「まじめにやれ」

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今こそ、反対のための反対をやめ、政治をゲームの如(ごと)く扱わない姿勢を示すときだ。

18日、英国のメイ首相が総選挙実施を表明した際、野党に呼びかけた言葉だ。同時期日本では衆院法務委員会で、テロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案の審議が始まった。今回は立法に関する日本と欧米諸国との考え方の違いについて考えてみたい。

共謀とは英語でコンスピラシー、つまり「徒党による謀議、合意」を意味する。英米法では「反社会的な目的を達成するため秘密行動を決意する」行為自体に刑事責任が問われる。

英国の共謀罪は「コモンロー」、すなわち中世以来イングランドで発展した伝統、慣習、先例に基づく判例法の一部として確立したそうだ。これに対し共謀罪が成文法上の犯罪である米国でも、その定義は英国のコモンローに基づくという。法案に反対する識者は英米で共謀罪が労働運動や反戦運動に適用されたことを批判している。

では、英米以外はどうか。欧州大陸諸国は英米的「判例法」ではなく「成文法」主義だ。興味深いことに、大陸諸国の多くは組織犯罪に対して「徒党による合意」ではなく「犯罪組織への参加」自体の刑事責任を問う。つまり、具体的行為に関する共謀がなくても、その種の組織に参加するだけでアウトなのだ。

OECD(経済協力開発機構)加盟35カ国をみると、上記のような英米法的「合意罪」を採用する国が7カ国、大陸法的「参加罪」採用が13カ国、両者を併用する国が14カ国となっている。もうお分かりだろう。最後の1カ国、すなわち「合意罪」も「参加罪」も採用していない唯一の国が、わが日本なのだ。

日本の刑法体系は「法益侵害行為」のみを罰する古典的建前が基本だから、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)が求めるような「合意罪」または「参加罪」のいずれも刑事責任を問えない。しかし、IT技術の発達により情報の処理伝達速度が飛躍的に向上した21世紀に侵害行為の発生を待っている余裕はない。

法務委員会での法案審議を見聞きして違和感を覚えたことがある。一部マスコミが「法案審議の際、常に法務省刑事局長の出席を認める」前代未聞の採決が行われたと報じたからだ。野党側は「法務大臣隠し」と批判しているそうだが、筆者にはなぜ問題なのかさっぱり分からない。

誤解を恐れずに言えば、日本は「判例法」主義でも、「成文法」主義でもない、「国会答弁法」の国だ。法律の解釈運用は関連国会答弁が国会議事録に掲載されて事実上確定していく。

法案に反対する側は、国会答弁が混乱し解釈運用が決まる前に廃案にしようとする。これに対し、守る側はしっかりとした答弁を議事録に残そうとするのだ。日本が「国会答弁法」主義を続ける以上、今回のような国際条約批准のための重要法案制定の際は、国会の関連委員会質疑の中で刑事局長のような法律の専門家が審議に加わるのも当然ではないか。

法律の専門家の答弁を封じ、大臣の「問題答弁」を引き出そうとする昔ながらの戦術は冒頭引用したメイ首相の「反対のための反対」そのものではないか。

テロ等準備罪は対象が組織的犯罪集団に限られる。一般人は調査対象とはなっても、捜査対象になる可能性は極めて低い。TOC条約は既に世界の187カ国・地域が締結した。世界のテロリストがネット技術を駆使し、ネット上で重大テロ事件を計画・実行する現実に鑑みれば、オリンピックなどのスポーツイベントの有無にかかわらず、日本が新たに立法措置をとるのは至極当然であろう。

277もの犯罪が対象で冤罪(えんざい)を生む恐れがあるとの批判には運用の厳格化で対処すればよい。そのためのプロ・専門家による国会審議ではないのか。やはり、客観的に見て、テロ等準備罪創設の機は熟していると考える。

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