハリウッドご都合主義“人種差別”世界が激怒

そんな中国とハリウッドの関係なのですが、ここにきて予想外の展開に突入しているのです。どういうことか?。平たくいえば、ハリウッドが中国を信用しなくなってきているのです。今週の本コラムでは、この件について詳しくご説明いたします。

■「GODZILLA ゴジラ」も買った中国…

4月20日付米経済ニュース専門局CNBC(電子版)などが驚きをもって報じているのですが、中国一の大富豪、王健林(ワン・ジェンリン)会長(62)率いる中国の不動産開発大手、大連万達集団(ワンダ・グループ)が、米の有名なテレビ制作会社、ディック・クラーク・プロダクションズ(DCP)を昨冬、10億ドル(約1090億円)で買収すると発表しておきながら、これを突如、ご破算にしたのです。

ワンダ・グループといえば、2012年に米第2の大手映画館チェーン、AMCエンターテインメントを26億ドル(約2800億円)で買収し、世界最大規模の映画館チェーンを抱える存在に。

そして、2013年には中国東部・山東省の青島に総額500億元(約80億ドル=8700億円)を投じ、撮影スタジオや映画が題材のテーマパークなどを有する大規模な“中国版ハリウッド”を建設する計画を公表。
米エンタメ界を代表する企業も丸飲み中国、テレビ業界にも影響力…ところが

また昨年1月にはハリウッドの大手映画制作会社で「バットマン」の「ダークナイト」3部作(2005年~2012年)や「GODZILLA ゴジラ」(2014年)などを手掛けたレジェンダリー・ピクチャーズを35億ドル(約3800億円)で買収するなど、不動産バブルで儲けまくった潤沢(じゅんたく)すぎる資金にモノを言わせ、世界の映画産業のトップに登り詰めんばかりの勢いを誇っていました。

実際、その流れの中で、昨年11月3日付の米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)などが、ワンダが今度はDCP買収を発表したと報じたのです。

■米エンタメ界を代表する企業も丸飲み中国…ところが

ちなみにこのDCPは、1957年、米フィラデルフィアで設立され「アメリカン・ミュージック・アワード」や「ゴールデン・グローブ賞」、「ハリウッド・フィルム・アワード」、「ミス・アメリカ」といった著名な賞の運営や制作などに携わる米エンタメ界を代表する企業のひとつです。

ワンダは買収の発表に際し「この買収はエンターテインメント業界におけるワンダの(勢力)地図拡大のための大きな一歩である」との声名を発表。また同時に、買収後もDCPの経営陣はそのまま残るとの考えも明かしました。

1090億円を投資…だが中国政府が資本規制、そして米国の安全保障を…

この買収でワンダはハリウッドに加え、米のテレビ業界にも大きな影響力を持つようになるだろうといわれていたのですが、これが突如、ご破算になったのです。

こうした例はワンダとDCPだけではありません。今年の3月8日付の米業界紙デーリー・バラエティや翌9日付の米業界誌ハリウッド・リポーター(いずれも電子版)が伝えていますが、昨年11月、米大手映画会社のパラマウント・ピクチャーズが、上海電影集団とホアホアメディアの2社から3年間で10億ドル(約1090億円)の投資を受ける契約を結んだですが、この契約が守られず、パラマウント側に全くお金が支払われていないことが明らかになったのです。

契約ではこれから3年間、パラマウントが製作する映画の製作費の25%をこの2社が負担するという内容で、本来なら既に1億4000万ドル(約150億円)がパラマウント側に支払われていなければならないのですが、何と1円も支払われていなかったと言います…。

■少し考えれば分かる…中国政府が資本規制、米国の安全保障を…

なぜこんなことになったのか?。理由は簡単。近年、中国からの人民元流出が止まらないため、昨年末、中国政府は元安防止のための資本(通貨)規制を強化したのです。そのため、ワンダ・グループや上海電影集団、ホアホアメディアでは、買収のための巨額の資金(外貨)調達ができなくなったのです。

中国による買収、米国の議員たちが反対…そして

4月19日付の英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT、電子版)は、ワンダ・グループの王会長のインタビューを掲載しているのですが、その中で王会長はDCPの買収断念の最大の理由がこうした中国政府の資本規制の強化だったと明言。

そして「政策は両方で変わった。(米中)両国が政策を変更したのだ。米の一部の人々は買収に同意せず、中国政府もいくつか政策を変えた。なので買収を断念した」と認めたのです。

このインタビューで王会長は、米側の“意見の相違”が買収のご破算に与えた影響について具体的に述べず、米側による買収阻止の公的な証拠も示しませんでした。

しかし、前述のFTは、一部の米議員たちが、中国資本によるこうしたハリウッドやメディア企業の買収に懸念を示していると説明。その例として、昨秋、18人の米議員が、米産業に対する海外からの戦略的投資を制限する既存のルールを再考するよう政府監査院に要請した件を挙げました。

彼らはこの要請に関する公開書簡の中でこう書いています。「(中国側からの)プロパガンダやメディア・ソフトパワー系企業をコントロールしようとする動きへの懸念に対処するため、国家安全保障の定義を広げるべきだろうか?」

平たくいえば“中国による米の娯楽・メディア産業への巨額投資や買収を許しておけば、そのうち国の安全保障を脅かす事態が起きる”というわけです。当たり前ですね。米もようやく事態の重大さに気付いたようです。

そして、当然ながら、こうした中国企業側の突然の契約不履行に、ハリウッドでは不安と怒りの声が高まっています。

米と中国でビジネスを展開する映画製作会社パシフィック・ブリッジ・ピクチャーズの社長で、中国の映画業界の動向を伝える英文ニュースサイト、チャイナフィルムビズの創設者でも知られるロバート・カイン氏は前述のCNBCに「中国政府の資本規制強化によって、(中国企業の)資金調達が極めて困難になった」と明言。

さらに「ハリウッドがこうした中国資本との取引に多くの疑念を抱くようになっている」と指摘し「米国側は、中国側の投資家のポテンシャル(将来性、潜在能力)を調べる高度な知識を持ち合わせていない。そのためには専門チームが必要で、中国で現地調査する必要がある。中国市場について学ぶには多くの時間が必要だ」と警告しました。

■不動産、ハイテク、映画ハリウッド…中国の投資は倍増25兆円

中国に媚び続けてきたハリウッドが、当の中国から冷水を浴びせられたような今回の一件ですが、事はハリウッドだけにとどまりません。

前述のCNBCは、不動産業界やハイテク業界、そしてハリウッドの金融取引について調べている英調査会社ディアロジックのデータを引用し、中国からの海外投資額は昨年、対前年比で約2倍の2250億ドル(約24兆5400億円)を記録したが、現在の海外企業買収案件は、特にハリウッドにおいて、過去の記録的な状況のほんの一部にまで減少していると説明。

さらに、投資銀行などと深い関係にある映画会社の幹部の声として、米のメディア、ハイテク、エンターテインメントの各業界と中国との国境をまたぐ取引が、過去半年間で少なくとも十数件、資金枯渇の状況でストップしていると報じました。

実際、中国のハイテク・エンタメ複合企業LeEco(ル・エコ、楽視)が昨年、ロサンゼルスのテレビメーカー、ビジオを20億ドル(約2200億円)で買収すると発表したのですが、これも今年の4月、ご破算に…。

札束で頬(ほほ)を叩くような下品な巨額買収を続けてきた中国が、自らそのやり方を封印してしまった影響が、ハリウッドだけでなく、米中関係にも今後、大きな影響を及ぼすのは必至です。 

コメント


認証コード1259

コメントは管理者の承認後に表示されます。